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もふ。

 廊下をスタスタと歩くレオンハルト様。

 その大きな体に包まれてなんだか心地よく思っている自分に驚いて。


 初めて彼を見た時の、あの、怒気を孕んだ感情は、今世では全く感じることがなかったけれど、先ほどジークのそばを通り過ぎる瞬間だけ、本当にほんの一瞬だけ、怒りのような感情が見えた。

 あれが、わたくしを襲おうとしたジークに対するものだと言うのはわかる。

 ジークの嘘を、ちゃんと見抜いていたのだろう。

 その上で「一回だけ」と、許したのだ彼は。


 そりゃあそうだろう。

 ジークはレオン様にとって腹心中の腹心だったのだと思うもの。

「ジークに聞いてくれ」と、最初に名前を出した時のレオン様の感情がそう言っていた。

 ミーアもジークも、彼にとっては気のおけない仲なのだと、本当に気を許しているのだと、そんな気持ちが伝わってきたから。


 だから、そんなジークがわたくしを害そうとしたと言うことは、すべてレオンハルト様のことを思ってのことだと言うことは、十分理解をしていただろうから。


 そこまで理解をした上で、次はないぞと許したと言うことなんだな、そう考えながら。



 それでもなんだか、逃げ回って疲れた体に引きずられるように眠気が襲う。

 レオン様の腕の中、なのに。

 こんなところで寝たら、きっとご迷惑をかけてしまうだろうに。


 そんなふうにあらがっていたけれど、いつのまにか意識が薄れていく。



 …………




 は!!


 ああ、だめ。

 寝ちゃってた。


 ばっと起き上がるとそこは見覚えのない部屋。見た覚えのない柄のお布団。ふかふかの大きなベッド。


 え?

 どう言うこと!?

 わたくし、レオンハルト様に抱き抱えられたまま、寝ちゃって……。


 ぐるっと周囲を見渡すと、ほんと今乗っているベッドがとてつもなく大きい事に驚

 いて。

 炎のような赤が基調のお布団は大きくてふかふかで。

 そんな中には金色もふもふの毛布が……。

 って、これ、あたたかい……。

 って、嘘! 生きてる?


 あたたかいもふもふの毛布だと思っていたものが丸まっている生き物。大きい猫みたいなものだと気がついた。


 とくん。とくん。ゴロゴロゴロゴロ。

 そんな音も響いてくる。


 思わず顔を埋めてもふもふしたくなる、そんな大きな丸い塊が、レオンハルト様じゃないかって気がつくのに、そんなに時間はかからなかった。


 もう頭が真っ白になってしまい、きっと顔面も蒼白になったまま、そのままそこから動けずにいた。









 さわさわ。

 もふもふ。

 さわさわ。

 もふもふ。


 さわさわもふもふさわさわもふもふ。


 ああ、やめられない。


 だめだと思うのに、不敬だと思うのに、レオン様のもふもふの感触が心地よくて撫でるのをやめられない。

 ついつい手が動いてしまう。


 レオン様もレオン様で寝ぼけているのか、ぐるぐるぐると喉を鳴らして頬をわたくしの手に自分から擦り付けてくる。

 喉元を撫でまわし頭の後ろを撫でまわし。

 しまいには顔ごとレオン様のもふもふに埋めてしまった。

 大きいレオン様は、わたくしの体ごとすっぽり埋まってしまいそう。

 流石にそこまでは理性が邪魔をしたけれど、本当はぎゅうって抱きついてしまいたくてしょうがない。

 あらがいきれないそんなもふもふの魅力を堪能して。


 ああだめ。

 そろそろ明け方だ。

 このままだとレオン様が起きてしまう。


 なんとかやめようと心にブレーキをかけた時、だった。


「なぜ、やめる? もっとなでてほしいのに」


 とそう、レオン様の声。


 って、おきていらした?

 ああああ。どうしよう……。


「すみません陛下。あまりにももふもふしていてあらがえませんでした。申し訳ありません……」


 陛下の体を勝手に弄って撫で回すだなんて、このまま不敬罪で殺されてもおかしくない。

 そう思いひたすら謝るわたくし、に。


「いや、いいのだよアリス。私の体はいくらでも撫でまわしてくれていいよ。君の手は心地いい。私は君と触れ合っている時が一番幸せなのだから」


 そう、獅子のお顔でこちらを見つめるレオン様。

 その瞳はトパーズ色に輝いて、とても愛おしく見えた。




「でも……」


「大丈夫だよ。私の愛しいアリス」


 そう頭をわたくしの右手のひらに擦りつけてくるレオン様。

 このままさわさわしたい。そう思うけどだめ。じっと我慢をしていると。


 ペロン。


 大きなお口から赤い舌が伸びて、手を優しく舐める。

 多分レオン様の舌がその気になれば、皮膚を剥ぎ肉を削ぎ落とす、そんな力があるのだろうけれど、今のは子猫にでも舐められた時のようなやんわりとした感触で。

 怖い、とは感じなかった。

 信頼している?

 そこまで信用しているわけじゃないのに。

 どうして?

 レオン様がわたくしに悪いことはしないって、そう感じられる。


 彼のその優しくまっすぐな心が、わたくしの心にすんなりと溶け込んでいくようだった。






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