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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンと輝石
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花屋と剥奪屋と王子とスリと

「買い出しをしていたらエレナさんに会いまして。ご挨拶がてらお話したらロアさんの家への配達だとのことで、荷車が重そうでしたし少しお手伝いをしたんですよ」

「ありがとねアネッタちゃん。荷下ろしも手伝ってくれて助かるわ」


 どうせ私が金を出すからだろう。マルクは遠慮なく大量に花を買ったようで、大きめの荷車には多くの植物が積んであった。

 昨日は店内をじっくり見ていなかったが、花屋と言っても花だけを扱っているわけではないらしい。小さめの植木や鉢植えもある。もちろん根の部分が古い新聞紙で巻かれた地植え用の花もあって、小さな物は箱詰めされて積まれていた。


「アネッタ殿は花屋の彼女とお知り合いだったのか?」


 ピペルパン通りの住人ならばすでにスキル輝石の存在を知っていてもおかしくない、という理由で花屋に勧誘に行ったのだから、それはアネッタ殿のことを知っていてもおかしくないということではある。

 だから花屋がアネッタ殿のことを知っているのは、むしろ期待通りだったということなのだが、まさか世間話の流れで仕事を手伝うくらいに親しいとは思わなかった。


「エレナさんは姉の友人ですね。子供の頃からお世話になっています」

「あら、わたしはアネッタちゃんのことも友達だと思ってるけれど?」


 エレナ殿がニコニコと親しげな笑顔を見せる。そういえば、彼女は姉がいるとグレスリーの調査書にあったな。


「んん? なんだよ、めっちゃ草がきたな。どうするんだこれ」


 食べ終えたのか、それとも食事を中断してきたのか、やって来たシシが驚く。


「どうするもなにも、育てるのだよ。お前がな」

「はぁっ?」


 シシが素っ頓狂な声をあげるが、なにをそんなに驚くことがあるのだ。地植えのものは最初は面倒かもしれないが、基本的に水をやるだけだろうしそこまで大変でもないだろう。


「せっかく庭があるのだし、ちょうど少し華やかにしたいと思っていたところなんだ。植物の説明をエレナ殿からよく聞いておくといい」

「ええ、一種類ずつご説明させていただきますね。そんなに難しいものはありませんし、注意事項は一応メモに書いて用意していますので、初心者の方でも大丈夫ですよ。アネッタちゃん、ごめんだけどお願いしていい?」

「はい。荷下ろしはやっておきますね」

「マジかよ……」


 花屋のエレナ殿は植物のことが好きなのだろう。嬉々として説明をし始め、シシはウンザリした表情になる。

 その間に、アネッタ殿が荷車から植物を庭に降ろしていく。


「アネッタ殿。手伝おう」

「いいのですか? ありがとうございますロアさん」

「私の家のものだからな。当然だとも」


 そもそも彼女は花屋の従業員ではないのだから、ありがとうもなにもない。なんなら隣人に働かせて申し訳ないほどだ。彼女が働いているのに、私が動かないわけにもいかないだろう。

 とにかく重そうなものから順に降ろしていく。一番大きな植木はそれなりの重量があった。


「その……ロアさん。もしかしてですが昨日の輝石は、あの子に渡すつもりですか?」


 荷下ろしをしながらアネッタ殿が聞いてくる。

 彼女は緑の手を私に譲ってくれたのだし、私は自分ではなく他の者に輝石を渡すと説明した。昨日はシシを紹介したし、そして今日の大量の植物だ。さすがに気づくだろう。


「ああ、その通りだ。せっかく譲ってもらったが緑の手に適合しそうな知り合いに心当たりがなかったので、試しに育ててみることにした」

「そういうことをする方は初めてですね……」

「そうなのか? まあ渡されたらその場で試すことの方が多いだろうしな。もし失敗したら君に剥奪を頼むことになると思うから、そのときはよろしく頼む」


 今回の試みは実験という側面が強い。もちろん成功してくれた方がいいし、シシに期待もしているが、失敗するならそれでいいとも思っている。

 だが失敗した場合、貴重な緑の手は回収するのがいいだろう。


「緑の手のために、スキルを習得するための下地を作っておく……ううん、あそこの環境を整えると考えれば……うーん……」


 ふと気づくと、アネッタ殿が思考に囚われたような面持ちで荷下ろしの手を止めていた。


「なにか気になることでも?」

「あ、い、いえ。その――少し興味があるんです。ロアさんのやろうとしていることに」

「興味?」

「えっと、うちの棚に眠っているスキル輝石は、多くがハズレスキルです。ですが人によっては有用かもしれなかったり、もし制御できたらかなり良スキルになりそうなものもあるのですよね」


 ハズレスキルにもいろいろある。私の持っていた威圧も戦場では有用なスキルだったからな。

 以前アネッタ殿の客だったトルティナという少女のサーチスキルも、今はマルクが便利に使っている。……いや、あれは元々有用なスキルだったか。というかあいつ、悪用してないといいんだが。


「でも狙ったスキルになるかどうかの責任が持てなくて、なかなか人に勧められないでいました。けれど、事前に準備することで確度が高まるのであれば……と思いまして」


 そういうことか。アネッタ殿は慎重な性格だからな。

 きっと他にもたくさんスキル輝石の在庫があるのだろう。あの棚の引き出し、時空の歪みとかうまれてなければいいが。


「今回の場合だと、植物育成に関するスキルをすでに持っていれば、確度は上がるかもしれません。たとえば植物の健康状態……肥料や水がどれだけ必要か、病気にかかってないかみたいなことが分かる観察スキルとかがあれば、呼び水のような効果を期待できる可能性がありますね」


 なるほど、緑の手ではなくとも植物関連のスキルはあるから、それに連動させる、という感じか。やはりアネッタ殿はスキルに関する造詣が深い。

 植物関係の習得スキルについて調べておこう。アネッタ殿が例に出した観察眼のスキルも良さそうだ。

 ただ……スキルを習得する、というのは簡単なことではない。もしまったく今まで触れてこなかったジャンルの新スキルを短期間で手に入れようとするならば、そうとう本気で訓練しなければならないだろう。



「ご存じの通り、わたしがスキル剥奪をした直後は新しいスキルが発現しやすくなります。もしあの子に不要なスキルがあって、それを剥奪した状態でこの量の植物を世話すれば、植物関連のスキルが発現しやすくなると思うのですが……試してみますか?」



 そう提案されて、私は二度まばたきする。


「あ……その、もちろんわたしが言い出したことなので、お代は必要ありませんよ」


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― 新着の感想 ―
かわいそうに… まさかスキル剥奪実験の素材にされるとは夢にも思わなかっただろう 人生が狂うな!
あれだけ人の関わりに慎重ですぐ後悔と反省しちゃうのにいきなり実験台にすることに積極的に動くとかどうしちゃったん?
剥奪屋さん、割とマッドよね。
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