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黒猫ツバキと魔女コンデッサ

黒猫ツバキ、馬面(うまづら)のお客様に結婚相手を紹介する

作者: 東郷しのぶ
掲載日:2026/01/31

登場キャラ紹介

・コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。

・ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。 


・アマテラス……天照大神(あまてらすおおみかみ)。日本神話の太陽神にして最高神。外見は15歳くらい。巫女の格好をしている。1人称は「妾(わらわ)」。コンデッサやツバキと仲が良く、ツバキからは「アマちゃん様」と呼ばれている。


※本作は「ファンタジー的な異世界」「日本神話」「仏教関連」などがチャンポンとなった世界観で、ストーリーが展開しています。心を広く持ってお読みいただけるよう、お願いいたします。

※挿絵(AI生成イラスト)があります。

 ここは、魔女コンデッサのお(うち)。コンデッサの自宅は、ボロノナーレ王国の端っこの村にある。


 ある日のこと。

 コンデッサが自室で魔法の研究を熱心に行っているところに、黒猫のツバキがやって来た。

 ツバキはコンデッサの使い魔である。使い魔であるため、猫であっても人間の言葉が喋れるのだ! 賢い猫なのだ!


「ご主人様。お客様が来たニャン。初めて見る方にゃ」

「そうか。新魔法の開発に集中していて、客の来訪に気付かなかった。待たせてしまったのなら、お客に悪いことをしたな」

「ご主人様、心配無用にゃ。お客様はアタシが挨拶(あいさつ)して、リビングまで案内しておいたニャン」

「ツバキ、偉いぞ」

「えっへんニャ」


 コンデッサとツバキは、リビングへ向かって歩き出した。


「それで、ツバキ。客は、どのような方なんだ?」

馬面(うまづら)なお客様にゃ」

「……うまづら?」

「馬面にゃん」


 ツバキの返答を聞き、コンデッサは溜息を漏らした。


「あのな、ツバキ。確かに〝縦に長い顔〟のことを『馬面(うまづら)』と形容するけれど、そのような言い方は、あまりするべきでは無い、場合によっては、相手に対して失礼にあたる」

「でも、あのお客様の顔は、どこからどう見ても、まさしく馬面にゃ」

「いや、だから……〝馬面〟という表現は、なるべく使うべきではないと……」

「別に『馬面』と呼んでも、お客様は怒らないと思うニャン。完全な馬面にゃんだから」

「それは、こちらが勝手に判断することじゃ無いぞ」


 コンデッサは、リビングに入った。ツバキも続く。

 室内のソファに、客が座っていた。


 その客は、存在感が抜群だった。まず、ともかくデカい。立ったら、身長は3メートルくらいになりそうだ。着物をピシっと身にまとっており、姿勢を正している。上半身を眺めると、明らかにムキムキしていて、服の上からでも見事な筋肉質であることが良く分かった。たくましい体格の男性だ。


