咆哮。
生贄になることが決まってからはしばらく部屋で泣いて過ごした。
それでも、国のため世界のために犠牲になってくれという父様や、「わたくしが行きます!」とおっしゃってくださった姉様のことを考えると確かに聖なる力のある姉様が残った方がいいに決まっている、と、次第に覚悟も決まって。
それこそ、世界のために犠牲になると心を固めて国境の祠までやってきたわたくし。
17歳の誕生日を迎えるその日、国境で祈りを捧げながらその時を待って。
帝国とわたりをつけたはずのレイテ国の者が言う通り、祠の櫓のてっぺんにのぼり、激しい雨が降る中、獣帝国の使いが来るのをただひたすら待ったのだった。
「姉様が祈ればこの程度の雷雨、あっという間に止むのでしょうね……」
そう一人ごち。
そう。わたくしの家系には代々天候を操る力が受け継がれていた。
祭主である父様も、聖女である姉様も、こんな雨くらい簡単に降らせたり止ませたりする事ができて。
そんな力を受け継がなかったわたくしは、メルクマール聖王家にとっては落ちこぼれの要らない存在だったから。
これで皆の役に立てるなら、それでいい。
まさかとって喰われたりまではしない、だろう。
わたくしなんかたべてもお腹の足しにもならないだろうし。
そんなふうにも楽観視し。
奴隷のような扱いであったなら、我慢できる。
悲しいけれど、これが運命なのだ。
そう、開き直ってその時を待った。
嵐は激しさを増し、まだ日中だというのに空は真っ黒な雲で覆われた。
視界も遮られ、もうほんの少し先さえ見えなくなって。
「こんな天気では、もう誰も来ないかもしれませんね……」
そう思ったその時だった。
目の前の空が割れる。
嵐が真っ二つに割れ、その向こうには漆黒の得体のしれない空間が広がって居るのがわかる。
わたくしのいる祠の櫓だけが、雨に打たれる事なくその場に佇んでいる。
そんな不思議な状態になって。
不思議と恐怖は無かった。
あまりにも現実離れしたその光景に、一瞬放心しかけたとき。
爆音のような咆哮が響きわたり、巨大な獅子の顔が目の前に浮かぶ。
(ああ、これが、獣の王……)
きっとこの巨大な獅子が、かの獣帝なのだ。
そう悟った。
怒りの感情に塗れたその咆哮は、炎となってわたくしがいた祠に降り注いだ。
(わたくしが身代わり、替え玉であることに怒っているのか……)
そうかもしれない。ううん、そうに違いない。この怒りの原因となるようなことは、それしか思い浮かばなかった。
この世界を燃やし尽くしてしまいそうな怒気を孕んだ咆哮は、確かに厄災と呼ぶにふさわしい。
死ぬ間際、そんな獣帝の感情にあてられ、恐怖よりも悲しみが勝る。
(わたくしは、なんの役にもたてなかったのだ……)
身体の燃える痛みよりも、そんな無念のほうが勝った。
間際。目の前に映る獣帝が、人型の姿となり死にゆくわたくしをみていたのがわかったところで意識が途切れた。