剥奪スキル
剥奪スキル発動は、水に潜る感覚に近い。
とぷん、と相手の精神? 魂? の中に潜る。そこは明るくて、広くて、どこか神聖な感じがして、無数の光が浮かんでいた。
この光が、その人が持つスキル。
人は誰でもいくつかはスキルを持っている。すごい人ならば十も二十も持っていることがある。
けれどわたしは知っている。それはその本人が持っていると認識しているものだけの話で、人が潜在的に持っているスキルはもっと多い。
もっとも、それは本当に些細なものだったり、あるいはまだスキルとして形を成していないものだったりすることが多い。
……たとえば、今わたしが触れているのは呼吸のスキル。
ほんの少し呼吸をしやすくするもの、だと思う。あんまり詳しくは分からないけれど、なんとなくは分かる。イーロおじさんは高山とか、洞窟とか、酸素の薄い場所にでも行くのだろうか。
本人が認識すらしていない、あるいはしていても所持スキルだとカウントしないようなスキルは、他にもいろいろ。これがあると汚い字でも読めるんだろうなってスキルとか、長時間座っていても腰が痛くならなさそうだなってスキルとか、これって地中のものを綺麗に掘り出すスキルなのかなとか、なんだかイーロおじさんは特にそういうのが多い。
そんなスキル群をかき分けるように、お目当てのものを探す。わたしのスキルで相手の内を探っていく。
毒耐性。それが進化した毒精製スキル。特定条件での発動型。
たぶんこれ。
目当てのものを見つけて、意識を集中する。本人との繋がりを解くように、スキルを包み込むように。
難しいことをやっていると思ってもらえるよう必要以上に時間をかけて、けれどその分なるべく丁寧に。
剥奪する。
「終わりました」
重ねた手を離す。そしてその手をクルリと返せば、内にはできの悪い宝石のような輝石があった。
黄土色とド紫のマーブル模様。うん、さすが毒のスキル。毒々しい色だ。
「体調に問題ありませんか? もし気分が悪いようでしたら、すぐにスキルを戻してください」
「あ、ああ……大丈夫。キノコの毒は問題なさそうだ」
「では、間違ったスキルを剥奪していないか確かめますので、こちらを握ってみてください」
わたしは少しドキドキしながら、テーブルの端に置いてあったペンを差し出す。お気に入りだけど、最近は先がヘタってきたので壊れてもまあいい。確認は大事だ。
イーロおじさんが恐る恐る受け取る。――ペンは溶けなかった。
「これで剥奪は終わりです。お疲れ様でした」
ニコリと微笑む。
これも営業用の仮面。けれど少しだけ、こんなわたしでも人の役に立てたことが誇らしかった。