能力の発現
死にたくない、頭の中がその思いで埋め尽くされた。必死に助かる方法を考える。しかし、初めから解なんて存在するはずもなく、ただただ時間だけが過ぎ去っていった。時間に反比例して、生への執着は強まっていく。
「うおおおおお」
それはまさしく生存本能からの魂の咆哮だった。考え抜いた末に編み出した作戦はゴブリンを威嚇して、その隙に逃げるという誰もがすぐに思い浮かぶものだった。
少しだけゴブリンが後ろに押し出されたかのように見えた。それは、俺に怯んで後退りしただけなのかもしれないし、そもそも勘違いでアドレナリンがドバドバの脳が見せた幻覚だったのかもしれない。
チャンスは今しかない
俺は必死に森を抜けるべきに来た道を全力疾走で引き返した。木の枝や、葉が肌を傷つけていく。既に着ていた衣類は原型をとどめていなかった。
村が見えてきた頃にはもう日が沈みかけていた。数名が俺たちの安否を心配して、森の前に
集まっていた。どうやら俺たちを探しに行くかどうかを話し合っていたらしい。
真っ先に俺のもとに駆け寄ってきたのは、ハルカの母親だった。俺はついさっきまで頭から抜けていたハルカのことを思い出し、再び自己嫌悪に陥った。
「良かった、本当に良かった……」
ハルカの母親は目に涙を浮かべ、俺に抱きついてきた。
「エデンはどこにいるの」
続いて俺の母が不安を必死に押し殺して聞いてきた。今にも夜の森に飛び込みそうな勢いだ。
「えっ……」
俺は困惑を隠せずそう言った。何が起こっている、予想外の状況に頭が追いつかない。しかも自分の体にも違和感がある。
あれっ、髪の色が茶色になっている。そして、下を向くと胸に膨らみがあることに気づく。 そして、水たまりにはもうこの世にはいないはずのハルカの顔が映っていた。体がハルカに変わっている?よくよく考えたら、ゴブリンが一瞬怯んだのもハルカの能力なのか?
「うっ」
体内の異物が口から出そうになる。俺はまさかハルカの能力を奪ったのか、自分の命のために。
多くの人を救う英雄に憧れていた俺の能力は死者の能力を奪うという正反対のものだった。