 そして首から上は、馬の頭部になっていた。耳も目も鼻も口も――顔は、動物の馬そのものだった。フサフサとした(たてがみ)もある。

 頭と首が、完全な馬だった。

 どこからどう見ても、馬だった。


 馬の頭に、人間の体。お客の姿は、そんなだった。

 ひと呼吸して、コンデッサは冷静に話しかける。


「ようこそ、いらっしゃいました。私が、コンデッサです。お待たせしてしまい、申し訳ありません」

『いえいえ。突然にお訪ねしたのは、拙者(せっしゃ)ですので。快くお会いしてくださり、感謝いたします。コンデッサ殿』


 馬の口から発せられる、魅惑的な低音ボイス。

 コンデッサは一瞬、目を閉じた。


「……スミマセン。もう少しだけ、お待ちいただけますか?」

『むろん、構いませんよ』


 コンデッサはツバキを連れて、素早く自室へ引き返した。部屋へ入り、扉をシッカリと閉め、彼女はツバキを叱りつける。


「こら! ツバキ。『客の頭が、馬だ』と、何故ハッキリ言わなかったんだ!」

「アタシ、ちゃんと言ったニャン。『馬面(うまづら)なお客様にゃ』って」

「うっ。それはそうだが……。しかし、いくら馬面といっても、程度があるだろう? あれは馬面じゃ無くて『馬』だ。そのまんま『ウマあたま』だ。心底、ビックリしたぞ」

「でも、ご主人様は落ち着いて応対してたニャン」


「私にも、魔女のプライドというものがあってな。たかがウマ(あたま)ごときに、慌てたりするわけにはいかないのさ」

「『たかがウマ頭ごとき』って……ご主人様のほうが、失礼な物言いをしてるのニャ」

「あのウマ頭、何者なんだろう?」

「お客様に直接、()いてみるのが一番にゃ」

「そうだな」


 コンデッサとツバキは、リビングへ戻った。

 ウマ頭の客は、大人しく待っている。


 コンデッサとウマ頭は、挨拶を交わす。

 ウマ頭は自己紹介をした。


『拙者は、馬頭(めず)です』

「おお。馬頭殿(どの)でしたか」

「にゃ? メズさん?」


 首をかしげるツバキへ、コンデッサは教えてやった。


「馬頭とは……地獄で亡者(もうじゃ)を責め(さいな)む、そういう役をしている番人のことだよ。牛頭(ごず)とセットで『牛頭(ごず)馬頭(めず)』と語られるケースが多いな。…………再度、確認させてもらいます。貴方は、あの〝牛頭馬頭の馬頭〟で間違いないんですよね?」


 コンデッサが尋ねると、ウマ頭……馬頭(めず)は頷いた。


『ハイ。拙者は、その馬頭です。地獄で役人を務めています』

「ニャ~!!!」


 ツバキが(おび)える。


※牛頭馬頭(ごずめず)……牛頭は、牛頭人身の鬼。馬頭は、馬頭人身の鬼。生前に罪を犯した亡者たちを、地獄で待ち構えている獄卒(ごくそつ)(地獄の番人)。仏教の教えの中に登場する。


「にゃんで、地獄の役人さんが、この家に来たのにゃ!? まさか、ご主人様かアタシのどちらかを、地獄へ連れて行くためにゃんじゃ? 困るにゃ! 怖いにゃ! 馬頭さんは、成仏して退散するのニャ。南無(ナム)南無(ナム)南無(ナム)ニャムニャムニャム……」

