人間博士
――研究者達は魂の観測に成功した――
遂に時代は魂の製造へと移ったのだ。
観測した魂を元にそれをデータ化。また、それらを元に全く別の新しい魂を作ることができる。
ボタン一つで魂を作れる時代がやって来たのだ。
「―――私たちは今、新しい一歩を踏み出そうとしています。この革新が更に我々の可能性を広げ、未来を形作っていくことでしょう」
盛大な拍手が巻き起こる。
「いやぁ流石は先生ですね。魂製造の先駆者、M博士」
「まだまださ。この研究を推し進めることで、精神病の根本の原因や不老不死の実現。これは夢が広がるね」
そう言ってワハハと笑う。
「そのためにはより多くの魂を作る必要がある。なに、魂といっても勿論人のものではないよ。ボタン一つで作ったヤツを、だ」
「それって、人道的にどうなんですかね? 」
「今更それを言うかね。より大きな利益のためにはそれ相応の対価が必要だ。それに、魂なんて大袈裟なことを言っているが、結局はただのデータだよ。人の魂のデータから作られた、ただのコピーだ」
今日はその転換点なんだよ、とM博士は言った。
その通りだった。
確かにこの日、転換点を迎えていた。
ー◇ー
M博士の名は世界に知れ渡った。
当たり前だ。彼はボタン一つで魂を作れるのだから。正に神の所業。
それしか言いようのない神秘に世界は夢中になった。
また、それと同時に批判も大きくなっていった。
「あぁ、M博士? 彼はどうかと思うね。魂の製造? それも研究の為? データだなんやらと言っているが結局は命であることに違いないのだろう?人道に反するね」
「彼は人の命をなんだと思っているんだ! 魂ってつまりは命ってことだろ!? 今すぐこんなこと止めさせるべきだ! 彼は悪魔だ!! 」
『Stop him!』
「博士、今日も研究所の前でデモ隊が騒いでいます。もうこんなこと止めるべきなんじゃ……」
「君も一体何を思っているんだ! 百の犠牲がなんだ。それで百の命を助けられるならいいじゃないか!どうして分からないんだ!! その犠牲になった百の命だって本物の命ではないと言うのに……」
止めましょう!という声を振り切って博士は研究を続けた。どれだけ批判があろうと有用なものは有用なのだ。補助金は望めば望むだけ貰えたものだから、研究が止まることはなかった。
ボタンを押す。魂ができる。実験する。壊れる。ボタンを押す。
その繰り返しだ。
そして遂に。
「こんなこと、許すものか……! 」
博士はナイフでグサリと刺された。
そして博士は殺された。いや、殺されたはずだった。
グサリと深く突き刺さったナイフがカランと音を立てて抜け落ちる。
「なんで……」
「なぜ私は生きているんだ」
抜け落ちたナイフには血が一切付いていない。
それどころか出血した様子もない。
「私はきちんと出生届を出している。なら一体いつから……そうか。私は既に!」
博士は狂ったように笑い出した。
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