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聖典。

 メルクマール聖王国を中心とした人類域。山脈を隔てた西には獣帝国ザラカディア。海を隔てたはるか東方には龍神の子孫が住まうという龍華国(ロンファ)。南には砂漠の国カナン。そして北方、氷の海の彼方には水神の末裔の国、ノーザランドがあるという。


 それらの大国らは特に争うこともなく、ゆったりとした交流を保っていた。


 この獣帝国にあっても東方産の絹などは特に重宝されていたし、はるか砂漠を越えカナンまで交易の旅に出る隊商も複数あった。


 それらの国にはわずかながら純粋な人族も暮らしていると聞く。

 彼らの暮らしぶりはどうなのだろう。

 虐げられているのだろうか。


 かつて。


 この地は人で溢れていた。


 聖典にはそう記されている。


 この世界の文明の基礎を創ったのは遥か古代の人族であるらしい。

 当時はまだ、獣族も龍族も、カナンに住まう天人族も、ノーザランドの水人族も、この世界にはわずかな数しか暮らしていなかったそうだ。

 肉体的にも魔力的にも劣る人族のわずかな取り柄は、その圧倒的な人口とそして工夫と文化。


 寿命が短い分、書物を残し。

 力が弱い分、道具を作り。

 暑さ寒さに備えて衣装を工夫し。


 そして、いちばんの取り柄は人類のその探究心にあった。


 神の残した教えを研究し世界の仕組みを解き明かそうと学問が栄え。

 医術錬金術建築技術に、料理や創作、絵画に演劇。

 そんな文化も花開いていった。

 もちろん、魔力が弱いからといって魔法の研究ができないわけではなくて。

 逆に、魔力が弱いからこそ体系たてた魔法学として昇華させていったのも古代の人類だった。


 今、人類域は残されたわずかな地のみとなっしまっているけれど、人類から発した文化はこの世界中の隅々まで広がり今もなお残っている。

 言語、文化、学問全てにおいて、大元は古代の人類のそれを引き継いでいるのだと。




 そこは大理石ですべてが覆われた、広く重厚な雰囲気の浴場だった。

 自国ではみたことがないほどの立派な浴場にすこし気後れし戸惑ったものの、ミーアに促されるままに足を踏み入れる。ざっと身体を流されてゆっくり湯に入った。

 大きな湯船に浸かったあと、髪を洗われ、石のベッドに横になって身体中が擦られる。

 花の香りのする香油をたっぷりと塗られ、そして次に石風呂でたっぷりと汗をかいてからまた身体中を柔らかい布で擦られた。

 そしてもう一度ゆっくり湯船に浸かったあと、またたっぷりの香油が全身くまなく塗られ、ふわふわのタオルで包まれて。


 まるで調理前の下拵えみたい。


 されがままに身体を預けて、まるでまな板の上の鯉のような気分を味わって。


 もしかしたら本当に食べられてしまうのだろうか。

 なんてことも妄想してしまう。


 裸のまま籐の椅子に腰掛けさせられたわたくし。

 ミーアが熾す熱風の魔法で髪も身体も乾かされていく。

 髪にも香油をたっぷり使い、丁寧に梳っていくミーア。

 その感触が心地よく、ついついうとうとと寝入ってしまっていた。

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