『はっはっは。黒猫殿。拙者に念仏は()きませんよ。「馬の耳に念仏」と言うではありませんか』


 馬頭が、冗談を言う。外見に似ず、洒落(しゃれ)が分かる性格らしい。


※「馬の耳に念仏」……何を言っても、効き目がないこと。


 馬頭の真向かいの椅子に座っているコンデッサは、自分の膝の上にツバキをのせた。


「大丈夫だよ、ツバキ。馬頭殿は、そんな用事で来たんじゃない。もし仮に、私かツバキを強引に地獄へ連れて行こうとしたら――」

『どうされます? 魔女殿』


 面白そうに、馬頭が問いかける。


「ちょうど今、新魔法の《文字の(キャラクター)置き換え(エクスチェンジ)》を発明したところだったんですよ。その魔法を、貴方にかけます」

『《文字の置き換え》という魔法?』

「ええ。この魔法を浴びると、馬頭人身の貴方は、文字の『馬』と『人』の置き換えによって、人頭馬身になるわけです。姿も、そのとおりになります」

『つまり…………ヒヒヒヒヒ~ン~!』


 4本脚の馬の体に、頭だけが人間となった自分の姿を思い浮かべ、馬頭は悲鳴を上げた。

 ケンタウロスのような、首から上が人間の上半身の姿ならともかく、首の上に人間の頭だけがのっかている馬となると……カッコ悪すぎる。


 恐怖のあまり震え上がっている馬頭を見て、ツバキはコンデッサの膝の上で喜んだ。


「地獄の役人さんを怖がらせるニャんて、ご主人様はさすがニャン!」



 そんなこんなで、お騒がせタイムは終了し――

 改めて、馬頭がコンデッサに述べる。


『拙者がコンデッサ殿をお訪ねしたのは、相談したいことがあったからです。個人的な内容で、恐縮(きょうしゅく)なのですけれど』

「そうだったのですか……そもそも、馬頭殿はどうして、私のことをご存じなのですか? 不思議でなりません」


『ご質問に答える前に、ひとつ訂正させてください。拙者は地獄に()ちてこられた方々――亡者の皆様を、責め苛みなどしておりません。地獄での拙者の仕事は、亡者へのカウンセリングです』

「カウンセリング?」

『はい。亡者となった方がクヨクヨしていたら「〝人間万事、塞翁(さいおう)が馬〟とも言いますよ」と語りかけ、少しでも早く成仏して地獄から抜け出せるように、そのお手伝いをしているのです』


※「人間万事、塞翁が馬」……何が幸せで、何が不幸せであるかは、後になってみないと判断できないということ。


 馬頭の仕事に、コンデッサは感心した。


「立派な務めですね」

『地獄に居る亡者の数が減ると、それだけ仕事が楽になりますし。「汗馬(かんば)の労(苦労しながら駆けまわり、働くこと)」など、今どき流行(はや)りません。有給休暇の日数の、更なる増加を望みます! 地獄を、もっと楽な職場に! ヒンヒンヒン!』

「はぁ……」


『そのような次第で、地獄で拙者が仕事に励んでおりますと、1柱の女神が「地獄見物じゃ。これは社会勉強なのじゃ。見聞を広げるためなのじゃ。けっして機織(はたお)りをするのに飽きて、高天原(たかまがはら)を脱走してきたわけではないのじゃ」と言いながら通りかかったのです』

「ほぉ」

「にゃあ」


 コンデッサとツバキは、顔を見合わせた。


『女神は「これが地獄名物の温泉タマゴか? 美味しいのじゃ」と卵を食べつつ、拙者と世間話をしたのです。そのとき、女神は「地上世界のボロノナーレ王国に、コンデッサという名前の魔女が住んでおっての。とっても頼りになる魔女なのじゃ。(わらわ)も、何度も助けてもらっておる。なに? 馬頭(めず)よ。お主、悩み事があるのか? ならば、コンデッサに相談するといい。きっと、良い解決案を示してくれるぞ。間違いない。妾が保証する! お主に適切なアドバイスをしてやった、妾って親切じゃの~。お礼をして欲しいと、妾は言ったりはせんが…………何かを要求するような、恥ずかしいマネは決してしないが…………ところで地獄の名物に、温泉タマゴの他に、蒸し焼きプリンがあると聞いた。誰か、妾に差し入れしてくれたりはせんじゃろか? のぉ、馬頭。妾は、プリンが食べたい~!」といった事柄(ことがら)を口にしました』

「ほぉ」

「にゃあ」


『女神は、15歳くらいの少女の姿をしていました。黒い髪に黒い瞳で、巫女(みこ)服を着ており、「日光日光ニッコニコ~♪ 地獄の(やみ)でもサンサンサン~♪ そんな妾は太陽神~♪」と歌いながら――』

