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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンと陰謀
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気の迷い

 ソーロン・エルドブリンクスとの会話について、一つ違和感があった。


 私のことを調べていたのは分かった。威圧がなくなっているのも気づいたはずだ。

 けれど、スキル剥奪屋とアネッタ殿について何一つ言及がない。

 バーベキューの最中も飲み物を取りに行くときに彼女と接触があったが、スキル剥奪について言及はなかった。彼女から話を振りそうになったにもかかわらず、だ。


 気持ちが悪い。本当になにも知らないようにも、わざと視点を逸らしているようにも思えた。




「ああ、とても気持ちのいい朝だわ……まるで登場人物全員が酷い目にあって、最後は誰も生き残らない小説を読んだ後のよう」


 リレリアン主催のバーベキュー大会が終わって、その翌日。こんなにも清々しい気分で目覚めるのは初めてだった。

 いつもだったら上手くできなかった後悔でなかなかベッドから起きられないのに、今回はそういうのが一切ないのだ。なんて素晴らしいんだろう。


 やはりこれはソーロン第二王子様のおかげだ。だってみんな彼に夢中で、会場の空き地の端っこにいる飲み物係を気にかける人はいなかったのだから。わたしのためにみんなの注目を一手に引き受けてくれるなんて、なんて素晴らしい王子様なのだろうか。

 もちろん、たまに飲み物を所望する人が来て軽く話すことはあった。けれどわたしより王子の方に興味があるのは明らかで、みんなソワソワしてすぐに戻って行ってしまって、だからなにを話したかなんて覚えていないはず。

 後悔なんてする気にもならないくらいに、わたしは誰の記憶にも残らないだろうなって、昨日はすごく気軽だった。


 そりゃあ本当ならああいう場では、久しぶりに会った旧友と話したり、新しい出会いを探したり、わたしのような小さなお店を開業してるならお客さんを開拓したりみたいなことができるといいんだけれど。

 でもあんなサプライズゲストがいては、どうせそんなことはできなかっただろう。だから大丈夫。むしろ余計なことをしなくて良かった。

 というか、王子様のご機嫌を損ねるようなことをしなかったことに、彼の喉が渇いたときにすぐ飲み物を提供できるようお茶を切らさなかったことに、わたしは誇りを持つべきだと思う。うん、とてもいい仕事をした。


 そんな晴れ晴れとした気分に、窓の外のお天気も応えてくれているようで、今日は快晴だった。雲一つない、どこまでも抜けるような青空だ。


「――よし、買い物に行こう」


 わたしは決心する。

 まだ買いだめした食材は二日分くらいあるけれど、いつもならそれがなくなって一日後くらいに外へ出るのだけれど、でもいい。経験上ウジウジと外に出るの嫌だなって思いながら過ごすより、こういう気分のいい日に行くのが、結果的には心の負担が軽かったりするから。

 それに……本当にたまにだけれど、人と話すのが苦手なわたしだって、数少ない友人となら自分から話をしたくなることもあるのだ。

 リレリアンと話したい。昨日のバーベキュー大会でソーロン王子とどんな話をしたのか、さすがのわたしでも知りたくなっている。


 だから珍しく訪れた感情に背中を押されるようにして、わたしは外出のために身支度する。

 ――そんなのは気の迷いだって、本当は分かってるけれど。






「やあ! 昨日飲み物係やってたお嬢さんじゃないか。ありがとうね、君の勧めてくれたお茶は美味しかったよ! 今日は買い物かい?」


 気の迷いだったー!


「お……おはようございます。ソーロン王子様。はい、買い物に来たのですが……」


 どもってしまう。心の仮面を被るのは得意な方だけれど、さすがにこれは無理。朝の挨拶をできただけでも凄いと思う。

 なんでこの人、王子様なのにこんな街のお肉屋さんに居座っているのか。


「おはようアネッタ。アハハ、驚いたかい? 昨日の今日でまた王子様がいるとは思わなかったでしょ?」


 お店のカウンターに頬杖にしてリレリアンが笑っているけれど、どうしてこの状況でいつも通りにできるのか。

 わたしが来るまで王子様と二人きりだったんでしょう?


「本当に驚きました。ソーロン王子様はいったいどうしてここに?」

「今日は個人的にお肉を買いに来たんだ。ここは狩人が獲った珍しいジビエもしっかり精肉してくれるからね。面白そうなの買って食べようかなって。ほら、水鳥って肉から魚の臭みがするとか、バイソンの肉は普通の牛とは違って固くて大味って言うだろ? ぜひ試してみたくてさ」


 物好きぃ。

 王子様なら美味しい食べ物なんて食べ慣れてるから、今まで食べたことのないものを食べたいのだろうか。わたしは、不味いと評判のものを食べたがるのは理解できないのだけれど。


「それと、僕様も一応ザールーン教の信徒だからね。せっかくだからリレリアンを勧誘しようかなって」


 ザールーン教。スキルを禁止する宗教。

 そういえば自分は強力なロイヤルスキルを持っていないからって、ソーロン王子はその宗教に入ったとかなんとか……。


「そうだ! 飲み物係の君も、ザールーン教に入信してみないかい? 今なら超お得なことに、素敵な封印具をプレゼント! どうだい?」


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― 新着の感想 ―
なんという運命!! アネッタさんへの監視がついに機能するのでは? 備えあれば憂いなし、想定通りの展開ですね! ナンパ師の仮面(?)が役に立つ日がきましたよー 既に出遅れちゃってる感ありますが、ここでキ…
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