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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンと陰謀
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真面目なんじゃなく、面白味がないだけ

「それで、なぜ連日この街に来ているんですか?」

「嫌そうにするなよな。実の兄だぞ、来てくれて嬉しいだろ?」


 できればここ以外のどこかにいてほしいのだが。


「しかしなかなかいい家に住んでいるね、ロア。外からは小さそうに見えたけれど、一人暮らしにはちょうど良さそうだ」


 椅子に深く座って首の後ろで手を組んで、ソーロン第二王子はゆったりとくつろぐ。

 本当にリラックスしているのか、おかしなことをするつもりはないよというポーズなのか……おそらく前者だな。わたしに対してそんな気遣いをする理由がない。


「内装も落ち着いてるし、あまり余計な物がないのもいいな。王宮の歩くだけで疲れる広さと、目がチカチカする華美さにはいい加減辟易する。なんだってあんなご立派なだけの宮殿を建てたんだか」


 意外だな。どうも本心で言っていそうな声色だ。あの王宮の王座に座りたいんだと思っていたが。

 しかしそこは正直、私も同感である。王宮に飾られた美術品や装飾は価値が分からないが主張ばかり強いし、広すぎて私でもまだ未知の場所が多い。庭園は季節ごとに景観を変えるから、久しぶりに踏み入ると迷いそうになる。


「一人だとこれでも広いくらいです。生活するだけならもっと小さくてもいい。掃除も大変ですからね」

「料理も掃除も自分でやっているのか? 部下がいるんだから、それくらいやらせればいいのに」

「部下は王子である私に仕えている使用人ではなく、命を賭けて王国を護る軍人です。私用で便利に使うわけにはいかないでしょう」


 そもそもマルクやミクリがそんな命令を聞くとは思えないがな。


「こちら、香草とタマネギと牛のテールを煮込んだスープです」


 テーブルに温め直したスープを置く。

 煮込めば煮込むほど美味しくなるという料理を作り置きしておいて良かったな。批評されるらしいので普段はやらないが、彩りに鉢植えのミントも詰んで添えてみた。


「本当に本格的なの出てくると引くな……。君、めちゃくちゃ性格変わってないか? 絶対こんなの作る人間じゃなかっただろう。軍人やめて宮廷料理人でも目指すつもり?」

「ほう、それはなかなかいい未来設計かもしれませんな。ですが、これはそこまで難しいものではありません。家庭料理の範疇です」


 アネッタ殿に借りたレシピ本に載っていたものだしな。時間はかかるが難易度は高くない。

 いろいろな建前を無視すれば、今の私は主に、スキル剥奪のスキルを持つアネッタ殿の警護をしている。……のだが、普段のアネッタ殿はほとんど屋内から出ないため、もの凄く暇だ。警護しやすいのはいいのだが、さすがに時間を持て余す。

 この料理はそんな暇の結果として作ったものでしかなく、私に料理の腕がないことはもう十二分に分かっていた。


 しかし、このまま料理を訓練して極めるのも悪くないな。軍を辞して宮廷料理人か、今までで一番心惹かれる選択肢かもしれない。


「うん、これは……不味いね!」


 毒を警戒しもせずに食べたな。殴ってやりたい。


「肉が柔らかく仕上がってるのはいいけれど、臭み消しが足りてないね。あと塩味が強すぎ。香草を多く塩は少なめにしなよ。あと煮込みすぎて野菜がドロドロに溶けちゃってるから、肉以外に食感の楽しみがないのもマイナスだ。長時間煮込むんなら具材はもっと大きく切るか、形が崩れるようになった時点で新しく野菜を足した方がいいと思う。それと変に味に雑味というか、不快な苦みがあるけどアクはちゃんと取ってるか? もしかして火にかけてしばらくほったらかしにしてる? 初歩的すぎるけどアクは小まめに除かないとダメだぞ」

「クッ……本格的なダメ出しを!」


 それはまあ、宮廷育ちの王子なのだから私より味覚は確かだろうが。

 あのバーベキューで美味い美味いと食べていたのだから、言うほど舌が肥えているわけでもないと思っていたのに。


「しかたがないじゃん。僕様はむしろ、気絶するほど不味いみたいなのを期待して来たんだぞ。それなのにまあまあ食べられるものを持ってくるなんてリアクションに困るじゃないか。ちゃんと批評してあげるくらいしかやりようがないだろ」

「まさか私が悪いのか……?」

「君はいつもそうだな。真面目なんじゃなく、面白味がないだけ。戦うこと以外は最低限の規範を守ればいいと思ってるんじゃないか?」


 心当たりはあるが、真面目じゃないこの人に言われるのだけは嫌だな。

 はぁ……と、ため息しか出ない。たしかに私は料理の腕がないことを自覚はしているが、それでも今回はかなり時間をかけたものなので自信があった。だが内面まで踏み込まれて批判されると、さすがに宮廷料理人は無理か……。


「ごちそうさま。評価はまた頑張りましょう、だ。次に僕様に出すときはせいぜい、場末の酒場くらいの腕にはなっておいてくれよ」


 トン、と軽い音を立てて、テーブルの上に器が置かれる。スープは全て飲み干されて空になり、牛の尾の骨だけが転がっていた。


「さてと、ロア。腹も膨れたことだし、そろそろ本題に入ろっか。僕様と一緒に悪巧みしようぜ」


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― 新着の感想 ―
ちゃんと本人が理解できて凹む言葉で評価できるなんて、料理と言葉の造形が深い次兄殿ですね。 ロア殿は威圧なしでレスバはしないほうがいいですね。 しかし、この次兄殿はノリノリでござるな…… ロア殿に脅迫…
ちゃんとした評価でわらたw
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