「いえ。馬頭殿。その話は、もう結構です」

「どう考えても、地獄を訪れた女神はアマちゃん様にゃん」


『その女神の助言に従い、拙者はコンデッサ殿をお訪ねしたわけです』

「分かりました。それで、馬頭殿。私に相談したい事とは、何なのでしょう?」

「にゃんだかんだで、馬頭さんの話を聞いてあげる……。ご主人様も、たいがい親切なのニャ」


 最初、馬頭は話しづらそうにしていたが、結局は口を開いた。


『実は……拙者の同僚(どうりょう)である牛頭ごずが、つい先日、結婚したのです』

「それは、めでたい」

「素敵ニャン」


『しかし、それから毎日のように牛頭は拙者へ、嫁さん自慢をしてくるのです。「うちの嫁は、モウ最高だ~!」……と。はじめの頃はブヒンブヒンと聞いていたのですが、あまりにも何度も何度も言ってくるので、ウザくなってしまい……』

「ふむ」

「ニャン」


『拙者は、牛頭へ「いい加減にしろ! お前の新婚自慢は、聞き飽きた!」と言い返しました。すると牛頭は「モウ、言わない。独り者の馬頭には、つらい話だったな。気が付かなくて、モウしわけない。モウ~モウ~」などと、ふざけたセリフを! 拙者は頭にきて「黙れ、牛頭! 新婚ボケで(よだれ)をダラダラ流し、貴様はみっともないわ! このノロマ! デブな鈍牛(どんぎゅう)!」と(わめ)いてしまい……。牛頭は「なんだと! 馬頭よ。貴様こそ、最近、たてがみの形をやけに気にしているではないか! こっそりと香油を塗って(くし)を入れながら『今日も、拙者のたてがみは麗しい。美形な駿馬(しゅんめ)である拙者は、もっとモテるのが当然だ。彼女が欲しいヒヒ~ン』と鏡へ語りかけているのを、ワシは知っているぞ! 哀れな駄馬(だば)め」と(ののし)ってきて……。拙者と牛頭は、大喧嘩(ゲンカ)をしてしまったのです』

「ふむ」

「ニャン」


『けれど、今は頭が冷えました。牛頭と仲直りがしたいのです。何か良い方法はないでしょうか?』

「それが、私への相談事なのですね?」

『ええ』


 考え込む、コンデッサ。

 一方、ツバキは得意な顔をして、馬頭に言う。


「美味しい料理を牛頭さんにプレゼントするのが、良いと思うニャン。ビーフシチューや、牛丼や、ビーフステーキがオススメにゃ」

「いや、ツバキ。そのメニューを牛頭の前に出して『食べて』なんて言ったら、大変なことになるぞ。牛肉の料理を、牛頭人身の鬼へ勧める……それこそ、牛頭と死闘を演じるハメになるな。肉料理を贈るなら、羊肉のローストや豚肉の生姜(しょうが)焼きなんかが、無難だろう」


 コンデッサの提案に対し、馬頭は遠慮がちに言葉を返した。


『拙者も牛頭もベジタリアンなので、肉料理はチョット……』

「ああ……牛も馬も、草食動物でしたね」

「アタシはお肉もお野菜も、美味しく食べるニャン」


「しかし……ぶしつけながら質問させてもらいますが、牛頭殿も馬頭殿も、地獄の役人なのでしょう? 住んでいる場所も、地獄なんですよね?」

『そうです』


 馬頭が、首を縦に振る。


「地獄での生活をOK(オーケー)してくれる花嫁が、よくぞ現れたものだなぁ……と。私としては正直、そう思ってしまいます」

『コンデッサ殿がそのように考えられるのも、無理はありません。地獄の役人たちが嫁不足に悩んでいるのは、事実です。けれど、地獄での暮らしにスンナリ馴染(なじ)んでくれる女性も居るのですよ。牛頭の嫁も、その1人です』

「興味深いですね。どのような女性なのですか?」


『名前はセツ殿です。セツ殿は、羅刹(らせつ)族の女性です』


※羅刹(らせつ)……人を喰らう悪鬼。仏教やインド神話の世界に登場する。


「ニャン? 羅刹族……って、ニャニ? ご主人様」

「羅刹とは、悪鬼の一族だよ。ツバキ。羅刹は力持ちで、足が速く、人を惑わすこともあり、人の血肉を好んで食う……と言われている。羅刹族の女性とは……まさに、地獄の役人である牛頭殿の花嫁に相応しい方なのかも……」

