黒猫ツバキ、馬面(うまづら)のお客様に結婚相手を紹介する
登場キャラ紹介
・コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。
・ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。
・アマテラス……天照大神(あまてらすおおみかみ)。日本神話の太陽神にして最高神。外見は15歳くらい。巫女の格好をしている。1人称は「妾(わらわ)」。コンデッサやツバキと仲が良く、ツバキからは「アマちゃん様」と呼ばれている。
※本作は「ファンタジー的な異世界」「日本神話」「仏教関連」などがチャンポンとなった世界観で、ストーリーが展開しています。心を広く持ってお読みいただけるよう、お願いいたします。
※挿絵(AI生成イラスト)があります。
ここは、魔女コンデッサのお家。コンデッサの自宅は、ボロノナーレ王国の端っこの村にある。
ある日のこと。
コンデッサが自室で魔法の研究を熱心に行っているところに、黒猫のツバキがやって来た。
ツバキはコンデッサの使い魔である。使い魔であるため、猫であっても人間の言葉が喋れるのだ! 賢い猫なのだ!
「ご主人様。お客様が来たニャン。初めて見る方にゃ」
「そうか。新魔法の開発に集中していて、客の来訪に気付かなかった。待たせてしまったのなら、お客に悪いことをしたな」
「ご主人様、心配無用にゃ。お客様はアタシが挨拶して、リビングまで案内しておいたニャン」
「ツバキ、偉いぞ」
「えっへんニャ」
コンデッサとツバキは、リビングへ向かって歩き出した。
「それで、ツバキ。客は、どのような方なんだ?」
「馬面なお客様にゃ」
「……うまづら?」
「馬面にゃん」
ツバキの返答を聞き、コンデッサは溜息を漏らした。
「あのな、ツバキ。確かに〝縦に長い顔〟のことを『馬面』と形容するけれど、そのような言い方は、あまりするべきでは無い、場合によっては、相手に対して失礼にあたる」
「でも、あのお客様の顔は、どこからどう見ても、まさしく馬面にゃ」
「いや、だから……〝馬面〟という表現は、なるべく使うべきではないと……」
「別に『馬面』と呼んでも、お客様は怒らないと思うニャン。完全な馬面にゃんだから」
「それは、こちらが勝手に判断することじゃ無いぞ」
コンデッサは、リビングに入った。ツバキも続く。
室内のソファに、客が座っていた。
その客は、存在感が抜群だった。まず、ともかくデカい。立ったら、身長は3メートルくらいになりそうだ。着物をピシっと身にまとっており、姿勢を正している。上半身を眺めると、明らかにムキムキしていて、服の上からでも見事な筋肉質であることが良く分かった。たくましい体格の男性だ。
そして首から上は、馬の頭部になっていた。耳も目も鼻も口も――顔は、動物の馬そのものだった。フサフサとした鬣もある。
頭と首が、完全な馬だった。
どこからどう見ても、馬だった。
馬の頭に、人間の体。お客の姿は、そんなだった。
ひと呼吸して、コンデッサは冷静に話しかける。
「ようこそ、いらっしゃいました。私が、コンデッサです。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
『いえいえ。突然にお訪ねしたのは、拙者ですので。快くお会いしてくださり、感謝いたします。コンデッサ殿』
馬の口から発せられる、魅惑的な低音ボイス。
コンデッサは一瞬、目を閉じた。
「……スミマセン。もう少しだけ、お待ちいただけますか?」
『むろん、構いませんよ』
コンデッサはツバキを連れて、素早く自室へ引き返した。部屋へ入り、扉をシッカリと閉め、彼女はツバキを叱りつける。
