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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンの少女
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スキルの種類

 スキルの習得にはいくつか種類がある。大別して四つ。


 産まれ持ったもの。天恵。

 努力して手に入れるもの。習得。

 元々あったスキルが成長、または統合して新しくなったもの。進化。

 ある日突然、あるいは何らかのきっかけによって目覚めるもの。覚醒。



 普通に生きていれば、誰でもいくつかはスキルを持っているものだ。すごい人なら十や二十も持っていることだって珍しくない。

 怪力、俊敏、鷹眼、美声、鋭敏感覚などの能力を強化するもの。剣術、射撃、魔術、料理や工芸などの技術の習熟や補助をするもの。ものによっては予知や空間移動、テレパシーなども可能にし、世の中にはもっともっと複雑怪奇なものだってあるらしい。

 そんなスキルの多くは便利で、人々の生活に役立つものだ。強力なスキル持ちは特に重宝される。


 ただし――スキルの中には時に、まったく役に立たないものがあった。いや、それどころか持っていると害になるものまで存在する。

 身体から異臭を放つとか、触れた植物を枯らすとか、なぜか特定の虫を呼び寄せてしまうとか。

 他にも環境が変わって便利だったものが邪魔になったとか、進化して制御が利かなくなってしまったとか、そういう例もよく聞く話だ。


 それらの使えない、役に立たない、むしろ害になるスキルを人々はハズレと笑い、嘆き、思い悩む。

 そして、そんな人たちのために、わたしのスキル――スキル剥奪はある。

 他人のいらないスキルを取ってしまえるという、ちょっと珍しいスキルで……残念なことに、必ず接客する必要があるものだった。






「本当にすまない。これでも抑えているのだが……」


 その男性は応接用のソファに座って、深々と頭を下げる。


「わ……分かります。だ、大丈夫です知っています。そちら、スキル封印の布ですよね」


 顔を見て卒倒なんて失礼をしたうえに、自分より年上だろう男性に頭を下げられてしまった。すごく焦ってしまう。手をわたわたと振って、しどろもどろになってしまった。

 大きくて怪しい格好で目つきがもの凄く悪い人だけれど、意外なほど礼儀正しい。しかも本心から謝っているようで、今も黒いフードを被って口元も隠していて恐ろしく険しい目しか見せていないが、筋肉質な身体を精一杯縮こまらせた姿勢から申し訳ないという感情は伝わってくる。

 そういえばノックもせっかちだけど、適切な音量で二回だけだった。


「こ、ここは不要なスキルを剥奪するための場所ですから、そういうものを着用していらっしゃる方はいましゅから」


 ワタワタしすぎて噛んでしまった。

 いつものように物静かでしっかり者な店主を演じるつもりだったのに、これはまた後で一人反省会だ。布団に籠もって小さく小さくウジ虫になるコースか、クローゼットに隠れて消え去りたいの呪文を延々唱え続けるコースのどちらだろうか。

 できれば今すぐ頭を抱えてのたうち回りたいところだけれど。


 ダメだ。今は接客中。とにかく仮面を被らなければ。


 わたしはスキル剥奪屋さん。

 スキルは役立つものもあれば、邪魔になるものもあり、ここにくるお客さんはハズレスキルに悩む人ばかり。だからこのお客さんのようにスキル封印の装飾具をつけてくる人もいる。ちょっと驚いたけれど、この人は別に好きで怪しい格好をしているわけではないのだ。

 首飾りやイヤリング、指輪に腕輪に髪飾り。封印の装飾具は多いが、その中でも布はけっこう簡易的なものだ。ただし容姿などの見た目が関係するスキルだと、隠すだけでもかなり効果を発することが多い。あとは付ける位置によって制御できるスキルは違ってくるから……ってこの人、よく見たら腕輪も指輪もしてる。それもいくつも。


 スキル封印の装飾具って、わりと高価なはずだけれど……。


「――……実は、質の悪い封具屋にいいようにカモにされてな。多少は効果があるからつけてはいるが、やはり安物はダメだな。値が張ってもまともな店で良い品を買うべきだったよ」

「あ……それでそんなにもつけているんですか」


 わたしの視線に気づいたのか、男性が目を逸らしながら説明してくれる。

 聞いていないし聞くつもりもなかったけれど、言いにくい失敗談なんか言わせてしまった。もしかして不躾にジロジロ見てしまっただろうか。気を遣わせてしまったのだろうか。お客さんの事情はそれぞれだから、詮索なんてしてはいけないのにまたやってしまったのか。でもこんな格好をしているのならさすがに見てしまうのではないか。

 グルグルと思考が回りかける。ダメだ。今はお客さんがいる。せめて後にするべき。


 この仕事柄よく目にはするけれど、わたし自身は封印具に詳しいわけではない。

 ただそういう安物をつけて来たお客さんは、ほとんど気休めだとか、少し汚れただけで効力がなくなったとか、肌がかぶれただとか、不満をこぼしていくから普通よりは知っている方だろう。


「物によってはスキルの一部分だけを止めてしまっておかしなことになったり、身体が痒くなってしまうものもあるそうですから、あまりつけすぎるのも考え物だと思いますが……」

「ああ、それは無用の心配だ。その程度でどうにかなるほど繊細な身体はしていない」


 どうやら頑丈さには自信があるようだ。……スキル関係の不具合って体格の良さとかでどうにかなるものだっただろうか。


「だが、先ほどのように出会っただけで人を倒れさせるようなスキルも、この量の封印具も煩わしくてな。君のスキル剥奪ならば、と期待してきたんだが――」


 ピク、と。言葉の途中でフードの奥の目が動いた。

 スッと彼が立ち上がる。スタスタと玄関へと向かっていく。

 いったいなんだろう。なにか外に落とし物でもしたのだろうか。怪訝な思いで見ていると、彼はドアノブには触れなかった。扉の横に、並ぶように立つ。


 全身を封印の装飾具まみれにした黒いフードの男が、ああして意味が分からないことをするだけで怪しさ大爆発なのだなぁ。あれに比べたらわたしのいつもの振る舞いは全然大丈夫かもしれない。人間とは自分より下がいるというだけで、こんなにも安心できるものなのか。

 わたしがそんな失礼なことを考えていると――



 ――ドロリ、と。扉が溶けたのだ。


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