「にゃ、にゃ、人の血肉を……にゃにゃにゃ!?」


 ツバキが怯え、尻尾を体に巻き付ける。

 コンデッサがツバキを優しく()でていると、馬頭が穏やかな声で説明した。


『セツ殿は、人の肉を(しょく)したりはしませんよ。もちろん、他の羅刹族もです』

「そうなのですね。間違った知識を披露(ひろう)してしまい、申し訳ない」

「安心したニャン」


『ただし、羅刹族の好物は、やっぱり肉料理です。肉汁のしたたるビーフレアステーキを、好んで食べます』

「にゃん」

「牛頭の花嫁がビーフステーキを食べるのは、マズいような気が……」


『そこは、セツ殿も、心を配っておられるのでしょう。他の羅刹族とは異なり、セツ殿は絶対に牛の肉を食べません。肉料理については、基本的に鳥肉を食べます。(にわとり)(かも)など……ダチョウの肉も、よく口にされるみたいです』

「夫である牛頭殿を、思い遣ってのことなのですね。聡明(そうめい)な方だ」

「出来た花嫁さんニャ」


『牛頭は、牛つながりで、妖怪の牛魔王と親交があるのです。そして牛魔王の奥様である鉄扇(てっせん)公主は、羅刹族の女性。牛魔王と鉄扇公主が、セツ殿を牛頭に紹介したというわけです。牛頭は、本当に幸運です。拙者にも、そのような縁故(えんこ)があれば……』


 馬頭が(くや)しそうに、つぶやく。


※牛魔王(ぎゅうまおう)……『西遊記』に登場する、強大な力を持つ牛の妖怪。主人公である孫悟空のライバル。鉄扇公主は、牛魔王の妻。『西遊記』の中で、鉄扇公主は羅刹女(らせつじょ)とも呼ばれる。


 コンデッサは、考える。


「話を伺っていると……単に牛頭殿へ謝るよりも、馬頭殿も花嫁を迎えるほうが、良い成り行きになるのではないでしょうか? これから先の馬頭殿と牛頭殿の仲を思うと、再び(こじ)らせないためには、そういう目標を馬頭殿が持ち、達成する必要が――」


