レポート
スキル■■に関するレポート ミクリ
非公式のものなので取り急ぎ簡潔に纏めます。
スキル所持者に一人で接触することに成功し、天恵スキルである双子間のテレパシーを依頼しました。
スキル発動の条件として、香を使用した空間で水晶を挟みいくつかの質問に答えましたが、香は珍しいものではなく違法薬物などの使用は認められません。また、水晶にもなんら特別な力は感じられず。
今回の目的に沿うため質問には真実のみを答えましたので、偽の情報でもスキルが成功するかは検証が必要。
準備の時間を除いた、■■スキルの実質行使時間は六秒。
使用中は視界を閉ざし、呼びかけにも答えず、完全に無防備であることを確認。また抵抗を試みましたが、なんの手応えもなく■■を成功されました。
これにより対象が天恵スキルでも問題ないことを立証。また■■という名称から推測されていましたとおり、かのスキルは非常に強制力が高いものであると思われます。
なお■■後に行うはずの調査は、事情があり中止を余儀なくされました。ご了承ください。
スキルの名称は所持者が決めるものだが、それは往々にして直感によって名付けられる。
たとえば跳躍のスキルと呼ばれるものがあったとして、それが横方向に飛距離を稼ぐのか縦方向に飛距離を稼ぐものなのか、あるいはどちらでも使えるのかは名称だけでは分からない。助走が必要か否かも不明だ。
しかし普通よりも大きな距離をジャンプできるスキルなら、まあ所持者はそれを跳躍と呼ぶだろう。それに文句を言う者はいまい。
では、剥奪は?
たとえば剥離であれば、所持者のスキルを剥がすスキルだろう。対象者の了承が必要なのも頷ける。
しかし剥奪。剥がして奪うスキルであれば、相手の了解など得なくても使用してしまえるのではないか。それを直感的に理解しているがゆえに付けられた名称なのではないか。
そんな仮説を元に、剥がしたいと思っていないスキルを依頼し、スキルに対する抵抗をしてみたが……結果としてあの剥奪屋の少女の手には、あたしのスキルを結晶化したものが握られていたわけで。
「不用心というか、純朴というか……。強いスキルは隠し持つもんデスよ」
書簡を蝋で封して、その上から乱雑にサインする。
奪えるスキルに制限があるとか、簡単に抵抗できてしまえるとか、そういうものではないことは分かった。……そういうものだったら、これ以上の追加調査は必要なかったのに。
あの剥奪スキルはロア殿下の威圧をも取り出して見せた。全力で使用すれば戦場に姿を見せるだけで敵の大隊を恐慌させ、耐えた者でも動きを大きく鈍らせる反則のように強力なスキルをだ。……もっともアレは味方にも効くから、使い勝手は悪いのだけれど。
条件を満たせば、六秒相手に触れるだけでどんなスキルでも奪い取ることができるのだろうか。だとするなら、あたしにだって使い道が……悪用の方法が、思いつく。
「他の王族のスキルを根こそぎ奪っちゃえば、殿下が王様デスねー」
この国はすごく強力なスキルを持つ初代国王によって興されたらしい。よく知らないけれど。
そしてその血を引く王族たちは、みな強力なスキルを持っていた。……逆に言えば、強力なスキルを持っていない者は王族と見なされない。歴史上、あまりに所持スキルが弱かったために王家を追放された者までいたと、幼年学校で習った気がする。
だから長兄と次兄の二人と、王様までスキルを奪い取ってしまえば――
あり得ない妄想にフッと笑って、ペンを置く。インク瓶に蓋をした。
相手に触れて六秒は長い。こっそりやるには現実的ではない。すぐに気づかれて無礼討ちにされるだろう。
あの少女を使い捨てるつもりで一回だけならイケるだろうか? なんて、さすがにナイナイ。少なくともロア殿下はそんなことしない。
まあ、この封書を送る相手は、分からないけれど。
「帰還したぞ」
玄関から聞き慣れた声がした。どうやら二人が帰って来たらしい。
封書を鞄に隠す。もう少し時間がかかるかと思ったけれど、そういえば買い物に時間を掛けるような人ではなかった。
書き終わった後でよかった。
「あ、おかえりデス」
「ただいま、ミクリ。ああ、ロア殿下はキッチンの方で食材と調理器具をしまって下さい」
「……やはり思うんだが、食事などパンとジャーキーとトマトがあればよくないか?」
「殿下、俺はあなたが王族でよかったと思います。軍を離れても世話人がつくので」
やはりこの人は王にすべきではないと思う。たぶん民の心が分からない。
ロア殿下が荷物を持ってキッチンへ向かって行く。
「ミクリ、馬車に荷物がまだあるから手伝ってくれ」
「うぃー」
適当な返事をして立ち上がる。馬車を使ったのなら、食器棚とかの大物もいくつか揃えてきたのだろう。力仕事になりそうだ。
あまり好きではない書き物をして固まった身体をほぐしつつ、玄関から外へ。
「……なにかあったのか?」
あたしたちのテレパシーは、天恵スキルにしては珍しくあまり強いものではなかった。
まあ距離がどれだけ離れても使えるし、伝えたいことがあったらかなり正確に伝えることができるから、強力な伝令兵向きのスキルなのだけれど、無線や電話がある昨今だと反則級とまではいかない。
また、相手の頭の中がすべて分かるような代物ではない。隠したいことは隠せる。……ただし、強い感情は少し漏れてしまうのが難点。
「なーんにも、デス」
あたしは肩をすくめる。
――まったく、本当に厄介なスキルだった。