「こら! ツバキ。『客の頭が、馬だ』と、何故ハッキリ言わなかったんだ!」
「アタシ、ちゃんと言ったニャン。『馬面なお客様にゃ』って」
「うっ。それはそうだが……。しかし、いくら馬面といっても、程度があるだろう? あれは馬面じゃ無くて『馬』だ。そのまんま『ウマあたま』だ。心底、ビックリしたぞ」
「でも、ご主人様は落ち着いて応対してたニャン」
「私にも、魔女のプライドというものがあってな。たかがウマ頭ごときに、慌てたりするわけにはいかないのさ」
「『たかがウマ頭ごとき』って……ご主人様のほうが、失礼な物言いをしてるのニャ」
「あのウマ頭、何者なんだろう?」
「お客様に直接、訊いてみるのが一番にゃ」
「そうだな」
コンデッサとツバキは、リビングへ戻った。
ウマ頭の客は、大人しく待っている。
コンデッサとウマ頭は、挨拶を交わす。
ウマ頭は自己紹介をした。
『拙者は、馬頭です』
「おお。馬頭殿でしたか」
「にゃ? メズさん?」
首をかしげるツバキへ、コンデッサは教えてやった。
「馬頭とは……地獄で亡者を責め苛む、そういう役をしている番人のことだよ。牛頭とセットで『牛頭馬頭』と語られるケースが多いな。…………再度、確認させてもらいます。貴方は、あの〝牛頭馬頭の馬頭〟で間違いないんですよね?」
コンデッサが尋ねると、ウマ頭……馬頭は頷いた。
『ハイ。拙者は、その馬頭です。地獄で役人を務めています』
「ニャ~!!!」
ツバキが怯える。
※牛頭馬頭(ごずめず)……牛頭は、牛頭人身の鬼。馬頭は、馬頭人身の鬼。生前に罪を犯した亡者たちを、地獄で待ち構えている獄卒(地獄の番人)。仏教の教えの中に登場する。
「にゃんで、地獄の役人さんが、この家に来たのにゃ!? まさか、ご主人様かアタシのどちらかを、地獄へ連れて行くためにゃんじゃ? 困るにゃ! 怖いにゃ! 馬頭さんは、成仏して退散するのニャ。南無南無南無ニャムニャムニャム……」
『はっはっは。黒猫殿。拙者に念仏は効きませんよ。「馬の耳に念仏」と言うではありませんか』
馬頭が、冗談を言う。外見に似ず、洒落が分かる性格らしい。
※「馬の耳に念仏」……何を言っても、効き目がないこと。
馬頭の真向かいの椅子に座っているコンデッサは、自分の膝の上にツバキをのせた。
「大丈夫だよ、ツバキ。馬頭殿は、そんな用事で来たんじゃない。もし仮に、私かツバキを強引に地獄へ連れて行こうとしたら――」
『どうされます? 魔女殿』
面白そうに、馬頭が問いかける。
「ちょうど今、新魔法の《文字の置き換え》を発明したところだったんですよ。その魔法を、貴方にかけます」
『《文字の置き換え》という魔法?』
「ええ。この魔法を浴びると、馬頭人身の貴方は、文字の『馬』と『人』の置き換えによって、人頭馬身になるわけです。姿も、そのとおりになります」
『つまり…………ヒヒヒヒヒ~ン~!』
4本脚の馬の体に、頭だけが人間となった自分の姿を思い浮かべ、馬頭は悲鳴を上げた。
ケンタウロスのような、首から上が人間の上半身の姿ならともかく、首の上に人間の頭だけがのっかている馬となると……カッコ悪すぎる。
恐怖のあまり震え上がっている馬頭を見て、ツバキはコンデッサの膝の上で喜んだ。
「地獄の役人さんを怖がらせるニャんて、ご主人様はさすがニャン!」
・
・
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そんなこんなで、お騒がせタイムは終了し――
改めて、馬頭がコンデッサに述べる。
『拙者がコンデッサ殿をお訪ねしたのは、相談したいことがあったからです。個人的な内容で、恐縮なのですけれど』
「そうだったのですか……そもそも、馬頭殿はどうして、私のことをご存じなのですか? 不思議でなりません」
