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ザ・超能力探偵

作者: あどん

 俺の名前は神泉遼。全国各地を飛び回り、生まれ持った超能力でたちどころに事件を解決へと導く正義の私立探偵だ。

 今朝、俺は目を覚ますと愛車のフェラーリのアクセルを全開にした。高速で後ろに流れる景色、俺の頭をなでる冷たい風の中、俺はついさっきのことを思い出す。

 未来視。未来で起こる出来事を前もって知ることのできる能力のことだ。俺は新〇の母のように目が覚めた状態でこの能力を使うことはできないが、夢の中で、俺は未来に起こる出来事を詳しく知ることができる。今朝の夢は、俺の住まいから西に100kmほど移動したところにある古い館での出来事についてのものだった。

 人里離れた海沿いの大きな洋館、そこで起こる惨劇、真っ赤なカーペットを被害者の血がどす黒く染め上げる。一体誰が? どうして? 恐怖に駆られ皆が悲鳴を上げ混乱する中、さっそうとひとりの男が現れる。その名は神泉遼。正義の私立探偵だっ! 

「ふ、ふふ、わっ、わはははははははははははははっ!!」


「遅かったか」

 すでに洋館の中は悲鳴で満ちていた。海のほうから流れてくる黒雲や打ち寄せる高波が、洋館の不吉な雰囲気を醸し出す。俺は血がたぎってくるのを感じた。みんなが俺を呼んでいるっ!

 俺は大きな扉を体ごとぶつかってこじ開け、高らかに宣言する。

「西に事件の兆しがあれば、ただちに駆けつけ未然に解決!

 東に未解決事件があれば、ドライブがてら、さくっと解決!

 犯人よ、あきらめて投降するがいい。お前にもはや逃げ場はないぞ! この正義の超能力探偵、神泉遼に見つかったからにはなっ!」

 

