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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンの少女
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わけの分からないスキル

「スキルを育てるにはやはり、使用することですね」


 わたしはスキル剥奪屋さん。

 だからスキルについてはちゃんと詳しい。

 本で調べたし。


「習得したてなら、基本的に使えば使うほど強化されます。なので意識的にたくさん使ってください」


 わたしは正直、あまりスキルを持っていない。普通の人より少ないと思う。

 自分のスキルの中で、よく使うものは剥奪だけ。これも正直、まだ満足に扱えているかというと疑問だ。

 だから知識として知っているスキルの伸ばし方を並べる。


「そしてその際に、そのスキルがどういうものなのか、詳細に理解することを意識してください。トルティナさんの因果律操作スキルだと、どれだけの大きな物まで使用できるのか、どれくらいの時間が経過しても使えるのか、などですね。それを把握したら、今度はそれを――」

「スキル基礎論ですよね。それくらいは知っています」


 まあ、わたしの読んだ本は初心者向けなので、普通に知っている人もいるだろうけれど。


「……まあ、常識の範疇ですからね。ですが最初はそれでいいんです。まずはスキルに慣れ、知り、そして伸ばす。慣れないスキルを下手に使えば怪我をしますし、よく知らないスキルは思いも寄らない作用を起こすことがあります。そしてよく知り、慣れたスキルの方が伸ばしたい方向性を――」

「トルティナは、このスキルは剥奪屋さんのスキルと似ていると思っているのです」


 似ている? スキル剥奪と因果律操作が? それは……どうだろうか。ちょっと分からない。


「どういうところが似ていると感じるのですか?」

「わけが分からないところ、なのです」


 反応に困る。


「あー、分かる。わけ分からないよね、アネッタの剥奪」


 リレリアンは黙っていてほしい。


「スキルを剥奪するなんてスキル、どう努力したって得られるとは思えません。人の手足を奪うようなものではないですか。トルティナのスキルと同じ、普通には習得できない、どこから来たか分からない、異物のようななにかです。なので参考として、剥奪屋さんがどうやってそのスキルを伸ばしたのか知りたいのです」

「なるほど……」


 どうやらトルティナはわたしが剥奪スキルをどう習熟したか、について聞きたいらしい。

 …………いや、どうだろうか。わたし、まだトルティナがロアさんに会いに来ただけなのではないか、と疑っているのだけど。この話もたった今、適当に考えついただけのものかもしれない。少なくとも二の次な気がする。


「わたしの剥奪は覚醒スキルになりますが――」


 言葉は、思考よりも前にするりと口を突いて出た。


「わたしはこのスキルを、突然どこかからやってきた異物だとは思っていません」


 これはたぶん、どうでもいいこと。だって習熟には関係のない話。

 でもなんだかトルティナのさっきの言葉がどうしても引っかかってしまって、気づいたら声になっていた。

 どうしよう。言い始めたからには途中で止めるのも変な感じだ。なら最後まで言った方がいいのではないか。ちょっとテンパってしまいながら、自分の考え……というか、イメージのようなものを口にする。


「スキルは、その人の人となりが出るとわたしは思います。習得や進化のスキルでしたら、どんな日常生活を送ってきたのか、なにに打ち込んで努力してきたのか、スキルを通して所有者のことが少し分かります。そして覚醒スキルならその人の人格に大きく影響されたものが発現するそうですので、やはり内面に無関係ではないでしょう。……特に、一般的にハズレと呼ばれる、この店で剥奪を依頼されるスキルはそれが顕著に感じられます」


 たとえば、イーロおじさんの毒精製スキル。毒無効を持っているからと毒キノコを食べ過ぎて進化したあれは典型的だ。好奇心、食い意地、うっかり。イーロ博士がどんな人なのか、あれだけでもなんとなく分かる。

 ロアさんの威圧は、それを通して戦争の凄惨さに少しだけ触れたような気がした。それはそのまま彼の人生だった。


「……天恵はどうなのです?」

「強力なスキルが多いですし、産まれたときから所持しているものですから、少なからず所持者の方が影響されると思います」


 思い浮かべるのはあのミクリさんという、双子の妹さん。あのとき見せられた表情は、数日たった今でも忘れられない。

 彼女はあの天恵スキルを疎うようなことを言っていたけれど、自分の中からそれを切り離して初めて、それでもなくてはならない大事なものだと理解したような感じだった。


「スキルはその所持者を映す鏡なのだと思います。ですので……」


 口が滑る。すごくなめらかに言葉が出てくる。変だ。わたしは口下手で、いつも意識的に心の仮面を被って人と話すような人間なのに。

 そう考えて、その理由がすぐに思い至る。


 もしかしたら、だけれど。この話題は、わたしが本当は誰かに聞いてもらいたかったものではないのか、と。



「わけが分からないスキルをわたしが持っているのは、わたしがわけの分からない人間だから、だと思うんです」



 そう、口走って。

 これって似てるスキルを持つトルティナのことも、わけが分からない人間だって言っているのと同じなのではないか、と青ざめた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物それぞれのキャラが立っててとても面白い [一言] 久しぶりに良作と会えました! 無理のない範囲で続けてくれると嬉しいです
[良い点] 特異なスキルでも自分にとっては大切でそれを仕事としていることに矜持があって、自分でもはっきり自覚してたわけじゃないけど異物と言い捨てられたことに納得いかなくて何とか言葉にしようとした…そん…
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