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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンの少女
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スキルの輝石

「どうやら乗っていないようですね」


 乗り合い馬車の停留所近くに自動車を停め、マルクさんが運転席から降りて確認に向かう。

 戻って来た彼は首を横に振った。


「道中では見かけませんでしたし、一つ前の馬車に乗ったのでしょうか……?」

「いいえ、それはないでしょう。この辺りだと馬車の出発時刻にはかなり間隔がありますからね。たぶん一つ前は、トルティナさんがまだあなたのお店にいる内に出発していると思います」


 ピペルパン通りは中央区から離れた旧市街だから、乗り合い馬車の数はあまり多くない。トルティナがすでに馬車に乗っていることはなさそうだ。


「ならまだ辿り着いていないのだな。別の道を使ったのかもしれん」

「それだったら、ここで待っていれば来ますね」


 ロアさんとマルクさんはそう言うけれど、トルティナがまっすぐこちらに向かっているとは限らない。

 別れ際の彼女は明らかに様子がおかしかった。そしてその後でロアさんにも会っていて、この二人に警戒されるような振る舞いをしている。……そんな振る舞いをしてしまったのであれば。

 わたしなら……どこか一人になれるような場所で、ひとしきり落ち込むのではないか。


「また迷っているのかもしれません」


 こんな気持ちは理解してもらえないだろうと思って、分かりやすい可能性を話す。実際、そのケースもあるだろう。


「ふむ。しかし彼女が来たのは二度目だぞ。そう難しい道でもないし、何度も迷うものか?」

「トルティナはサーチのスキルをなくしたばかりです。普段から道しるべにスキルを使っていたのであれば、何度も道を間違えてもおかしくありません」

「……まあ、たしかにそうか。探しに行った方がいいな」


 ロアさんの声音には本当に心配している響きがあった。

 彼はトルティナのことを警戒しているようだけれど、べつに嫌っているわけではないらしい。……それが分かって、少しだけ安心する。


「俺が自動車でこの辺りを探してみましょう。でん――ロアとアネッタさんはここで待っていて下さい。誰かがここに残って行き違いを防いだ方がいいです」

「そうだな、頼んだぞマルク」


 たしかに迷子を当てもなく探すなら、自動車で広範囲を走って回るのが効率的だ。運転手のマルクさんが探しに出るのが一番いい。

 でも、わたしは首を横に振った。わたしなら車が通るような、大きな道から見える場所で落ち込んだりはしない。

 メソメソするなら人目につかない場所だ。


「いいえ、それよりもいい方法があります」


 わたしは二人を制止して、スカートのポケットからそれを取り出す。

 もしかしたら返すこともあるかもしれないなと思って、なくさないよう小袋に入れて持っていただけ。でも、もしかしたら使えるかもしれない。


「それは?」

「トルティナさんから剥奪したスキル石です」


 答えながら、小袋から中身を取り出す。――その輝石は、黒水晶のような透き通った暗色。

 ロアさんの目が見開かれ、マルクさんが興味深そうに覗き込む。


「これを使用してサーチスキルを取得します。このスキルは対象の人がいる方角と距離が分かるというものらしいので、トルティナさんを探すのにうってつけです」

「しかし、他者のスキルを取得してもその通りの効果を発揮するとは限らないのだろう?」

「うまく機能しなかったら、そのときはマルクさんに探しに行ってもらいましょう」


 正直、呪術系のスキルを身に宿すのは抵抗感がある。けれど今はそんなことを言っていられない。

 この乗り合い馬車の停留所にトルティナが居なかったことで、嫌な予感はさらに増している。


「アネッタさんは自分のスキルを剥奪できるんですか?」


 マルクさんからの質問には、ドキリとした。


「……いいえ。わたしの剥奪スキルは、自分のスキルは除去できません」


 わたしの剥奪スキルはあくまで他者のスキルを除去するものだ。他人の精神世界には潜れるけれど、自分の精神世界は入れない。あの空間に入れないのだからスキルを剥奪することもできない。

 だからもしこのスキルがうまく機能しなくて、ハズレスキル化してしまったら取り除けない。


「なら、あなたは最後ですね。サーチのスキルがまともに機能しない可能性があるなら、全員で試した方がいい」


 ヒョイ、とマルクさんが輝石を摘まみ上げる。――素早く、そしてあまりに自然な仕草。すれ違った人から財布を盗むスリはこういう動きをするのではないか、と思わせる動き。

 あ、と声を上げる間もなく、彼の手の内に輝石が吸い込まれる。

 躊躇いがない。流れるように行われた一連の出来事は、なんの反応もできず呆気にとられてしまったほどだ。


「――――へぇ、面白い。いいですねこのスキル。俺が普通に生きていたら絶対に取得できないでしょう。……たしかにこれは、扱いを間違えるとヤバい代物だ」


 マルクさんは皮肉げな笑みを浮かべる。

 あのサーチのスキルは呪術系だと思うから、適性がない人には発現しないだろう。でもあれは本当に人を探すためだけのスキルだったから、ヤバい代物というのはピンと来なかった。


「勝手が過ぎるぞ、マルク」

「失礼、サー。ですがちゃんとサーチとして機能しています。トルティナさんの居場所が分かりましたので、自動車で向かいましょう」


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