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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンとスキル学
52/161

天啓の王女

 王位継承権第三位にしてスキル学研究の第一人者。救国の王女。宮廷魔術師団の若き長。天啓のセレスディア・エルドブリンクス。

 そんなのがわたしの店に来た。


 エグい。


「お初お目にかかります、セレスディア・エルドブリンクス様。スキル剥奪屋のアネッタと申します。王家の方に知っていただいていたとは光栄ですわ」


 速攻で営業用の心の仮面を被った。わたしはスキル剥奪屋だ。それ以上でも以下でもないお店の主である。人格などいらない。


「ふむ……中央区から外れた場所の平民でも妾のことは知っているのか。ミクリの言うとおり、王都では姿を隠さなければならないようだ。無用な騒ぎを招きかねん」

「もちろん存じています。王国で一番国民の人気が高い王族ですからね。第一王子様を知らない幼子でも、あなたの顔は知っているでしょう」

「民は有力者の失脚が好きだからな。おかげで王権派にも議会派にも嫌われているよ」


 予知や叡智を授かる天啓スキルで、腐敗した有力者を次々と告発した結果ですよね。一時期大混乱を起こしていましたし、そりゃあ嫌われるでしょう。

 あれは議会派勢力の力を削ぐための王権悪用だったとか、その混乱が南の国との戦争を呼んだのだとかいろいろ言われて政治から遠のいているけれど、庶民からは王様よりも人気を集めている御方だ。噂では次の王様はセレスディア様に、という署名活動をしている市民団体まであるらしい。


「それで、先ほどスキルを剥奪してほしいと言われましたが……」

「ああ、天恵スキルを妾の中から消してくれ」


 どうしてそんなことになるのか。


「まずは……こちらへどうぞ」


 とりあえず、王族の方を立たせたまま、というのはよくない。わたしはいつものお仕事のスペースへ、セレスディアさまを促す。


「ほう、ここがあなたのスキル発動の場なのだな。なるほど」


 物珍しそうに見回しながら、セレスディア様は驚くほど姿勢正しくソファへ腰掛ける。

 わたしはいつもの水晶玉とお香を用意しつつ、実のところはそうして時間稼ぎしつつ、頭をフル回転させていた。


 ――考えなければならない。この危機をどう切り抜けるべきなのかを。

 平民たちのアイドル天啓のセレスディア。その二つ名の天恵スキルを、わたしが剥奪する? あの南部戦線の開幕になった奇襲を見事に見破って迎撃した国宝級のスキルを?

 そんなことをしていいの?


「当店にはいわゆる、ハズレスキルをお持ちのお客様がよくお越しになります」

「だろうな」


 腰掛け、話を始める。視界の端で玄関脇に立つミクリさんが見えた。ちょうど昨夜、マルクさんが立っていた位置。

 ミクリさんが王女様とどういう間柄なのか知らないけれど、たぶんあれは警戒のためだろう。もしかしたら彼女も軍人さんなのかもしれない。……ロアさんが隣に潜伏しはじめたのと同時期に引っ越してきた人だし、もしかしたら彼女もロアさんの部下なのかも?


 いや、今はそんなことは些事だ。


「ハズレスキルは様々です。危険や嫌悪感を伴う効果だったり、他のスキルを使用するときに干渉してしまったり、有用だったものでも身を置く環境が変わったら有害になることもあります。副作用が強すぎて体調不良になる、という例も少なくありません。多くは制御しきれないスキルになりますね」


 おそらく必要のない説明をする。セレスディア・エルドブリンクスといえば天恵スキルの研究者でもある。こんな話は司祭様に教典を読み聞かせるようなものだ。

 だからどちらかと言えば、これは自分が落ち着くための間だった。


「天啓スキルには、なにか重大な欠陥があるのですか?」


 そうだ。天啓スキルにはなにか、とんでもない副作用があるのかもしれない。それこそ寿命を削るような、とんでもないものが。


「ふむ」


 対面に座る――なんでこの人、わたしの前に座っているんだろうと思ってしまうけれど――セレスディア様は、わたしの顔を観察するように眺める。あまり見ないでほしい。できれば興味を持たないでほしい。これが終わったらすぐに記憶から消してほしい。


「まず、制御はできない。天啓は気まぐれで、いつもいきなり発動する。今のところ条件は分かっていない。妾の意思で発動することも止めることもできない」


 おおう、ハズレスキルの条件を一つクリアしてしまった。まあでも、そうか。ご自分の意思で使えるのであれば、この世のあらゆる物事が解明されてこの国はもっともっと発明品に溢れているだろう。


「だがスキルそのものによる害はないな。脳に情報が一気に入ってくるから軽い目眩くらいはするが、大したことはない。季節の変わり目の頭痛の方がよほどツラいな」


 あ、偏頭痛持ちなんですね。わたしも少しだけどあるから分かる。

 でも我慢できる程度なら圧倒的に有用さが勝つじゃないですか。


「では、どうしてスキルを剥奪されたいのか、理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「ふむ……」


 わたしが問いかけると、王女様はまたわたしを観察するように眺める。本当にやめてほしい。

 さっきよりも二秒長く見つめられた後、彼女は口を開く。


「逆になぜ聞く? あなたはスキル剥奪屋なのだろう?」


 逆に聞き返されてしまった。

 たしかにわたしはスキル剥奪屋さんで、それが仕事だ。だから取れと言われたなら取ればいい。それで一秒でも早くお帰りいただくのが、わたしの精神的にも一番いい。

 なのになぜわたしは会話を始めたのだろう。唯一無二の天啓だ。他のスキルと間違えて剥奪することもないし、いつも質問しているスキルの詳細なんて今回はまったく必要ない。


 いったいどうして、わたしはそれを聞くのか……?



「面白がっているだけであれば、お断りしようかと思いまして」



 言い方を間違えた。

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― 新着の感想 ―
よく言ったアネッタ。後で盛大に吐きそう。
コミュ障を証明するような直球セリフに笑っちゃった
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