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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンの人々
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本屋にて

 このピペルパン通りには、二人のナンパ師がいる。


「やあメリア。今日も陰鬱な目をしているね。その目の下の隈、また深くなったんじゃないかな。ちゃんと眠れているかい? いつものこととはいえ、ぼくは君が心配だよ」


 一人目はビックス。ピペルパン通り生まれのピペルパン通り育ちな土着のナンパ師。

 鹿毛色の髪の優男で、幼児からお婆ちゃんまでどんな女性にも優しくしてお喋りするのが趣味の変人だ。以前はそれで妙ちきりんなスキルまで発現してたくらいの筋金入りである。


「やあメリアさん。今日も眠たげで憂鬱そうな目をしているね。そんな君も美しいけれど、なにか悩みでもあるのかな? もし自分が君の重みを少しだけでも肩代わりできるのなら、ぜひ協力したいのだけれど」


 二人目はマルク。最近この辺りに引っ越して来たらしい流れのナンパ師。

 明るい茶髪の軽薄な男で、年頃の女性に片っ端から声をかけるのが趣味の変人だ。最近はいろんな女友達から、噂話と同時に注意喚起される人物である。


 まあ二人とも強引に迫ったりするような度胸なんてない男たちなので、相手にしなければ問題ない。普段なら適当にあしらっておけばそれですむ。


「おや、君はマルクくんじゃないか。一昨日ぶりだね。また女の子に声をかけているのかい?」

「おおっとビックスくんじゃないか。今日は本屋でナンパか? いつも見るたびに女性に声をかけているな君は」


 ただ……なんでそんな女好きどもが、こんな薄暗くて小さな本屋なんかに集ってしまったのか。

 というか知り合いなんだこの二人。今日みたいにどこかでカチ合ったのかな。


「はいはい二人ともご心配いただいてありがとうね。いつも夜中まで本を読んでるだけだから気にしないでいいよ」


 ワタシは店番をしながら読んでいた本をパタンと閉じた。どちらか一人なら本を読みながら無碍に扱ってやればいいのだけれど、二人揃うとさすがに鬱陶しくて文字を追うどころではない。というかやかましい。

 べつに騒音の中でも読める性質ではあるのだが、この本は好きなシリーズの待望の新刊だから、こいつらの相手をしながら読みたくない。

 本屋の娘として生まれ、本に囲まれて育ったワタシにとって、読書は唯一にして最大の趣味なのだ。


「お、メリアの持ってるそれ、君がよく読んでる本の新しいのだね。ぼくも最近それを読み出してね、今は二巻の途中だよ。いやあ小説って読んだことなかったけど面白いよね」

「なっ……メリアさんその本どんな小説ですか? 自分も興味あるので全巻買いたいんですけど!」


 だめだ本を閉じなきゃ良かった。表紙と題名を見られてしまってややこしいことになる。

 嫌だな。こんな生き物を機械にしたグロテスクな世界観の作品、完全にコアなマニア向けなんだから初心者には勧めたくない。というかマニアの間でも評価割れる作品なのだけどこれ。

 まったく、いくら小説が本の中では安いからってタダではないし、読むのに時間もかかるだろうに。こんな無愛想な狐目女の気を引くために、どうして金と時間を費やそうなんて思えるのか。


「ビックスはそもそもワタシが店番のときしか買わないでしょ。マルクさん、このシリーズはそちらの棚の右下の方にあるから」

「こっちですね!」


 正直一人の本好きとしては、こういうのは普通の本をいくつか読んだ後で変わり種として楽しむものだと説明して、別のものを勧める方がいいと思う。物語の情景をイメージするのに慣れていない人にこんなグチャグチャドロドロの別世界の話を差し出しても、それこそ一ページでリタイアするのではないか。

 けれど本屋の店員としては、そこまでするとおせっかいしすぎな気がする。だから買いたいと言われたら売るだけだ。


「メリアさん持って来ました! 売って下さい!」


 マルクさんが棚からシリーズ全巻を持ってきてカウンターに置く。豪気だな。あまり好みじゃない話だったらお金の無駄になるとかは考えないらしい。

 それを見て、ビックスがクスクスと小さく笑う。


「おやおや、もったいない買い方をするねマルクくん。小説というのは一冊ずつ手にして、物語に没入しながらゆっくり大切に読むのがいいんだよ」


 お前さっき、小説って読んだことなかったけど面白いよね、とか言ってたよな。


「ハハハ、あいにく感動を与えてくれる書物を買うのに、もったいないなんて思う感性がなくてね。どうやらビックスくんは一冊ずつ買う派らしいが、自分とは価値観が違うらしいな」


 暗に安い小説本をケチるほど貧乏じゃないと言ってるみたいだけど、性格の悪さが滲み出てるね。


「フフフ、一冊目をゆっくり最後まで読んだら、また二冊目をこの店に買いに来るだろう? そのときはここにメリアがいてくれるわけさ。新しい巻を買いながら、前巻の感想を交わし合うのは楽しいひとときだよ。同じ物語の感動を共有できるって素敵なことだからね。全巻一気に買ってしまったらそれができないだろう?」

「なっ、そんな手が……!」


 なにを二人で張り合っているのか。


「あんたたち、実は仲いいの?」

「まさか」

「ありえませんね」


 同時なんだよなぁ。


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― 新着の感想 ―
妙ちきりんなスキル気になりますね 土着のナンパ師の方も何らかの治安維持関係のお仕事されているのかな? サイコメトリーとかなら便利そうですけど、逆にサトラレスキルとかもありそうです。 マルクはグロ耐性あ…
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