ゼロ。
発見された時のわたくしは、一人で横たわっていたのだという。
まだ幼いから森のマナにあてられ魔力酔いになったのでは? というのがお医者様の見解。
「どうして一人で森へ行ったのだ」
お父様はそうしかめっつらでおっしゃった。
「わたくしも、お姉様のようになりたいのです」
「先日の教会での魔力検査の結果は伝えたはずだが」
諦めの混ざった声。5歳で受ける魔力検査でわたくしの魔力はゼロ、と。全く魔力が存在しないと判定された。
王家に代々伝わる力も当然発現しないだろうと、そう断言されていた。
事実、何度も何度もお父様やお姉様に指導を受けてもわたくしは魔法をかけらも使うことができずにいた。
魔力検査の後では父は諦め母はそのことがショックだったのか体調を崩し。
わたくしのせいで家族の間に亀裂が入ってしまったような気がしていた。
姉様は相変わらず優しかったけれど、それでも「できない妹」を庇ってくれているだけだ。
今度こそ、諦めきれなかった。
身体の中からマナが外に出て行かないから、検査で魔力がゼロだなんて言われてしまう。
自分ではそうだと、そう思っているのにそれを実証する手だてはない。
「あの森にいると身体の中にマナが満ちるのを感じるのです。だから……」
「確かにノームの森のマナ濃度は高い。しかしお前の身体がマナに耐えられないのでは意味がないではないか」
「そんなこと……」
「現にああして倒れてしまっていたではないか。いくらあの森には小動物しか生息していないとはいえ、危険が全くないわけではないのだぞ」
「でも、でも……」
「人にはマナを貯められる総量というものがある。普通はそれを超えてはマナを蓄えることはできないし、必要以上にマナを吸収してしまうと身体の方が参ってしまうのだ。ましてお前はマナを自在に扱うことができていない状態ではないか。普通の者であれば多かれ少なかれマナを魔力に変換することができるというのに、お前はあれほど大気中のマナが豊富な教会の祭壇でさえ、魔力を発現することも、体からマナを放出することもできなかった。お前はマナの総量もゼロ、魔力特性値もゼロと判定されたのだ。それを今更どうすると……」
「お願いします、お父様。わたくし、諦めきれません。あのノームの森で過ごすことで何かが変わるような気もするのです。お願いです……」
まだ5歳のわたくしにしては随分と年齢に似合わないセリフだったろうというのは理解している。
変に思われるかもしれない。
そういう不安もないではなかった。
でも。
このまま森に入ることを禁止されてしまうわけにはいかない。
自分の運命を覆すためにも。
そして、森で出会ったあのこ。あの子猫の状態を確認するまでは、諦めちゃダメだって、そう決意して。
「まあいい。森に入るなとは言わないことにする。しかし、少しでも体調が悪ければすぐに帰るのだぞ。それと、必ず従者を同行させるように。それだけは守れ」
「ありがとうございますお父様」
最後にはそう折れてくれた父様。
わたくしの魔力がゼロで多分一番落胆したのは父様なのだと思う。だから、諦めきれないわたくしと同じく、少しは可能性を感じてくれたのだったら嬉しい。そう思った。




