スキルと才能の輝き
暴力は簡単だ。ただ敵を倒せばいい。
武器を使って、格闘術を使って、スキルを使って、蹂躙すればいい。
私はそうやって生きてきた。
天賦の才があったのだろう。私のスキルの多くは戦闘に関するものだった。
制圧し、無力化し、自身を守り、危険を察知する。そういうスキルばかりが私には発現した。初めて銃のスキルを得たのはまだ軍に入る前の子供の頃で、周りの大人たちも驚いていた。
スキルの習得には個人の才能が関わってくる。
二人の人間にまったく同じ訓練をさせたとしても、同じ時期に同じランクのスキルが発現するわけではない。習得速度や習得ランクには個人差がある。
つまり才能があれば短い期間で高ランクのスキルを得ることもあるし、才能がなければいつまでたってもスキルを習得することはない。
つまり逆説的にだが……短い期間の訓練で高ランクのスキルを得られる分野が、その人物にとっての得意分野であると言える。
私はそういうものだった。
戦うことに関してのスキルばかりを高ランクで得る。威圧することで恐れさせ屈服させる。他者を地へ伏せさせることに特化した天賦。暴力によって全てを平らにし、自身だけが立ってそれを見下ろすという、それだけの存在。
そうあれかしと生まれたかのようで、私の人生は強力なスキルと才能という道しるべのままに軍属の道を選んだ。他にも選択肢はあったのだろうが、一番広くて整備されているのはその道で、他の道は霞がかっていた。
人間兵器、と呼ばれた。危険物、と呼ばれた。
最初は失礼な呼び方もあったものだと呆れていたが、南部戦線に参加して戦火を目の当たりにし、自らそう在るべきだと己を定めてからは否定をやめた。ロイヤルスキルとして発現した威圧には元々手を焼いていたが、制御を諦めむしろ最大限に伸ばす方へ舵を切った。それで王国に尽くせるのであれば、戦うだけの機械に成り果ててもいいと思った。
そうして戦い抜いた。
――しかし戦争が終わったあと、戦うだけの機械に成り果てた私の居場所は、当然ながらどこにもなかった。見合い相手と目が合っただけで気を失わせるような存在である。ただ道を歩くことすらできなかったのだ。
この店で、彼女に会うまでは。
「……いないか」
スキル剥奪屋の店舗、つまり自宅の隣家。その敷地内を気配察知のスキルで調べて、その結果に自然とため息が出た。
誰もいない。次兄殿はもちろん、アネッタ殿もだ。ドアにかかったプレートはクローズになっていた。
予想はしていた。あの次兄殿が私を出し抜いて時間を作ったのだ。なにもなく終わりはしないだろうと、そういう見立てはしていたとも。
それを分かっていて、私は次兄殿の目論見のままに悪党たちの制圧へと向かった。王都に蔓延る裏組織とザールーン教の暴走した一部信徒たちの会合は、無視できる問題ではなかった。軍から武器を横流しで手に入れているのならば、軍人である王族として放っておくわけにもいかない。
叩けるチャンスであれば、そして時間的に自身が向かうしかなければ、出向くより他にない。
そんな当然の理屈で、私はここに留まることができなかった。
それが許せない。兄よりも、己を許せない。
私が出向かなければ王国に多大なる損害が出ていたかもしれない。それを未然に防いだ。だから私の選択は正しい。――そんな言い訳をしている自身を殺したい。
王都で勢力を伸ばしている悪党どもは、早々に尻尾を掴んで叩き潰しておけなかったのか。物資を横流ししている軍関係者は取り締まれなかったのか。ザールーン教の暴走した者たちの動向はもっと事前に掴めなかったのか。
私はどれほど愚鈍なのか。あの兄はそれらの全てを把握して、お膳立てまでして私の前に差し出したというのに。
「スキル剥奪は貴重だ。危害は加えない」
自身に言い聞かせるように呟く。
次兄殿は彼女のスキルを欲しがるだろう。それは分かっていた。また、自分の手を汚すタイプではないことも分かっていた。
だからどれだけ最悪でも、彼女は殺されたりしない。
「アネッタ殿はただの平民の女性だ。貴族でも議員でもない」
普段の次兄殿は地位の低い貴族や議員たちと遊び回っている人で、平民の前にはあまり姿を現さない。王座を狙う彼にとって、なんの力もない平民にいい顔をしても無意味だからだ。
あのバーベキュー大会では外面の良さを発揮していたが、本来の彼は平民を侮っているところがあった。
つまりスキルを除けばただの町娘であるアネッタ殿を、丁重に扱うかどうかは分からない。
「アネッタ殿は理知的で慎重な性格の女性だ。そう迂闊なことはしない」
おそらく彼女は次兄殿を激怒させるような行動はしない。次兄殿がなにをするつもりであっても、それまでは猶予があるはず。
まだ取り戻せる。
今、私にできることはなんだ。最適解はなんだ。
自ら動き二人を探すか? グレスリーに連絡して軍部に行方を調べさせるか?
いいや、違う。相手はこの国の王族、第二王子ソーロン。そして危機に瀕しているのはアネッタ殿だ。……であるなら、この世でもっとも反則な人物を巻き込んでしまえばいい。
セレスディア・エルドブリンクスの天啓ならば、全てを見通せるだろう。




