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輪廻。

 最初の、何もわからずにまるで災害にでも襲われたかのような死に方をしたあと。


 わたくしはふと、自分が幼い子供の姿であることに気がついた。


 いや、きっと生まれ変わっていたのだろう。過去の自分にもう一度。

 そして、幼い頃に自分の前世を思い出した、のが正解だ、そう思った。


 最初は驚いた。だって、まさかもう一回同じ自分に生まれ変わるだなんてふつう思わないもの。

 過去の時間にリープした?

 小説ではそんな話も読んだことがある。

 けれど、まさか自分にそんなことが起きるだなんて信じられなくて。

 この人生が過去にあったものだという確証も持てないまましばらく過ごして。


 輪廻転生は概念として知っていた。

 だから最初は全く似ているけれど違う生に転生したんだと、そうも考えた。

 記憶が突然戻ったのがあまりにも幼い子供の時期だったこともあって、一回目の当時の記憶が曖昧にしかなかったのもそう思い至った理由だったけれど。

 それでも流石に、お父様のお名前、お姉様のお名前、そしてこの国の名前までもが一回目の生と一緒だと分かった時。

 そこに至ってやっと、この世界、ここにいるわたくし、そして全てが一回目に経験した世界そのものなのだと納得したのだった。


 何の呪いかそれとも祝福か。

 まだ、なにもわかっていなかったあのときに戻っていたわたくし。


 やさしいお母様。厳しいけれど大好きなお父様。そして、美しくて気高いお姉様。

 わたくしは家族のことが大好きで、家族もみんなわたくしのことが大好きだって疑っていなかったあの頃に——


 ♢


「お嬢様、朝ですよ」


 ばあやのいつもの声で目が覚めた。


「にゅー、まだ眠い……」


 わたくしはいつものようにそうグズってみせて。


「もう。レディがいつまでもそう子供みたいなまねしていてはいけませんよ。お姉様のマリアリア様なんかもうアリスティア様と同じ年の頃から光の聖女と讃えられていましたから」


「だってー」


「さ、起きましょうね。朝ごはんにはアリスティア様の大好きなソーセージがいっぱいですよ?」


「いっぱい? いろんなの、あるの?」


「ええ。たくさんありますからね。さ、お着替えしましょうか」


 ばあやに促されるまま両手を伸ばし、寝巻きを脱がされたわたくし。新しい肌触りのいいワンピースをすっぽりとかぶって。

 裾のところに大きな花の模様がいっぱい散らしてある、そんな可愛らしいデザインのワンピース。

 わたくしのお気に入りだった。


 顔を洗って髪をとかしてもらって、そのまま手を引かれ食堂についた。

 お父様お母様、お姉様はもうお席についている。


「おはようアリス」


「おはようございますお父様。お母様。お姉様」


 そうにっこりと微笑みながら朝の挨拶をすると、ばあやが椅子を引いてくれた。

 よっこらってそこに腰掛けると、もうテーブルの席にはお野菜がたんまりよそわれていた。

 両手を合わせいただきますすると、みなも待っていてくれたのか、食事が始まる。

 美味しいお野菜をいただいているとコーンスープのお皿がやってきた。

 ソーセージはまだかなぁって思っていると次のお皿にはたっぷりのソーセージ。

 真ん中にドンと大皿で置かれたそれ。給餌のお兄さんたちによってそれぞれのお皿に取り分けられて行く。


 お食事の間に声を出すのは怒られる。

 わたしが黙ってそのソーセージの行方に注目していると、給餌のお兄さんがそっと耳打ちしてくれた。

「お嬢様はソーセージがお好きでしたからね。ちょっと多めにのせておきましたよ」

「ありがとう。ジェフ」

 五歳のわたくしはそんなにたくさん食べられない。でも、小さなソーセージだったら何本か食べても大丈夫。

 そう思ってほくほくして。


「アリス。お前はまだ小さいのだからあまり食べすぎないように」


「はい、お父様」


 美味しくていっぱいお口に放り込んでいたら、お父様からそうお小言。

 渋いお顔はされているけど、この時のお父様はきっとわたくしのことを愛してくれていたんだよなぁと、そう思い至って心の奥底が癒されていく。


 うん。五歳の子供からのやり直し。

 どうして戻ってしまったのかわからないけどしょうがないもの。

 せっかく戻ったんだからちゃんとやり直さなきゃ、と。


 この一度目のループの後は、結局ただひたすら最初の人生をなぞっただけだった。


 もしかしたら、もうあんな結末が訪れることなんてないんじゃないかって。

 途中からそんな希望も持っていた。


 でも。

 時間が流れて行くうちに、それが最初の人生と全く同じだったことがわかって行くうちに。

 怖くなって逃げ出したくなって。


 最後の最後で逃げ出そうとして、でもダメで。

 つかまった挙句、両手を後ろ手に拘束されたまま櫓に登らされたわたくし。




 ああこのまま最初の時のように巨大な獣帝のお顔が現れるのかと絶望した。


 嵐はどんどんと酷くなっていく。

 だけれど、いつまでまてどあの咆哮が聞こえてくることはなくて。

 やまない雨のなか櫓の上に一人取り残されて、あきらめきれないまま天に向かって祈りをささげ続けたわたくし。


 もしかしたら今度は前とは違うのだろうか。

 わたくしは、助かるのだろうかと、少し希望が芽生えたその時、だった。


 ころせ!

 生贄にささげよ!


 背後からそんな怒号がきこえる。


 うそ、どうして、そんな!


 櫓にくべられる松明の炎。

 両手が後ろ手に縛られたまま、逃げることもできずそのまま炎につつまれた。







 ▪️ ▪️


 はっと気がつくとそこは大浴場の脱衣所。

 籐の椅子に腰掛け熱風を浴びながら髪を梳ってもらっている所だった。


 ああ。二回目の人生の夢を見ていたのか。と。

 あれが今、今回の人生では無いことに、こころから安堵した。


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