テレパシー
「いやー、この辺りってたしか旧市街って呼ばれてる場所デスよね。前はもっと賑わってたけど、西がドンパチ始めたあおりで人が少なくなったトコ。でも西もだいぶん落ちついてきてずいぶんたつし、ちょっと歩けばお店たくさんあるし、治安も良さそうだし住みやすそうだなーって思ってたんデスよね! むしろお買い得な空き家がたくさんあって最高! みたいな!」
ミクリさんは二十歳くらいで、明るい茶色の髪をショートカットにした女の人だった。
髪色くらい性格が明るいらしく、とりあえずソファに座ってもらったら怒濤の勢いで話し始める。
「で、いい家ないかなーって散歩してたらスキル剥奪屋って見慣れない看板あるじゃないデスか。おお、面白そーって思っちゃって、とにもかくにも一回やってみてーって思いましてデスね!」
「そ、そこまで気軽な値段ではないと思うんですけれど……」
スキル剥奪はそれなりに高い値段を設定してある。
それはわたしの性格的にあまりたくさんのお客さんを相手にするのが難しいからで、つまりこうして興味本位で気軽にやってくるお客さんの牽制なのだけれど。
「大丈夫デス。領収書さえ切ってもらえば、適当に誤魔化して職場の経費で落とすんで!」
ダメだわたしこの人苦手だ。
「……まあ実際、ちょっとマジでとってほしいスキルがあるんデスよ」
思わず頭を抱えそうになったけれど、続いた言葉はけっこう真剣だった。
「実はあたし、双子の兄貴がいるんデスよね。で、その兄の考えていることがなんとなく分かるし、向こうもあたしの考えてることがけっこう分かるんデス」
「それは……かなり珍しいスキルですね」
「相手が限定されてるから、そんな便利じゃないんデスけどね。今だって剥奪屋さんがなに考えてるかとか分かりませんデスし」
良かった、思考を読まれてたら死にたくなりそうだ。だって今のこんな雑談でドンドン精神が削れていってるの、本当に恥ずかしい。
習得や進化ではないだろう。たぶん天恵か覚醒。おそらく天恵。
双子が産まれ持った、相手限定での共有感覚。
「つまり、テレパシーですか」
「そう、それ」
天恵や覚醒スキルは珍しいし、スキルの種類としても珍しいものが多い。どうやって習得すればいいのか分からない、みたいなスキルだってある。
「まあ赤ん坊のころからデスし? もう慣れてるといえば慣れてるんデスけど、やっぱり兄妹で隠し事もできないってのはちょっと不便なんデスよね。あ、兄貴が失恋して三ヶ月くらいずっとその女引きずってウジウジしてたときの話とか聞きます?」
「いえ、お兄さんの尊厳のために聞かないでおきます」
なるほど不便そうだ。とりたくなる気持ちは分かる。おちおち恋愛もできない。
「しかし、その場合ですとミクリさんと双子のお兄さんのお二人ともが、テレパシーのスキルを持っている可能性がありますね」
「? どういうことデスか?」
少し、聞き方に違和感があった。わたしの言いたいことはたぶん分かっているのだと思う。そのうえで確認のように、話に耳を傾けてくれている。
それは本当にわずかで、わたしのように人の目をひたすら気にしているような人間にしか分からないだろう小さな気づき。簡単にいえば、相槌を打ってわたしが話しやすくなるよう促してくれた感じ。
この人、コミュニケーション能力がある……!
「相手限定のテレパシーですからね。お互いにスキルを持っていて、それが共振するようにお互いの考えていることを伝え合っている。だからそのスキルを持っていない相手には使えない。ということが考えられます」
「なるほどデスね」
「その場合、ここでミクリさんだけのスキルを剥奪すると、お兄さんの方にスキルが残ってしまいます。もしかしたらなんらかの不調が起きるかもしれません」
「あ、大丈夫デスよ。そんなの気にしないでいいからやっちゃっていいデス」
それで双子のお兄さんになにかあったらクレームになるのだけれど。
「兄貴はいつもなにかあったらクドクドネチネチうるさいし、ちょっとくらい痛い目見た方がいいんで全然いいデス。どうぞどうぞ」
「……剥奪したスキルは戻せますので、問題がありましたらすぐに元に戻してくださいね」
これは細かく説明しても無駄だなと、押し切られる形でわたしは準備に入る。