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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンとスキル学
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スキル学の講義

「以前も話したと思うけれど、スキルの中でも天恵と覚醒は発現することが珍しく、そして希少かつ強力な効果を発揮することが多いんだね。これは人間が努力して習得するスキルと違って、その個人が持つ潜在能力が解放されたカタチであると考えられるからなんだ」


 教壇に立ち、講義を行う。

 もう何度か繰り返した内容だ。一年に一回、同じような講義を行う。ルーチンワークと言うには間隔が長いが、慣れたものではある。


「たとえばこの国の第一王女様を知らない者はいないだろうけれど、彼女の天恵は天啓、つまり未来予知や正誤判断などの知恵に関するスキルを所持している。先の戦争はあのスキルのおかげで、開戦宣言と同時に行われた敵国の奇襲作戦を返り討ちにすることができた。これは天恵スキルが国家の命運まで左右した例の最新のものとして記録されているね」


 時事ネタ……というには少し旬が過ぎているけれど、まだまだ記憶に新しいだろう話を交えつつ進めていく。こうしたスパイスも入れて生徒たちの興味を引くのも教授としての手管である。


「しかし現在のスキル学研究では、天恵、覚醒スキルの成果はあまり出ていない。なぜなら例が少ないために研究対象が限定されるからだ。王女様にそのスキルがすごく気になるので研究させて下さい、なんて言えないでしょ? みんなだって持っている習得スキルや進化スキルの方がよほど研究しやすいのだよね。だから皆も悪いことは言わないから、レポートを書くにあたって天恵や覚醒は選ばないように」


 しかし、やりにくい。

 こんなさわりの内容で詰まることはないけれど、それでも教壇に立ちながらそう思ってしまうのは、視界にチラつく異物のせいだろう。


「とはいえ、今日は覚醒スキルについての講義だからね。希少であまりよく分かっていないくせに強力なものが多く、そのうえ天恵よりも複雑な効果を持つこの厄介なカテゴリを皆に教えなければならないわけだ。では、教本は前回の続きから」


 極力目を逸らすようにはしているけれど、最前列のど真ん中に陣取っているから否応にも視界に入る。正直関わり合いになりたくないから無視しているが、せめてもう少し、こう、遠慮してほしい。

 教壇からもっとも近い席。やる気のある生徒たちの特等席であり、逆にやる気の無い生徒たちは絶対に近寄らないそこには、今日は明らかに部外者という感じのオッサンが座っていた。


「先天的なスキルである天恵は王女様の天啓のようにとても有用な例が多いんだよね。これは出生前だから本能的に生きるためのスキルを取得してるからって言われてるんだけど、覚醒はすでにいろいろ社会の波に揉まれた人が得るスキルだから複雑怪奇で癖が強いんだ。君たちがまだ産まれていない三十年ほど前、この王都で連続殺人が起こったことがあったが、その被害者の亡骸はなぜか……」


 部外者が大学の講義を聞きに来ることはそこまで頻繁ではないけれど、たまにある。

 もちろんそれは推奨できることではないし、学費を払っている生徒たちの邪魔をするようならお帰りいただくのだけれど、大人しくしているのであれば放っておくのが常だ。……実は自分より偉い同業者さんだったりするからね。コイツはいったいどういう授業をやってるのかお手並み拝見してやろう、みたいに見学に来てることもあるからね。問題なければ余計なことはしない方がいいんだよね。


 教鞭をとりながら、視界の端で妙な闖入者を観察する。

 片眼鏡で、おそらく自分と同い年くらいの中年男性。ニコニコと笑顔だけれど、なんだかただ者ではない雰囲気がある。

 ――うん、よし。なにか言うのはやめとこう。


 講義を続ける。






「いやぁ、感動しましたイーロ教授。素晴らしい講義でした」


 得てして、講義への闖入者は終了後に話しかけてくることが多い。

 自分が書いた書籍やレポートの読者とかならぜひサインを……みたいな感じで来るし、同業者ならこれこれこういう件で意見を聞かせていただきたく……などの用があることも多い。

 どうやらこの片眼鏡の男性もそういう例に漏れないようで、研究室でコーヒーを一服、というタイミングでドアをノックされてしまった。


「それはどうも。ですがスキル学はまだまだ分かっていないことが多い分野ですからね。ワシの言ったことが明日にはひっくり返っているかもしれませんよ」

「ハハハ。スキルの真実に迫るなら、常に先入観を排除して多角的な視点から観察するべきである、でしたかな?」

「おお、拙作を読んでいただいているのですね。ありがとうございます」


 前に書いたことがある言い回しだし、どうやら書籍の読者かな。いや最近は覚醒スキル関係の発表を学会でしたばかりだし、ワシについて予習してきた同業者のセンは捨てきれないな。


「ところで、あなたはこの大学の生徒でも教員でもないでしょう? いったいどなたなのです?」


 なるべくちゃんとした博士に見えるよう背筋を伸ばし、なけなしの威厳を醸し出す。

 まあ推測するより聞いた方が早いだろう。確実かはどうか分からないが、手軽な情報源だ。


「ああ失礼。まだ名乗っていませんでした。この身はグレスリー・ドロゥマンと申します。軍部に所属しているのですが、スキル学に興味がありましてね。特に覚醒スキルについて、ぜひイーロ教授にお話をお聞きしたくて」


 軍部。

 同業者のセンは消えたのに、背筋がピンとなる響き。


「――例えば、スキルを剥奪するスキルを持つ少女についてとか」


 ……やっぱり追い出しておくべきだったかー。


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