『ご質問に答える前に、ひとつ訂正させてください。拙者は地獄に堕ちてこられた方々――亡者の皆様を、責め苛みなどしておりません。地獄での拙者の仕事は、亡者へのカウンセリングです』
「カウンセリング?」
『はい。亡者となった方がクヨクヨしていたら「〝人間万事、塞翁が馬〟とも言いますよ」と語りかけ、少しでも早く成仏して地獄から抜け出せるように、そのお手伝いをしているのです』
※「人間万事、塞翁が馬」……何が幸せで、何が不幸せであるかは、後になってみないと判断できないということ。
馬頭の仕事に、コンデッサは感心した。
「立派な務めですね」
『地獄に居る亡者の数が減ると、それだけ仕事が楽になりますし。「汗馬の労(苦労しながら駆けまわり、働くこと)」など、今どき流行りません。有給休暇の日数の、更なる増加を望みます! 地獄を、もっと楽な職場に! ヒンヒンヒン!』
「はぁ……」
『そのような次第で、地獄で拙者が仕事に励んでおりますと、1柱の女神が「地獄見物じゃ。これは社会勉強なのじゃ。見聞を広げるためなのじゃ。けっして機織りをするのに飽きて、高天原を脱走してきたわけではないのじゃ」と言いながら通りかかったのです』
「ほぉ」
「にゃあ」
コンデッサとツバキは、顔を見合わせた。
『女神は「これが地獄名物の温泉タマゴか? 美味しいのじゃ」と卵を食べつつ、拙者と世間話をしたのです。そのとき、女神は「地上世界のボロノナーレ王国に、コンデッサという名前の魔女が住んでおっての。とっても頼りになる魔女なのじゃ。妾も、何度も助けてもらっておる。なに? 馬頭よ。お主、悩み事があるのか? ならば、コンデッサに相談するといい。きっと、良い解決案を示してくれるぞ。間違いない。妾が保証する! お主に適切なアドバイスをしてやった、妾って親切じゃの~。お礼をして欲しいと、妾は言ったりはせんが…………何かを要求するような、恥ずかしいマネは決してしないが…………ところで地獄の名物に、温泉タマゴの他に、蒸し焼きプリンがあると聞いた。誰か、妾に差し入れしてくれたりはせんじゃろか? のぉ、馬頭。妾は、プリンが食べたい~!」といった事柄を口にしました』
「ほぉ」
「にゃあ」
『女神は、15歳くらいの少女の姿をしていました。黒い髪に黒い瞳で、巫女服を着ており、「日光日光ニッコニコ~♪ 地獄の闇でもサンサンサン~♪ そんな妾は太陽神~♪」と歌いながら――』
「いえ。馬頭殿。その話は、もう結構です」
「どう考えても、地獄を訪れた女神はアマちゃん様にゃん」
『その女神の助言に従い、拙者はコンデッサ殿をお訪ねしたわけです』
「分かりました。それで、馬頭殿。私に相談したい事とは、何なのでしょう?」
「にゃんだかんだで、馬頭さんの話を聞いてあげる……。ご主人様も、たいがい親切なのニャ」
最初、馬頭は話しづらそうにしていたが、結局は口を開いた。
『実は……拙者の同僚である牛頭が、つい先日、結婚したのです』
「それは、めでたい」
「素敵ニャン」
『しかし、それから毎日のように牛頭は拙者へ、嫁さん自慢をしてくるのです。「うちの嫁は、モウ最高だ~!」……と。はじめの頃はブヒンブヒンと聞いていたのですが、あまりにも何度も何度も言ってくるので、ウザくなってしまい……』
「ふむ」
「ニャン」
『拙者は、牛頭へ「いい加減にしろ! お前の新婚自慢は、聞き飽きた!」と言い返しました。すると牛頭は「モウ、言わない。独り者の馬頭には、つらい話だったな。気が付かなくて、モウしわけない。モウ~モウ~」などと、ふざけたセリフを! 拙者は頭にきて「黙れ、牛頭! 新婚ボケで涎をダラダラ流し、貴様はみっともないわ! このノロマ! デブな鈍牛!」と喚いてしまい……。牛頭は「なんだと! 馬頭よ。貴様こそ、最近、たてがみの形をやけに気にしているではないか! こっそりと香油を塗って櫛を入れながら『今日も、拙者のたてがみは麗しい。美形な駿馬である拙者は、もっとモテるのが当然だ。彼女が欲しいヒヒ~ン』と鏡へ語りかけているのを、ワシは知っているぞ! 哀れな駄馬め」と罵ってきて……。拙者と牛頭は、大喧嘩をしてしまったのです』
