動機。
お食事をしながら皇帝陛下のご様子を時々見てしまう。
そうするとなぜか目が合ってしまい、慌てて俯くわたくし。
陛下の目の前には大きなお肉の塊が置いてあった。表面はちゃんと焼き目がついていたけれど切り分けた中は真っ赤な血が滴って。かなりレアな焼き加減のように見える。
野菜とかが全くお皿にのっていないご様子なことからも、この朝食がわたくしのために用意されたものであることがわかり。
大きく開いた窓からは朝の気持ちのいい空気が流れてきた。
緑が溢れる中庭は、ところどころに美しいお花が咲き乱れ。
今が春の真っ盛りであることを思い起こさせてくれるようで。
に、しても。
(陛下はお食事もろくになさらずこちらを眺めているのでしょうか)
さっきからナイフもフォークもろくに動かしていないように思われ、ふっとため息をつく。
気まずい、な。
そんなふうに思いながらもなんとかお食事を終えたわたくし。
「ごちそうさまでした」
と手を合わせると、陛下の方に向き直る。
「もういいの? 足りてる?」
「あ、ええ、ありがとうございますおいしかったです」
「そっか。ご飯を美味しそうに食べるアリスもとても可愛くて。いくらでも見てられたよ」
そう微笑む陛下のお顔は光り輝いているようで、まともに見ることができなくて。
頑張って陛下にお伺いしようと思ったのに先を越されてしまいまた俯いてしまう。
「ふふ。そうして恥ずかしそうに頬を染めてくれるのも、嬉しいよ。やっとこうして会えたのだから、もっともっと君のかわいらしい顔を見せてほしいな」
うう。
耳障りのいいバリトンボイスでそう囁かれるとズクンと心の底が疼いて、顔に熱がこもってしまう。心臓の鼓動が跳ねているのがわかる。もう、どうして……。
(ほんと、恥ずかしさに余計に調子が狂ってしまいますね……)
(でも、そう、いいかげん勇気を出さなきゃ)
「あの、陛下。陛下とわたくしは以前にお会いしたことがあるのでしょうか?」
そう。
これを聞いておかなくてはいけなかった。
姉様にもそんな話聞いたことはない。
陛下がわたくしと姉様を取り違えているのであったら尚更だ。どこでどんなふうに出会っているのかは、この先のことを考えると知っておかなければいけない。
「会っては……、いないかな……。私の方が一方的に君を知っているだけだ。少なくともこの姿を君の前に晒したことはないはずだ……」
少し躊躇しながらといった感じで陛下がそうおっしゃった。
わたくしの方を見つめているその瞳が、少しだけ悲しそうに見えた。