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空知川の岸辺の憂鬱(三)

全五回連載の三回目です。

 札幌から来た独歩が降り立ったのは、滝川ではなく、今は存在しない「空知太駅」だった。空知太駅が開設されたのは独歩来訪の3年前の1892年で、当時日本最北の駅だった。作品中では駅名は出ておらず、「蕭条たる一駅」 と述べられているにすぎないが、最果ての駅の物寂しい様子を、独歩は印象的に描いている。


 「たゞ見る此一小駅は森林に囲まれて居る一の孤島である。停車場に附属する処の二三の家屋の外人間に縁ある者は何も無い。長く響いた気笛が森林に反響して脈々として遠く消え去せた時、寂然として言ふ可からざる静さに此孤島は還つた」


 鉄道が空知川の右岸まで延伸し、滝川駅が開設され、空知太駅が廃駅となるのは1898年のことだ。空知太小学校の横を通る道(旧十勝街道)と函館本線が交差するすぐ手前(通称“赤鉄橋”の砂川寄り)に、空知太駅跡の碑がぽつんと立っている。わずか6年間ながら、原生林の大海の中に浮かんでいた孤島は、忘却という深海の底に、誰にも気付かれることなく没み去ってしまったかのようだ。

 独歩は駅馬車に乗り、6年前に完成した上川道路(現在の国道12号線)を空知川の方へと向かい、三浦屋(現在の滝川ホテル三浦華園)に立ち寄る。当時、三浦屋は滝川ではなく、空知川左岸(砂川側)の、現在の空知大橋より少し上流の堤防内河川敷にあったという。前々回述べた滝川公園のすぐ近くだ。なんということはない。馬車で三浦屋に寄ったという記述から、独歩は滝川の駅で降りたに違いないと、私が勝手に思い込んでいただけのことだったのだ。

 ただ、勘違いしていたのは独歩も同じようだ。空知川沿岸ということで、当然、空知太駅から、川沿いの道路を行くものだと思い込んでいたが、当時道はまだなかった(一部が開通していただけで、貫通するのは12年後の1907年)。目的地の原野に出るためには、歌志内から山を越えるしか方法のないことを、独歩は三浦屋の主人から教えてもらう。実際には道庁の貸し下げ告示文に最寄りは歌志内駅とはっきり記されていたのだが、独歩の頭の中の地図でも、歌志内→空知川沿岸というのがうまくつながらず、頭の片隅に追いやってしまったようなのだ。

 三浦屋の二階で休む独歩の眼前には荒涼とした光景が広がる。


 「伐り残された大木が彼処此処に衝立つて居る。風当りの強きゆゑか、何れも丸裸体になつて、黄色に染つた葉の僅少ばかりが枝にしがみ着いて居るばかり、それすら見て居る内にバラ/\と散つて居る」


 いやがうえにも旅愁が募る。独歩は主人の忠告に従い、馬車に乗って空知太駅に引き返し、砂川駅で乗り換えて、夕方には歌志内駅に着く。その夜は歌志内の宿に泊まり、翌日、宿の少年に案内されて山を越える。背丈ほどもある熊笹の群生を抜けると、大きな新開の道路に出た。今の赤平市茂尻元町北の国道38号線沿い、「独歩苑」という小さな公園がある辺りだ。


 と、さも苦労をして調べたようなことを書いているが、なんということはない。独歩来訪は、赤平市民なら学校で必ず教わる、ほとんど“常識”といった話らしい。滝川や砂川ではあまり知られていないけど、赤平では誰もが知っているということだったのだ……。


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