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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンの人々
115/161

ザールーン教の信者

 反スキル思想団体。ザールーン教の起源は、かつての王族だったと言われている。


 この国の建国王は非常に強力なスキルの所持者であり、その子孫たる王族にはロイヤルスキルと呼ばれる強力なスキルが発現することが多い。

 これはスキルには遺伝が関係すると言われる由縁の一つともなっている。


 例えば威圧。例えば天啓。


 あたしは縁あって両方とも近くで見ているが、どちらも規格外。特にロイヤルスキル持ちの部下として戦場にいた身としては、ああきっと初代国王も化け物だったんだろうなという感想しかない。

 ただしそんなロイヤルスキルは、必ずすべての王族に発現するわけではなかった。


 ザールーン教の始祖はロイヤルスキルを発現しなかった、かつての王子。

 王位継承権第一位だったにも関わらず大したスキルを持たなかったがために、不貞の子とまで噂され、継承権そのものを剥奪された王族。

 彼はスキルを憎み、強力なスキルを持つ者を侮蔑したという。――しょせんは力に溺れるだけの、中身の伴わない愚者たちだと。


 そんな成り立ちを知っていれば、正直その信者だなんてあまり関わりたい相手ではなかった。


「まあ、負けたからにはやるデスけどね。立会人」


 あたしは伸びをして、対局で凝り固まってしまった身体をほぐす。集中するとこれがあるのがツラい。

 結局ご老人には敗北してしまった。終盤までけっこう良い勝負をしたと思ったのだけれど、鮮やかなチェックメイトを決められてしまった。

 最終的には一手差。正直――悔しい。が、しかし同時に清々しい気分もある。あたしより強い相手は珍しいから、単純に尊敬の念があった。


 チェスというゲームは、ルールだけなら知ってる人は非常に多い。実際に遊んだことがある人もかなりいる。よくプレイする、という人もけっこういた。

 けれど、しっかりと勉強をする人となると少ない。

 しょせんは遊び。陣形の組み方を知らなくても、基本的な戦術を知らなくても、盤の全体を見渡すことすらできなくても、駒を動かしていればそのうち勝敗は付く。楽しければいいのだからそれで問題ない。


 だからある一定以上の力を持った者というだけで珍しい。中央区のチェスサロンにでも行かなければそうそう出会いはない。

 こんな場所で強者と対局できること自体が豪運なのだ。だから敬意を持って、敗北の対価は払おうと思える。

 けれど、親族とのゲームに立会人か……。


「それで、変な宗教にカモにされてるお孫さんってのはどういう方なんデス?」

「そうじゃのう……」


 あたしの質問に、ご老人は黒のキングを布で拭きながら考える。

 対戦が終わるごとにこうして付着した皮脂を拭き取っているのだろう。手慣れた手つきには駒への愛情すら見て取れた。


「……むぅ」


 なんでお孫さんの説明にそんな時間かかるんデスか。


「そうじゃな。わけの分からない人間じゃよ。見てもらった方が早い」

「はぁ……」


 わけの分からない人間、か。

 でもザールーン教にハマるなんてどうせ、大したスキルを持たないお坊ちゃんとかだろう。世間知らずのボンボンがなんの努力もしてないのに強いスキル持ちへの劣等感だけ拗らせて、同じような仲間と高尚っぽいフリをしながら傷の舐め合いをしている。そんな集団な印象がある。

 きっとこれからここに来るのは、そんな相手。いったいどんな舐めた奴が来るのだろうか。


「それに、ちょうど約束の時間じゃ。そろそろ来るじゃろう」


 お爺さんがそう言うのと同時に、公園から見える道の角に人影が現れる。

 ん? と思った。一目で違和感があった。なんか予想と違う。もしかして違う人かと思ったけれど、ちゃんとこっちを見て歩いてくるから間違いない。


「アレじゃよ、儂の孫息子は」


 お爺さんからそう言われても、自分の眼を疑う。ゴシゴシと擦ってみたけれど、やっぱり見間違いじゃない。単に距離が近くなっただけ。そして近くなった分だけ違和感が強い。

 やがて彼は、あたしたちがいる東屋までやってくる。


 うん……やっぱり、距離感がおかしくなってたわけじゃないデスね。


「身長二メートルと八センチ。体重は百六十キロ……くらいデスか?」

「おお、素晴らしい観察眼をお持ちだ。見ただけでそこまで正確に当てられたのは初めてです」


 ――デカい、男だった。

 鍛え抜かれた筋肉の塊。完成された逆三角形の肉体。身長も、肩幅も、身体の厚みも、すべてがデカい。腕周りなどあたしの腰より太いのではないか。

 こうして間近で見るだけで、思わず感動してしまうほどのフォルム。軍にだってこんな巨漢はなかなかいない。


 そんな筋肉を見せつけるようなノースリーブを着た青年が、爽やかに白い歯を見せてニッと笑う。


「お久しぶりです、ヤガートお爺さん。約束通り来ましたよ。こちらの素敵なお嬢さんはお知り合いで?」

「元気そうじゃのウルヴァス。彼女は今日知り合ったばかりのミクリさんじゃよ。なかなかのチェスの腕前だったのでな、今日は立会人をやってもらうことにした」

「なるほど。お互いのプライドに賭けて約束を反故にはできないと。もちろん問題はありません。今日こそはそのチェス駒をもらい受けますので、お覚悟してください。フッ!」


 ――なんだか台詞と一緒にポーズとってるけれど、チェスに上腕二頭筋は関係ないと思うんデスよ。


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― 新着の感想 ―
筋肉は人を元気にしますね! ロイヤルスキルを持たないなんて、最も自由な王子様なのに憎しみに囚われてしまうとはもったいないことをしましたね 隣の芝生は青く見えるのはロイヤルでもかわらないのかな
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