精神世界
相手に触れて、スキルを発動して、トプンと精神世界? に潜る。
そうすると、少し相手のことが分かる。
ロアさんは、透明感のある水の中に強く光るスキルが多く浮かんでいて、明るく澄んでいる印象だった。
イーロおじさんは全体的に温かみがあるイメージ。よく分からないスキルが多くて、けれど見ていると面白くって、つい仕事とは関係ないものまで眺めてしまう。
新しくご近所さんになるらしいミクリさんは、初見で雑多という印象を抱いた。大小様々なスキルがたくさんあって優秀なのは分かるけれど、まとまりがなくて賑やかすぎるというか、部屋の片付けができない人みたいな感じ。
わたしは人と関わるのが苦手だけれど、この場所はその人がどういう人間なのかが分かる気がして、少しだけ好きだった。
なにより相手と話さなくても人となりが分かるのがいい。この場所なら嘘も建前もないだろうし。
「暗い?」
トルティナの精神世界に入って、最初の印象はそれだった。
彼女の中は今まで見てきたどんな人のよりも暗かった。濁っているのとは違うけれど、ここの満ちる水はほとんど見通せなくて、スキルの光だけが静かに沈んでいる。
それに、妙に息苦しい。精神世界だからそんなことないはずなのに、なんだかここは狭くて、空気が重い気がする。そしてなんだか……寒い。
スキルの数が少ないわけではない。……いや平均よりも少なめだと思うけれど、普通の範囲内だと思う。
スキルが放つ光も通常くらいのはず。ロアさんみたいに光球が特別に大きいわけではないが、一個一個が特別に小さいわけでもない。
けれど暗い。スキルの色が悪いのだろうか。暗色が多くて、光自体が水中を照らそうとしていない気がした。
初めてのタイプだ。なんだか嫌だ。恐い。
この空間にはその人の内面が出るのだと思う。空間と、水と、スキルの光球しかない場所だけれど、個性に溢れている。
だからこれは、トルティナの心そのもの。
早く終わらせてしまいたくて、寒さと息苦しさを我慢しながら水中を進む。サーチのスキルを探す。
知り合いがどこに居るか分かるスキル。人以外には使えないし、なにをしているか覗き見できるようなものではない。効果範囲は聞き忘れたけれど、対象制限があって方角と距離があるのだから、そんなに強力なスキルだとは思えない。
だからスキルの大きさと光の強さは予想できる。
「これ?」
中くらいの光球に触れる。
光球の大きさや明るさはスキルの強力さを表すが、色は種類を表すことが多い。でもここにあるのはどれも暗い色をしていて、種類が分かりにくかった。
ぞわ、と。今の自分は精神体なのに、全身に鳥肌が立ったような気がした。
反射的に手を離す。逃げるように距離を取る。
今まで見たことすらないのに、直感でそれがどういうものか分かった。これ、人に害を為すためのスキルだ。それも、もっともおぞましい種類のもの。
たぶん、呪術系スキル。
「ひ……」
悲鳴をあげようとして、けれどそうしたら周りのスキルたちが襲ってくるような気がして、慌てて我慢する。
なぜトルティナがこんなスキルを持っているのか。今触れたのはいったいどういう効果のスキルなのか。ここの暗さは、そういうスキルが他にもたくさんあるからではないのか。
分からなくて、分かりたくもなくて、かき分けるように水中を進む。
剥奪スキルを中断して逃げなかったのは、わたしにも仕事への責任感があったとかではなくて、単純にこれらのスキルを自分に向けられたくなかっただけ。こんなスキルを持つ相手が、剥奪できませんでした、と頭を下げた自分になにを思うのか分からない。
サーチスキルを探してビクビクしながら他のスキルに触れて、違ってそうだったら深く読まずに離れる。それを繰り返して、四つ目でやっと見つけた。
これも光の色が暗くて呪術系のような気がする。呪い派生の人限定サーチ、なんとなくありそうで納得だ。けれど人の居場所を知る以外に使い道はなさそうで、少しだけ安心する。
一刻も早くこの場所から出たくって、精神を集中する。
むしり取るようにサーチのスキルを剥奪する。