子猫。
森に入ったからといって特に何かをするわけでもない。
風を感じ草花の息吹を感じあたたかい穏やかな日の光を感じて。
周囲を歩き回りみて回る。ただそれだけのことだったけれど。
それでも、そんな聖なる森から感じるチカラみたいなものを身体中から吸収しているようなそんな不思議な感覚が、わたくしの心の奥を満たしていく。
過去二回の人生では経験できなかった、ううん、しようと思わなかったこんなノームの森の散歩。
最近はなるべく早起きできた日にはここに来るようにしてるけど、それだけで自分の中のマナが活性化してくるような、そんな気分にもなってきて嬉しい。
そんなふうに思いながらぽてぽて歩いてたその時だった。
目の前に黄色い毛玉が落ちているのが見えた。
最初は、何かの服の端切れでも落ちているのかと、そう思い。
でも、ここには王家の血筋の人しか入らないのだし、そんなものを落としていくだなんて、と思い返す。
近づいて見るとそれは小さな子猫で、それもかなり衰弱しているように見えて。
思わずそのまま抱き上げていた。
危険? 汚い? そんなことはこれっぽっちも頭に浮かばなかった。
ただ、このまま王宮に持って帰っていいものか一瞬だけ躊躇して。
でも。
このままじゃしんじゃう。
ほかっておけばこの小さい命は消えて無くなってしまう。それは、いや、だ。
胸に抱いた黄色い毛玉が「にゃぁ」とか細い声で鳴いた。
このこはまだ生きたがっている。
そう思うとよけいになんとかしたいって思いが強くなって。
わたくしの心の奥底から、何かあたたかいものがぐぐぐっと湧き上がって。
溢れた。
金色の粒子があたりに撒き散らされ、子猫の身体に吸い込まれていく。
そして。
そのまま意識が途絶えた。
黄色い子猫が金色に包まれ、そしてその毛並みまでが金色に輝いて。
それがわたくしが気を失う前に見た最後の情景だった。
「お嬢様! ああ、お目覚めになりましたね、レイア、陛下に連絡を」
ここは、お部屋のベッドの上?
ばあやは侍女の一人にお父様への連絡を指示してこちらに向き直る。
その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「ばあや? わたくし、どうして……」
「もう心配しましたわ。朝からこっそり抜け出して森に行ってらしたんですって? 倒れていらっしゃるところをマリアリア様が見つけてくださったのですよ」
「お姉様が……」
「アリスティア様を運んでくださったのは従者のミッシェルでございますが、かなり衰弱なさっていたそうですから。マリアリア様が発見後すぐ回復魔法を施してくださらなかったらどうなっていたかと、今でも心が安まりません。おいたもほどほどにしてくださいませ……」
涙を拭いそう訴えるばあやに。
「ごめんなさい、ばあや……」
そう謝るしかできなかった。




