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子爵。

 食堂に向かう途中で一人の男性とすれ違った。

 彼はわたくしに軽く会釈をしてそのまま通りすぎていく。


 彼、レイテ国のワーグマン子爵。

 確かドナルド・ワーグマン様とおっしゃったかしら。

 わたくしの最初の人生でも、二回目の人生でも、彼はわたくしの前に現れた。

 聖王国の聖女を皇帝に捧げよう、そう最初に主張して各国を煽動したのも確か彼の国。


 レイテは人類域の国家の中の優等生的な国で、貧乏な国家が多い中、一国だけ飛び抜けて裕福で知られている。

 他の国が尻込みをする中、積極的に帝国と交易をしているレイテ。

 彼が今ここにこうしているのも、こうやって宮殿の中を訳知り顔で歩いているのも、全てがそんな交易の為らしい。

 なぜ前回までと違い今回こんなふうに今までより早くそれも直接こんな豪奢な宮殿に連れてこられたのかまではわからないけれど、そういった手筈を整えたのも全て彼だ。


 今回は、ワーグマン子爵の経営するワーグマン商会の馬車に同乗する形でここまで運ばれてきたわたくし。

 彼はわたくしのことを身代わりだとわかっていただろうに、何も言わなかった。

 どうしてだろう。

 わたくしが身代わりで偽物、替え玉の聖女だってわかったら、陛下はどう思うのだろう。

 最初の時のように、怒りでわたくしを燃やし尽くすのだろうか。


 陛下のお顔はとても美麗で、昨夜の謁見の時には見惚れてしまったけれど。

 それでもやっぱり最初のあの咆哮を思い出すと心臓が止まりそうだった。

 胸が苦しくて、もうこのままやっぱり死んでしまうんじゃないかって、そんなことばっかりが頭に浮かんで。


 愛してる。だなんて。

 どうしてあんなことを言うのだろう。


 ふざけている?

 反応を見て楽しんでいる?


 わかんない。

 そんなふざけたことをするようにも見えなかったけど。でも。




 そんなとりとめもないことを考えているうちに食堂に到着した。

 赤茶けた煉瓦の壁。厨房のすぐ隣の場所の食堂は、とても皇帝陛下が利用するような場所には見えなかった。

 それこそ、従業員用にも見えるそんな食堂の、大きな長テーブルの向こうにレオンハルト様がどっしりと座っていらした。







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