ミクリ
覚醒スキルは突然発現するもので、ユニークなものが多いけれど、多くの場合は本人の人格に影響される。
そんなふうに、聞いたことがあった。……言っていたのはイーロおじさんだっただろうか。
わたしの剥奪は覚醒スキルだ。だから、これはわたし自身の特色を色濃く反映している……らしい。
水に潜るように、精神が相手の中に侵入する。
どうしてだろうか、といつも思う。
自分のように人と関わりたくない人間が、こんな他人に触れるどころか、他人の中に入るようなスキルを発現させるなんておかしくないか。
「……雑多」
うへぇ、ってなってしまった。
浮かぶ光球の多さに眉をひそめる。イーロおじさんに似てるけれど、この人は小さなものがより多い。おそらくスキルとして認識していないものがほとんどだろう。
そして一目で分かるけれど、すごくカラフル。つまり種類がバラバラだった。運動系スキル、感覚系スキル、思考系スキル、感情系スキル。イチイチ一つ一つ読み取るのも面倒で、軽く触れてテレパシーではないことを確認していく。
たぶん、飽きっぽい人なんだろうな。
剥奪スキルはけっこう使ってきたから、潜るとその相手の人となりがなんとなく分かる。
この人はきっと器用なのだろう。
きっと、どんなことでもある程度までは簡単にできてしまう人なのではないか。この小さなスキル群が習熟速度の早さを物語っている。
けれど器用で要領が良い人は、一つに拘らない。なにをやってもある程度はできるのだから、新しいことに挑戦するのに躊躇いがない。だから多くの小さな習得スキルがあっても大半は育てられず、放置されている。……そんなタイプなのではないか。
羨ましい。なんにもできない自分とは大違いだ。きっと人生楽しいのだろう。
ハア……と呼気を伴わないため息を吐く。今のわたしは精神だけでミクリさんに侵入しているような状態だけれど、気分だけでも胸にあるモヤモヤを吐き出したかった。
これは嫉妬なのだろう。わたしもできれば、こういう人のように生きたいと思う。できるわけがないけれど。
「これ」
テレパシーのスキルへ辿り着く。さすが天恵スキルだ。他よりも強い光を放っている。
でも小さい。
この小ささは、スキル効果の対象が限定されているから、というのもあるだろうけれど……。
「半欠け?」
光球はパズルのような断面で半分に分かれていた。たぶん、もう半分は兄の方か。
こんなの初めて見た。お互いにスキルを双子が同じスキルを分け合うように持っていて、二人で一つ分のスキルを構築している? こういうのもあるんだ。
というかこれ、取っていいんだろうか。
少しだけ不安になった。天恵スキルを剥奪するのは初めてだし、このスキルの形状的に兄の方に影響がありそうな気がする。
まあ……でも依頼者の希望か。とれないことはなさそうだし。
忠告はした。
ダメだったら戻せばいい。
問題はないだろう。
精神を集中する。
「終わりました」
言葉と共に、水晶の置かれたテーブルごしにしていた握手を解く。
剥奪はつつがなく終了し、手の中には輝石があった。
断面がパズルのようになった球の半欠け。色は黄色だけど、パズルの部分だけは灰色。おそらく兄の方の色なのだろう。
スキルによって輝石も色や形に個性が出るが、これはかなり個性的だ。イーロおじさんに教えたら面白がってくれるだろう。
「それでは、こちらはお持ち下さい。もしなにか不調が出た場合はすぐに――」
輝石を手渡そうとして、ギョッとした。
「どうしたんデスか?」
「い、いえ……その」
言おうかどうか迷った。どうすればいいのか分からなかった。どうしてなのかも分からなかった。
「え……あ」
ポタリと雫が手の甲に落ちて、わたしがなにに驚いているのか気づいて、ミクリさんが頬を拭う。
「す、すみませんデス! お代はここに。では失礼します!」
引ったくるように輝石を奪われる。あらかじめ用意してあったのか、テーブルに剥き出しのお札を叩くように置く。
そうして、ミクリさんは逃げるように玄関から出て行く。
「……ビックリした」
バタンと新品の扉が閉まっても、わたしはしばらく呆然とそちらを向いたまま固まっていた。
これはたぶんだけど、あのスキルはすぐに戻されるのだろう。それだけは確信として抱きながら、ハァとため息を吐く。
羨ましい。……なんだか、あの小さなスキル群を見たときよりも強く、そう思った。