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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第十話 それぞれの愛】
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10-4


互いの想いを通じ合わせた二人だったが、木蔭に寄り添うダーオはいつしか眠ってしまっていた。波の音に包まれて、太陽の日差しに照らされて、ふと目を覚ましたダーオは隣に居るはずのロムがいない事にはたと気が付いた。


「…ロム?」


ダーオは目が覚めて最初にロムを見たかった。けれど忽然と姿を消しているロムにダーオは胸騒ぎを覚える。やっとロムへの恋心を自分に許そうとした矢先でロムはどこかへ行ってしまった。


(…どこに行った…?)


ダーオはまず初めに何から着手していいのかわからなくなる。鼓動が徐々に早くなってゆく。もう一度、今度は名前を叫ぼうとしたところで、ふと遠くから原付バイクの音が聴こえて来た。


「ッ…?」


ダーオが見つめた先は椰子の並木の向こう側で、程なくハイビスカスの並木がガサガサと揺れた。垣根の間から姿を現したのは原付バイクに乗ったロムとスカイだった。


「…スカイとロム?なんで…」


ダーオは運転手のロムとスカイを交互に見つめる。なぜ二人は一緒にいるのか。スカイはダーオの部屋で寝ていた筈だ。

原付バイクの後ろに乗っているスカイは眩しそうにダーオを見つめていた。まるで朝日を眺めるみたいに、或いは煌めく宝石を眺めるように。もう元には戻ってはこないダーオを前に、愛しい気持ちが消えたかと問われるとスカイは言い淀んでしまう。まだこの傷跡は瘡蓋にもなっていない。本音を言えばまだ愛している。


「…ダーオ」


別れた二人の間に絡む視線は少しばかり寂しくて、互いの胸にちくりと針が刺す。まだもう少し、この関係を思い出にするには時間が必要だ。

スカイが初めて他者と心を繋いだのはダーオだった。そして初めて他者と心を離したのもダーオだった。この切なく愛しい思い出の全てをスカイは忘れる事が出来ない。きっと一生心の真ん中にある。


「ねぇ、ダーオ…次に僕が誰かと心を交わし合うなら、もう二度と悲しい想いはさせないと誓う。…全てダーオが教えてくれたんだ…」


もし二人の仲が壊れて居なければ、スカイは二度と戻らぬものがこの世にはあると言う事にきっと気付けなかった。

この関係を終えた時、最後にダーオはそれをスカイに教えてくれた。恨みや悲しみに満ちた別れでこの関係を穢さなかったダーオは凛としている。二人の楽しかった思い出や交わした心は否定しなかったダーオだ。この恋は遊びの恋ではなかった。

ダーオがあまりに真っ直ぐな視線を向けるものだから、スカイはつい言葉が零れる。


「ありがとう、ダーオ…」


この言葉は本心だ。見つめ合う二人の視線にはもう未練が混じる事はない。

ロムはなんとか我慢をしていたが、やはりスカイとダーオが見つめ合うその視線が気に入らなかった。途端に無愛想な顔に眉を顰めさせてスカイとダーオの間に割って入る。


「…ダーオの了承を得ぬまま俺はダーオを奪った」


ロムはスカイに殴られる覚悟でそれを言う。どんなに言い訳を並べたとて事実は事実だ。まだスカイの物だったダーオを力づくで蹂躙したロムの罪は消せない。


「…でもな、ダーオはもうお前の物じゃない。絶対に返さない。…俺が貰う」

「おっ…おい、こらロム…!」


ダーオの前では素が出てしまうロムだ。ロムはやっぱり子供っぽい。ロムの宣戦布告にダーオは焦るが、スカイは清々しい瞳で二人を見つめていた。これ以上の未練をダーオに向けてもダーオは帰ってこないことをスカイは既に知っている。これ以上執着してしまうと、楽しかった思い出までも自分の手で壊してしまう。

この関係の終焉となる切っ掛けを作ってしまったスカイが出来る事はただ一つ、ダーオを諦める事だけだ。


「…ダーオを不幸にしないでね」


そんな事はお前に言われなくても分かっている、とでも言いたげにロムは眉を顰めた。やはり二人は犬猿の仲だ。ロムは一度深呼吸をして、大人気なかった態度を改めるように頬を打つと、大海原に指を指した。スカイにはどうしても伝えておきたい事がある。


「…この海の先に居る父親の帰りを、ダーオはずっと待ってた」

「…!」


いつもダーオに支えて貰っていたスカイは、ダーオが抱える悲しみを覗こうともしなかった。もし二人が付き合っている時にこの砂浜の存在を知っていたらどうなっていただろう。スカイはかつての未熟だった自分を想像してみる。


(きっと僕は怒ってた…)


幼いが故の独占欲で、大嫌いなロムと秘密を共有するダーオをスカイは詰っていたに違いない。

ロムはスカイに向き合うと真剣な表情になった。


「…なぁスカイ、頼む。どんなにホントンがリゾートを開発しても…」


ヘブン島は慈悲深い。ヘブンの胎内で遊ぶ全ての者達に風を届ける。慈愛の風はその愛しくも情に翻弄される哀れな者達の頬を優しく吹き抜いてゆくのだ。


「この砂浜だけは…残して欲しい。…頼む」


夕陽が沈む水平線に向かってホテルをもう一つ建設すればきっとヘブン島は人気を博すだろう。今はその計画が無くとも、スカイの監修するフルムーンパーティが定着すれば新たな建設企画が湧きあがる事くらい容易に想像ができる。

けれどダーオが父親を待つこの砂浜だけは壊さないでいて欲しいとロムは願う。ダーオの為ならばスカイに頭を下げる事など何の苦でもない。ちっぽけな己のプライドなどかなぐり捨てる事も厭わない。


(…俺は何も持ち得ない。世界を動かす財力も何もない)


ロムにあるのはダーオをひたむきに想う慕情だけだ。たったそれだけしかない。けれど、ただそれだけあればいい。


「…分かったよ。…誓う」


両親に抗えないスカイの心の弱さがダーオとの未来を途絶えさせてしまった。

これはスカイにとっての贖罪なのかもしれない。もしくはスカイが示せるたった一つの愛の証明だ。もう二人の道が交わる事は無いけれど、本当にダーオを好きだったことを証明する為にはこの道しかスカイには残っていない。


(ダーオはもう横にはいてくれない。…僕は一人で歩まなきゃいけないね…)


どんな未来が待ち受けているかは分からない。けれどスカイは確かにダーオから教わった。人生は選択の連続だ。それぞれが選択した先の未来を愚直に進んでいくしかない。


(…やり直しは効かないんだよね、ダーオ…)


美しいヘブン島の大海原がキラキラと輝く。三人の背に太陽が昇る。

水面は(さざなみ)、エメラルドの波に煌めきの数だけ魚は泳ぎ、地上には食べ切れぬ程の果物が身を結ぶ。

瑞々しいこの島の変哲もないいつもの一日が今日も始まりを告げる。


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