「ふむ」
「ニャン」
『けれど、今は頭が冷えました。牛頭と仲直りがしたいのです。何か良い方法はないでしょうか?』
「それが、私への相談事なのですね?」
『ええ』
考え込む、コンデッサ。
一方、ツバキは得意な顔をして、馬頭に言う。
「美味しい料理を牛頭さんにプレゼントするのが、良いと思うニャン。ビーフシチューや、牛丼や、ビーフステーキがオススメにゃ」
「いや、ツバキ。そのメニューを牛頭の前に出して『食べて』なんて言ったら、大変なことになるぞ。牛肉の料理を、牛頭人身の鬼へ勧める……それこそ、牛頭と死闘を演じるハメになるな。肉料理を贈るなら、羊肉のローストや豚肉の生姜焼きなんかが、無難だろう」
コンデッサの提案に対し、馬頭は遠慮がちに言葉を返した。
『拙者も牛頭もベジタリアンなので、肉料理はチョット……』
「ああ……牛も馬も、草食動物でしたね」
「アタシはお肉もお野菜も、美味しく食べるニャン」
「しかし……ぶしつけながら質問させてもらいますが、牛頭殿も馬頭殿も、地獄の役人なのでしょう? 住んでいる場所も、地獄なんですよね?」
『そうです』
馬頭が、首を縦に振る。
「地獄での生活をOKしてくれる花嫁が、よくぞ現れたものだなぁ……と。私としては正直、そう思ってしまいます」
『コンデッサ殿がそのように考えられるのも、無理はありません。地獄の役人たちが嫁不足に悩んでいるのは、事実です。けれど、地獄での暮らしにスンナリ馴染んでくれる女性も居るのですよ。牛頭の嫁も、その1人です』
「興味深いですね。どのような女性なのですか?」
『名前はセツ殿です。セツ殿は、羅刹族の女性です』
※羅刹(らせつ)……人を喰らう悪鬼。仏教やインド神話の世界に登場する。
「ニャン? 羅刹族……って、ニャニ? ご主人様」
「羅刹とは、悪鬼の一族だよ。ツバキ。羅刹は力持ちで、足が速く、人を惑わすこともあり、人の血肉を好んで食う……と言われている。羅刹族の女性とは……まさに、地獄の役人である牛頭殿の花嫁に相応しい方なのかも……」
「にゃ、にゃ、人の血肉を……にゃにゃにゃ!?」
ツバキが怯え、尻尾を体に巻き付ける。
コンデッサがツバキを優しく撫でていると、馬頭が穏やかな声で説明した。
『セツ殿は、人の肉を食したりはしませんよ。もちろん、他の羅刹族もです』
「そうなのですね。間違った知識を披露してしまい、申し訳ない」
「安心したニャン」
『ただし、羅刹族の好物は、やっぱり肉料理です。肉汁のしたたるビーフレアステーキを、好んで食べます』
「にゃん」
「牛頭の花嫁がビーフステーキを食べるのは、マズいような気が……」
『そこは、セツ殿も、心を配っておられるのでしょう。他の羅刹族とは異なり、セツ殿は絶対に牛の肉を食べません。肉料理については、基本的に鳥肉を食べます。鶏や鴨など……ダチョウの肉も、よく口にされるみたいです』
「夫である牛頭殿を、思い遣ってのことなのですね。聡明な方だ」
「出来た花嫁さんニャ」
『牛頭は、牛つながりで、妖怪の牛魔王と親交があるのです。そして牛魔王の奥様である鉄扇公主は、羅刹族の女性。牛魔王と鉄扇公主が、セツ殿を牛頭に紹介したというわけです。牛頭は、本当に幸運です。拙者にも、そのような縁故があれば……』
馬頭が悔しそうに、つぶやく。
※牛魔王(ぎゅうまおう)……『西遊記』に登場する、強大な力を持つ牛の妖怪。主人公である孫悟空のライバル。鉄扇公主は、牛魔王の妻。『西遊記』の中で、鉄扇公主は羅刹女とも呼ばれる。
