気配。
ぎい!
乱暴に扉が開いた、そんな音。
ざっくざっくとわざと足音をたて庭に出てきた人。そんな気配。
ジークバルトは普段はそんな足音を立てたりしない。廊下に潜んでいた時だって、静かに、衣擦れの音すらさせなかったほどだったのに。
今は、多分これは、わたくしへの威嚇も込めているのだろう。
感情が激しく昂っているのを感じる。
そのおかげか、振り返らなくても彼の位置が手に取るようにわかるのは幸いだ。
怖い、けど。
我慢、だ。
このままじっとしていれば見つかることはないはず。多分。
気配を殺し、彼の動きを慎重に見極める。
幸い今は月もない、空は雲に覆われた闇夜だった。目視以外に彼にはこちらを察知する能力はないのだろう。わたくしのいる場所に一直線にくるような風ではない。あちらこちら、隠れやすそうな場所を探っている様子。
離れたり、近寄ったりする気配。
このまま諦めてくれないかな。
そうは思うもののきっと彼にも諦めるわけにはいかない矜持があるのだろう。
たまに、けっこう遠くに行ってしまいそうな時があって、このまま他の場所探しにいってしまわないかなぁとか願うけど、それでもまた近くに戻ってくるのを感じて気持ちも落ちる。
息を潜めてじっとしているのも辛い。
ああ、早く夜明けにならないかな。
早くレオンハルト様が起きていらっしゃらないかな。
ミーアはわたくしが居ない事に気がついただろうか。
あの子が味方かどうかはわからない、けど。
少なくともレオンハルト様の命でわたくしを監視していたのは間違いないのだから、不在に気がついたらレオン様に報告してくれるだろうか?
だめだと思いつつも期待をしてしまう自分がいる。
レオンハルト様が愛しているのは姉様なんだから。わたくしじゃないのだから。
そう自分で自分にいい聞かせ、それでもこの今の状況をなんとかするには自力じゃ難しくて……。
ふっと、意識が途切れた。
眠っちゃってた?
こんな状況で、とは思うけれど、ああでもないこうでもないと考えているうちにいつの間にか途切れた意識。
ああ、だめ。
ハッとそう目を開けて、周囲を探る。
って、え? 近い?
「ここでしたか。探しましたよ」
ああああ……。
月が、出ていた。
いつのまにか辺りが月明かりに照らされ、こちらを覗くジークバルトの顔がくっきりと見える。
モノクルをぐっとあげ、こちらをじっと見つめるそんな顔。
感情は表に出ていない。なんの色もついていないそんな表情。
それが逆に怖い。
わたくしのことなんか興味もない、そうも見えるけど。
でもそれが違っているのは彼の心に触れているわたくしには痛いほどわかる。
表情とは裏腹に煮えたぎっている彼、ジークバルトの心。
その憎しみの色にいたたまれなくなって、反射的にその場から飛び出していた。