 と、コンデッサが言いかけているところに、ツバキが元気よく声を出した。


「ご主人様が馬頭さんに、お嫁さんを紹介してあげると、上手くいくにゃ!」

「無茶を言うな、ツバキ。いくら私でも、地獄に喜んで嫁いでくれる女性の知り合いは居ないぞ」

「ご主人様は、魔女にゃのに?」

「魔女の『魔』は、魔法使いの『魔』であって、魔物や悪魔の『魔』じゃ無いからな」


 コンデッサとツバキと馬頭が(そろ)って悩んでいると、コンデッサの家に新しい客がやってきた。

 黒髪で、巫女服を着ている少女だ。


「コンデッサ、邪魔するぞ~。おや? 地獄の役人である馬頭ではないか? 妾が教えたとおり、コンデッサのもとへ相談に来たのじゃな。感心感心」

「アマちゃん様ニャン」

『これは、地獄でお目にかかった女神様ですか』


 ツバキや馬頭は、アマテラスを歓迎した。

 対して、コンデッサはアマテラスへ苦情を述べる。


「アマテラス様。貴方が馬頭殿へ伝えた言葉のために、私は今、苦労しています。責任を取ってください」

「な、なんじゃ? 〝責任〟は〝努力〟と並んで、妾の最も嫌いな言葉なんじゃが……」


 タジタジとなりつつ、アマテラスはコンデッサの抗議に耳を傾けた。


「ふ~む。早い話、馬頭は嫁が欲しいのじゃな。承知した。妾が、素晴らしい花嫁を紹介してやろう」

『ブルルル~!』


 アマテラスの発言に、馬頭が興奮しつつ大喜びする。


「アマテラス様。そのようにハッキリと仰って、大丈夫なのですか? 馬頭殿は、地獄の役人ですよ。地獄へ嫁いでくれる女性を探すのは、かなり難しいのでは?」

「妾に、心当たりがある。コンデッサは、妾の母上のことを知っておろう?」

「イザナミ様ですね」


「うむ。現在、妾の母上は、黄泉(よみ)の国で大王をやっておる。そこでは、多くの黄泉(よもつ)醜女(しこめ)が母上に仕えておるのじゃ。侍女としてな。彼女達を、馬頭に紹介してやろうと思う。会えば、1人くらいは馬頭と気が合う黄泉醜女が居るはずじゃ」


※黄泉醜女(よもつしこめ)……黄泉の国の恐い女性(怪物・悪霊)。日本神話に登場する。黄泉の国から地上へ逃げるイザナギ(イザナミの夫)を捕まえようと、追っかけてきた。


「黄泉の国の女性なら、地獄の役人相手でも気後(きおく)れしたりはしませんね」


 コンデッサは納得するが、馬頭が文句を言う。


醜女(しこめ)……。拙者としては、醜女の嫁を貰うのは辞退したい……』

「なんじゃ? ウマ(あたま)のくせに、贅沢なことを言うヤツじゃな。勘違いをしておるようじゃが、醜女は『醜い女』を指す言葉では無いぞ。醜女の〝(しこ)〟には『敵から憎まれるくらい強い』という意味があるのじゃ。聞け、馬頭よ。黄泉醜女とは、すなわち『黄泉の国のストロング・レディー』なのである!」


 胸を張り、声高らかに言い放つアマテラス。

 馬頭はソファから立ち上がり、喜びのウマ踊りをしながら(いなな)いた。


『ストロング・レディー。最高です。拙者、大歓喜! ヒヒヒヒヒ~ン!!!』


「馬頭さん。すごい勢いで(てのひら)を返したニャン」

強妻(きょうさい)が好きであるにしろ、調子に乗りすぎだ。馬に蹴られれば良いのに」



 後日。

 コンデッサとツバキは、アマテラスから馬頭の結婚話がどうなったのかを聞いた。


「馬頭は黄泉醜女の1人であるコメと、めでたく結婚した。牛頭とも仲直りをしたぞ」

「それは、良かったです」

「アマちゃん様が、馬頭さんとコメさんを会わせてあげたのニャ。アマちゃん様のファインプレーにゃん」


「新婚早々、馬頭は派手に夫婦ゲンカをしておる」

「え?」

「にゃ?」


「馬頭もコメも、喧嘩を楽しんでおるのじゃ。あれは〝喧嘩するほど仲良し〟というヤツじゃな。妾が見た時、馬頭はコメに馬乗りをされて(むち)で引っぱたかれておったが、とても幸せそうじゃった。『ブヒヒ~ン! 強い奥さん、最高ヒ~ン!』と歓喜の(いなな)きをしておったしな」

「……それは、良かった……です」

「コメさんと馬頭さんの、喜びのアブノーマルプレイにゃん」


「まぁ、何ごとも結果が全てじゃよ。馬頭とコメは、似合いの夫婦……要するに、ウマ(・・)が合ったのじゃ。馬頭はウマだけに!」

「アマテラス様、お見事です」

「アマちゃん様、ウマ(・・)いことを言うニャン。座布団10枚にゃ!」


 アマテラスとコンデッサとツバキは、ほがらかに笑い合った。

 ちなみに、この女神と魔女と黒猫。みんな独身である。将来を考えると、ノンキに他者の世話を焼いている場合では無い……という風に思考が働かないのは、ある意味、彼女たちも幸せなのかもしれない。