コンデッサは、考える。
「話を伺っていると……単に牛頭殿へ謝るよりも、馬頭殿も花嫁を迎えるほうが、良い成り行きになるのではないでしょうか? これから先の馬頭殿と牛頭殿の仲を思うと、再び拗らせないためには、そういう目標を馬頭殿が持ち、達成する必要が――」
と、コンデッサが言いかけているところに、ツバキが元気よく声を出した。
「ご主人様が馬頭さんに、お嫁さんを紹介してあげると、上手くいくにゃ!」
「無茶を言うな、ツバキ。いくら私でも、地獄に喜んで嫁いでくれる女性の知り合いは居ないぞ」
「ご主人様は、魔女にゃのに?」
「魔女の『魔』は、魔法使いの『魔』であって、魔物や悪魔の『魔』じゃ無いからな」
コンデッサとツバキと馬頭が揃って悩んでいると、コンデッサの家に新しい客がやってきた。
黒髪で、巫女服を着ている少女だ。
「コンデッサ、邪魔するぞ~。おや? 地獄の役人である馬頭ではないか? 妾が教えたとおり、コンデッサのもとへ相談に来たのじゃな。感心感心」
「アマちゃん様ニャン」
『これは、地獄でお目にかかった女神様ですか』
ツバキや馬頭は、アマテラスを歓迎した。
対して、コンデッサはアマテラスへ苦情を述べる。
「アマテラス様。貴方が馬頭殿へ伝えた言葉のために、私は今、苦労しています。責任を取ってください」
「な、なんじゃ? 〝責任〟は〝努力〟と並んで、妾の最も嫌いな言葉なんじゃが……」
タジタジとなりつつ、アマテラスはコンデッサの抗議に耳を傾けた。
「ふ~む。早い話、馬頭は嫁が欲しいのじゃな。承知した。妾が、素晴らしい花嫁を紹介してやろう」
『ブルルル~!』
アマテラスの発言に、馬頭が興奮しつつ大喜びする。
「アマテラス様。そのようにハッキリと仰って、大丈夫なのですか? 馬頭殿は、地獄の役人ですよ。地獄へ嫁いでくれる女性を探すのは、かなり難しいのでは?」
「妾に、心当たりがある。コンデッサは、妾の母上のことを知っておろう?」
「イザナミ様ですね」
「うむ。現在、妾の母上は、黄泉の国で大王をやっておる。そこでは、多くの黄泉醜女が母上に仕えておるのじゃ。侍女としてな。彼女達を、馬頭に紹介してやろうと思う。会えば、1人くらいは馬頭と気が合う黄泉醜女が居るはずじゃ」
※黄泉醜女(よもつしこめ)……黄泉の国の恐い女性(怪物・悪霊)。日本神話に登場する。黄泉の国から地上へ逃げるイザナギ(イザナミの夫)を捕まえようと、追っかけてきた。
「黄泉の国の女性なら、地獄の役人相手でも気後れしたりはしませんね」
コンデッサは納得するが、馬頭が文句を言う。
『醜女……。拙者としては、醜女の嫁を貰うのは辞退したい……』
「なんじゃ? ウマ頭のくせに、贅沢なことを言うヤツじゃな。勘違いをしておるようじゃが、醜女は『醜い女』を指す言葉では無いぞ。醜女の〝醜〟には『敵から憎まれるくらい強い』という意味があるのじゃ。聞け、馬頭よ。黄泉醜女とは、すなわち『黄泉の国のストロング・レディー』なのである!」
胸を張り、声高らかに言い放つアマテラス。
馬頭はソファから立ち上がり、喜びのウマ踊りをしながら嘶いた。
『ストロング・レディー。最高です。拙者、大歓喜! ヒヒヒヒヒ~ン!!!』
「馬頭さん。すごい勢いで掌を返したニャン」
「強妻が好きであるにしろ、調子に乗りすぎだ。馬に蹴られれば良いのに」
・
・
・
後日。
コンデッサとツバキは、アマテラスから馬頭の結婚話がどうなったのかを聞いた。
「馬頭は黄泉醜女の1人であるコメと、めでたく結婚した。牛頭とも仲直りをしたぞ」
「それは、良かったです」
「アマちゃん様が、馬頭さんとコメさんを会わせてあげたのニャ。アマちゃん様のファインプレーにゃん」
