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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンの少女
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因果律操作

 スキル剥奪後には新しいスキルが発現したり、既存のものが強化されることが多い。それはたしかだ。

 でも、時期には個人差があるけれど、だいたい数日はかかるものだと思う。スキルはそんなに簡単にとれない。昨日の今日で習得するのはかなり早いと言えるだろう。

 わたしの説明を聞いてすぐどんなスキルが欲しいか思いついた人が、その日のうちに猛訓練を開始したとして……まあ、そのくらいでは無理なのではないか。


 ……とはいえ、これまでもそういう人はいた。

 元々訓練してて、スキルとして発現しない程度に習熟していたものが強化されて発現に至った、とかだったら十分にありえる。

 つまりトルティナのあの暗い精神世界にあったスキルのうち、小さかったものが強化された。これはそういうことなのだろう。


 あの呪術系の……。暗く息苦しい彼女の内面を思い出して、ちょっと嫌な汗が流れた。


「へえ、すごいね。どういうスキルなんだい?」


 リレリアンが興味津々で聞いた。この友人は遠慮とかはあまりしない。今もまったくの部外者なのに、スキル剥奪屋とお客さんの話に当たり前のように加わっている。

 正直、聞きたいか聞きたくないかは半々だから、少し待ってほしかった。流れ的に聞くしかないのだけれど、せめて少しくらい心の準備をしたかった。



「因果律操作。そう名付けました」



 聞くからに難しそうだ。いんがりつ、というのは初めて聞くけれど、なんとなく呪術系っぽい。少なくとも魔術系な気がする。

 ただしそれが何なのかは分からなかった。リレリアンも首を捻っているからたぶん専門用語なのだろう。


「実際に見てもらった方がいいと思います」


 トルティナは手を伸ばし、テーブルの上のお皿に並べたお茶菓子を一つ手に取る。

 リレリアンが持って来てくれたクッキー。可愛らしいそれは、たぶん女の子からの貰い物だろう。彼女は美人だけど男性より女性にモテるし、お菓子作りよりバーベキューの方が好きな性格だ。


「クッキーをお茶に浸すと、濡れますよね」


 それはまあ当然そうなるだろう、というようなことを口にして、トルティナは実際に手に持ったお菓子をティーカップの液体の中へ半分入れる。


「お茶の中に入れる、という原因があって、その結果としてクッキーは濡れます。原因があって結果がある……そういうことを、因果律というらしいのです」


 トルティナがクッキーを持ち上げる。それは普通に半分だけ濡れたクッキーで、ポタリとお茶を滴らせた。

 なるほど、お菓子はお茶に濡れるというのが因果律……じゃなくて。原『因』と結『果』の法則だから因果律なのか。少し理解できた気がする。

 というかわたし、食べ物で遊ぶなって言われて育ったからちょっとこういうの抵抗感があるのだけど。


「新しいトルティナのスキルは、トルティナが原因である結果を、なかったことにできる? ようなのです」


 スゥ、と。濡れたクッキーから水分が落ちる。魔法のように乾いていく。

 ――不思議なことにたしかに濡れそぼっていたお菓子は、テーブルの上の皿に乗っている他のものとまったく同じ姿に戻っていた。


「はぁー……。不思議なスキルだね。手から炎を出すとか、物を凍らすとかってスキルよりすごくない?」

「トルティナが原因の結果しかなかったことにはできませんし、あまり大きなことはできない気がしますから、あまり便利とは思えないのです」

「でもそのスキル、コップとかお皿とか割っちゃったら元に戻せるんじゃない? すっごい羨ましい。いいなぁ!」

「それは……そうですね」


 手放しに褒められて照れたのか、カリ、とトルティナがクッキーを囓る。

 リレリアン、大雑把だからよくいろんなもの壊してるものね。羨ましいでしょう。


 しかし本当に不思議なスキルだ。原因と結果に干渉し、あったことをなかったことにするスキル。

 呪術系……なのだと思う。ただ、そんなに恐いスキルではなさそうな気がした。少なくとも人を傷つける類のものではない。サーチのような便利さを感じるし、むしろ傷つけてしまった人を直すことができるのではないか。


「どうしてこのスキルがトルティナに発現したのかは分かりません。習得に関してまったく心当たりがありませんので、もしかしたら覚醒スキルなのかもしれません」


 ああ、覚醒スキルの可能性もあるのか。

 わたしの剥奪でできたスキル枠の隙間に、なんだか突拍子もなく覚醒スキルが発現する。今まで、少なくともわたしの把握している範囲ではしらないけれど、たしかにちょっとありそうだ。


「トルティナは、この因果律操作スキルを伸ばしたいと感じているのです」

「そのスキルを、ですか?」

「はい。アネッタさんはスキルに詳しいでしょうから、その方法を教えてほしいのです」


 いや……たぶんだけれど、本当の目的は違ったでしょう。また迷子になっていたところをリレリアンに連れてこられてしまっただけで、本当はロアさんに会いに来たのではないか。

 そうは思ったけれど、さすがに言及はしなかった。絶対に後悔して胃痛で吐くだろうし、余計なことを聞くのはマナーとしても悪い。

 せっかくやる気になっているのだし、ここはその建前のままでいこう。


「分かりました。では、微力ながら助言させていただきますね」


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― 新着の感想 ―
いやこれ、とんでも無くヤバいスキルなんじゃあ…… 自分限定とはいえ、何度でも失敗してもやり直しが可能なら、成功するまで続けられるじゃないか!
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