♢おまけ


 牛頭とセツ、そして馬頭とコメの結婚を祝って、コンデッサは《サバト――魔女の夜宴(やえん)》を開いた。


 雰囲気を重視して、会場は廃城。

 招待客は精霊や鬼、魔物や妖怪たち。あと、地獄と黄泉の関係者。


 コンデッサが宣言する。


「よく来てくれた! 今夜は、百鬼夜行(ひゃっきやこう)のパーティーだ! 魑魅魍魎ちみもうりょうの皆のために、ご馳走を用意したぞ!」

「不思議な料理がいっぱいニャ」

「だろう? ツバキ。これぞ、まさしく魑魅魍魎(ちみもうりょう)の前の、珍味猛量(ちんみもうりょう)……」


   挿絵(By みてみん)


 どんちゃん騒ぎで盛り上がる、魑魅魍魎たち。

 2組の新婚夫婦も、楽しそうにしている。


「牛頭さんと馬頭さんは野菜料理ばかり食べて、セツさんとコメさんは肉料理ばかり食べているニャン」

「あの2組の夫婦は、どちらも草食系男子と肉食系女子のカップルだからな。でもだからこそ、逆に凹凸(おうとつ)が噛み合って、夫婦仲が円満なのかもしれない」


 主賓(しゅひん)として牛魔王と鉄扇公主、それとイザナミが招かれているが、パーティーにアマテラスの姿は無かった。

 太陽神であるアマテラスが来ると、日の光が()して、夜宴が終わってしまう。そのためアマテラスは、このパーティーに招待されなかったのだ。


 天上の高天原で、アマテラスが叫ぶ。


「妾だけ仲間ハズレで、ひどいのじゃ~! けれど妾は物分かりが良いから、我慢するのじゃ。温泉タマゴと蒸し焼きプリンを食べて、今夜は過ごすのじゃ。ううう……落ちる涙のおかげで、タマゴとプリンの味が、しょっぱいのじゃ……グスン」


 あとで、お詫びとして、コンデッサはアマテラスへ、すき焼き(牛肉)とサクラ鍋(馬肉)をご馳走した。

 アマテラスは喜んで食べた。


「ニャ~。今回の出来事の()めとして、そういう料理を出すご主人様も、それを嬉しがって食べるアマちゃん様も、どうかと思うニャン」


 ツバキも動物の猫である以上、牛や馬の立場になって、考えないことも無いのである。


「でもツバキも、すき焼きやサクラ鍋を美味しいと思うだろう?」

「それは、もちろんニャ! ご主人様」




~おしまい~

 午年(うまどし)なので、馬の話を書いてみました! ……なんだか、ちゃんとした馬は登場していないような気もしますけど(汗)。


・日本神話の中のエピソードで、黄泉醜女はブドウやタケノコを食べていますが、本作では〝肉料理が好き〟ということになっています。

・ツバキは猫舌なので、少し冷ましてから、すき焼きやサクラ鍋を食べます。



 ご覧いただき、ありがとうございました!


 AI生成イラストは、副操縦士の家来様が『魔女の夜宴の夢』(ベルリオーズ:幻想交響曲より)をもとに作られたものです(中央に居るのはコンデッサ!)。

 挿絵として使わせていただきました。心より御礼申し上げます。

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― 新着の感想 ―
馬頭さんにもウマの合うお嫁さんが見つかって良かったですね! 言葉遊びがてんこ盛りで楽しかったです!
午年にふさわしい馬面、じゃなかった馬のお話でしたね! いや~、面白かったです!! 失礼な馬面と思ったら、馬の顔でw しかも注意したコンデッサがめっちゃディスってますしね。 しのぶさんお得意のダジャレが…
お邪魔します(^^) 馬面……ってか馬。馬頭でしたか( *´艸`) ツバキちゃん、そうとしか言えないですよね。 こうして見ると「馬」を使った言葉って多いですね。 それだけ人間の生活をそばで支えてく…
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