「新婚早々、馬頭は派手に夫婦ゲンカをしておる」
「え?」
「にゃ?」
「馬頭もコメも、喧嘩を楽しんでおるのじゃ。あれは〝喧嘩するほど仲良し〟というヤツじゃな。妾が見た時、馬頭はコメに馬乗りをされて鞭で引っぱたかれておったが、とても幸せそうじゃった。『ブヒヒ~ン! 強い奥さん、最高ヒ~ン!』と歓喜の嘶きをしておったしな」
「……それは、良かった……です」
「コメさんと馬頭さんの、喜びのアブノーマルプレイにゃん」
「まぁ、何ごとも結果が全てじゃよ。馬頭とコメは、似合いの夫婦……要するに、ウマが合ったのじゃ。馬頭はウマだけに!」
「アマテラス様、お見事です」
「アマちゃん様、ウマいことを言うニャン。座布団10枚にゃ!」
アマテラスとコンデッサとツバキは、ほがらかに笑い合った。
ちなみに、この女神と魔女と黒猫。みんな独身である。将来を考えると、ノンキに他者の世話を焼いている場合では無い……という風に思考が働かないのは、ある意味、彼女たちも幸せなのかもしれない。
♢おまけ
牛頭とセツ、そして馬頭とコメの結婚を祝って、コンデッサは《サバト――魔女の夜宴》を開いた。
雰囲気を重視して、会場は廃城。
招待客は精霊や鬼、魔物や妖怪たち。あと、地獄と黄泉の関係者。
コンデッサが宣言する。
「よく来てくれた! 今夜は、百鬼夜行のパーティーだ! 魑魅魍魎の皆のために、ご馳走を用意したぞ!」
「不思議な料理がいっぱいニャ」
「だろう? ツバキ。これぞ、まさしく魑魅魍魎(ちみもうりょう)の前の、珍味猛量(ちんみもうりょう)……」
どんちゃん騒ぎで盛り上がる、魑魅魍魎たち。
2組の新婚夫婦も、楽しそうにしている。
「牛頭さんと馬頭さんは野菜料理ばかり食べて、セツさんとコメさんは肉料理ばかり食べているニャン」
「あの2組の夫婦は、どちらも草食系男子と肉食系女子のカップルだからな。でもだからこそ、逆に凹凸が噛み合って、夫婦仲が円満なのかもしれない」
主賓として牛魔王と鉄扇公主、それとイザナミが招かれているが、パーティーにアマテラスの姿は無かった。
太陽神であるアマテラスが来ると、日の光が射して、夜宴が終わってしまう。そのためアマテラスは、このパーティーに招待されなかったのだ。
天上の高天原で、アマテラスが叫ぶ。
「妾だけ仲間ハズレで、ひどいのじゃ~! けれど妾は物分かりが良いから、我慢するのじゃ。温泉タマゴと蒸し焼きプリンを食べて、今夜は過ごすのじゃ。ううう……落ちる涙のおかげで、タマゴとプリンの味が、しょっぱいのじゃ……グスン」
あとで、お詫びとして、コンデッサはアマテラスへ、すき焼き(牛肉)とサクラ鍋(馬肉)をご馳走した。
アマテラスは喜んで食べた。
「ニャ~。今回の出来事の締めとして、そういう料理を出すご主人様も、それを嬉しがって食べるアマちゃん様も、どうかと思うニャン」
ツバキも動物の猫である以上、牛や馬の立場になって、考えないことも無いのである。
「でもツバキも、すき焼きやサクラ鍋を美味しいと思うだろう?」
「それは、もちろんニャ! ご主人様」
~おしまい~
午年(うまどし)なので、馬の話を書いてみました! ……なんだか、ちゃんとした馬は登場していないような気もしますけど(汗)。
・日本神話の中のエピソードで、黄泉醜女はブドウやタケノコを食べていますが、本作では〝肉料理が好き〟ということになっています。
・ツバキは猫舌なので、少し冷ましてから、すき焼きやサクラ鍋を食べます。
♢
ご覧いただき、ありがとうございました!
AI生成イラストは、副操縦士の家来様が『魔女の夜宴の夢』(ベルリオーズ:幻想交響曲より)をもとに作られたものです(中央に居るのはコンデッサ!)。
挿絵として使わせていただきました。心より御礼申し上げます。