 おびえる視線が俺に注がれる。無理もない。初めて死体を見たとなれば誰でもそうなる。

 俺はその場をすばやく観察し、記憶する。

 エントランス中央に大の字に倒れているのは被害者にしてこの館の持ち主、高田俊平。

 俺の向かって正面、中腰になり、高田氏の脈をはかっている初老の男が執事、大里隆司。

 鼻に指を当て、高田氏を横から観察している高校生の少年が客人、金田悠。

 金田に後ろからすがりついているのがその幼馴染、狩野京子。

 ふむ、役者はそろっているようだな。俺は、唖然とした表情で俺を見つめる彼らに告げる。

「犯人はこの中にいる」


「まず、執事の大里さん」

「はい、なんでしょうか? それからなぜ私の名前を?」

 大里が落ち着かない様子で俺を見る。彼は白だ。

「名前のほうは後からだ。確認するが、館のオーナー、高田俊平さんはお酒に弱いようだな」

「は、はあ。さようでございます。ビールほどの強さでも、缶一杯で泥酔してしまうようなお方でした」

「次に、金田さん」

「……」

 睨むような表情。明らかに俺を警戒している。ふん。

「昨日の晩、高田さんはどのくらいお酒を飲んだか」

「さあ」

「そうか」

 彼にかまっている暇はない。

「最後に、狩野さん」

「は、はいっ!」

 彼女だ。犯人は。

 俺にはすぐに分かる。おびえる表情。そわそわとした体の震え。俺が今までに追い込み、時に捕まえ、時に見逃した犯人たちは皆、俺にたいしてそのような反応をした。

「お前のアリバイを教えてくれ」

「待てよ」

 おびえる狩野の前に、金田が割り込む。

「お前、京子を疑ってんのか!?」

「そうだ」

「何を根拠にっ!」

「ふん。俺は知ってるだけさ。何があったかをな

 この事件は、いや正確には事故だ。そうだな、狩野さん?」

 狩野が恐怖に目を見開く。

「……嘘よ」

「嘘じゃない。君は昨日の晩、酔ってふらふらになった高田氏に言い寄られた。今晩一緒にどうかと」

「う、嘘よ」

「そして、もみ合っているうちに高田を」

「黙れっ!」

 金田が俺につかみかかる。血走った眼が俺を食い殺そうと光る。

「放せ小僧」

「ふざけるな」

 金田が息をすう。


「お前が犯人だ」


 シーン、と館は水を打ったように静まりかえる。

 滑ったな。俺は冷静に金田を見つめる。

「冗談にしても程度が低いぞ小僧」

「冗談じゃないさ」

 金田がにやりと口角を釣り上げる。

「まず、いくつかの疑問がある。

 ひとつ、なぜお前はオレたちの名前を知っているのか。

 ひとつ、なぜ高田さんが殺されたことを知っているのか」

 なんだ、そんなことか。俺はあきれつつも最低限の礼儀として答える。

「言ったろう。俺は」

 金田が遮る。

「簡単なパズルだよ。オレたちは警察はおろかこの館の外部に連絡ひとつとってはいない。つまり、高田さんが死んだことを知っているのは、ここにいたオレと京子と大里さん。それから犯人だけだ」

 俺以外の全員が、俺を疑いのまなざしで見つめる。

「ま、まて話を」

「初めの疑問。なぜお前が俺たちの名前を知っているのか。それはお前が昨日のパーティーにいたと考えれば辻褄があう。パーティーには大勢の人が来ていたからな。お前がいたかなんて分かりっこない。お前は昨日の晩。高田さんを殺害し、館を後にした。そして今日。何食わぬ顔で戻ってきたんだっ!」

「待つんだ。話を聞いてくれ。俺は超能」

「お前が高田さんを」

「ひ、ひどいわ、信じられない……」

「大里さん。警察に連絡を」

「分かりました」

 なんということだ。このままでは俺が犯人にされてしまう。

「観念しろ」と金田。

「遼ちゃん。ありがとう」抱きつく狩野。

 抱き合う二人。

 しかし、絶体絶命の状態にあっても俺は慌てない。俺は正義の超能力探偵神泉遼。悪に屈するわけにはいかないのだ。

「お笑いだな。ふ、ふわはははははっはははっ!」

「何がおかしい」

「お前だ。お前たちがだよ金田少年。

 君は本当のことを知っているのだろう。誰が高田さんを殺したのか」

「お前だ」

「違う。狩野だ」

 びくっと、狩野が震える。

「高田を殺し、どうしていいかわからなかった狩野はすぐに金田、お前を頼った」

「くっ…何を根拠に」

「だから何度も言っているだろう。俺には分かるのだよ。俺には超能力があるからな。

 お前は狩野をかばうために俺を利用したんだろ? 俺を犯人に仕立て上げることで狩野をかばおうとした。違うか?」

「……」

「だがな。金田少年。それで狩野が救われるとでも? 彼女は一生人殺しだぞ。一生十字架を背負い、昨日のことを後悔して生きていくんだ。なぜそれが分からない?」

 俺の言葉は沈黙を生んだ。うつむく二人の若者たち。

 俺は黙って時の流れに身をゆだねる。

 無機質な、掛け時計の音が時間の流れを意識させ、遅くする。

 そして、

 それを乱したのは狩野だった。

「……遼ちゃん……もう」

 決意に満ちた表情で、ゆっくりと口を紡ぐ。

 しかし、

「それでもいい」

 金田が絞り出すように言う。

「それでもいい。それでも、オレはお前に一緒にいてほしいんだ。いなくなって欲しくないんだっ!」

「……遼ちゃん」

 狩野の瞳から大粒の涙がこぼれる。ひしと抱き合う二人。

 塩辛く、温かな、煩わしく、やさしい雫。それが俺の頬を伝い、俺は満足した。

 黙ってその場を後にした。




 ノックの音が、俺の事務所に響く。

 俺は正義の超能力探偵。また今日も新しい事件が始まる。

「入れ」

「すいません、警察ですが」

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