10-2
お伝え忘れてました。10月16日最終話です。
「…スカイは?」
ロムは言っておきながら自己嫌悪だ。
もっと他の話題を振ればよかったと後悔するが遅い。ダーオへ向ける慕情を前にロムは取り繕えない。
ダーオは笑いながら肩を竦める。
「寝かしつけて来たよ」
「…子供か、あいつは」
一口飲んだビールがロムの喉を冷やす。もう一口飲もうとしたら、ダーオに横から奪われてしまった。
「…あっ」
「全部飲むなよ!一本しか無いって言っただろ」
「…あぁ」
ダーオはごくごくと喉を鳴らしてビールを飲む。潮騒が二人を包み、さざめく音が耳に優しい。
余計なものを隠してしまうこの暗闇が純度の高い二人の感情を浮かび上がらせた。
見てくれも何も関係ない、この美しいヘブン島で育ったロムという人間とダーオという人間。二人だけしか存在しないこの砂浜で、互いの精神だけを見つめる事が許される夜である。誰に格好つけた姿を見せる必要があろうか。二人は幼い頃からお互いの全てを知っている。
この変わらない砂浜で、変わらない波の音がここにある。風に騒つく椰子の並木の葉が擦れる音。虫達の羽を擦る音色。今こそ心の鎧を纏わずに会話をするには相応しい、そんな夜ではないか。
「…なぁ、ロム。お前、俺がスカイを庇ったのを拗ねてるだろ」
図星だ。唐突に確信を突かれたロムはばつが悪い。今更それを暴いて何になる。ダーオの意図がわからぬロムは眉を顰める。ダーオが選んだ相手はスカイだと言う結論が、普段は無表情で不愛想なロムを年相応の青年にする。
「…あぁ」
それだけ言うとロムはそっぽを向いてしまった。
どんなに格好悪かろうと、どんなに嫉妬深かろうと、これがロムなのだ。見てくれは成長し、涼やかな切長一重の瞳と寡黙さが彼を大人っぽく見せている。けれど内面は変わらない。今も昔もロムは言い訳をする代わりに黙ってしまう。どこか子供っぽい部分があってこそのロムだとダーオは思う。
クックックと笑いながらダーオはロムの肩を抱いた。
「お前が蒔いた種なのにさぁ」
意味深な事を言うダーオに、ロムは理解が出来ずダーオに振り向く。抱かれている肩が熱い。その拍子にダーオはロムの唇に自身の唇を近づけた。
「…ッ!?」
それが二人の初めて心の通ったキスだった。ロムはフリーズしてしまう。固まったままダーオから目が離せないロムに、ダーオはまたもや苦笑する。
「…いや、だから驚く時くらいは声を出せよ」
「ッ…」
「ン〜?むっつり君め」
そう言ってダーオはロムのおでこを指で弾くのだ。ロムの動揺はなかなか収まらない。
暗闇の中に唯一の道しるべとなる月の光がロムとダーオを淡く照らす。薄暗がりの中ではお互いの顔色までは分からない。けれどきっとロムは真っ赤な顔になっている。それくらいダーオには分かる。ロムは案外お子様で、例えば今みたいなキス如きでさえも言葉も発せられないほど照れてしまうのだ。
(…だから俺にNongって言われるんだ、お前は)
例えダーオの前で余裕ぶろうと寡黙になっても、スカイを前に感じる嫉妬を隠そうとしても、ロムはダーオの前では年相応の青年だ。いくら背伸びをしても、ロムはロムだ。
(それがお前だ。…なぁ、ロム)
人の為に生きる人間。人の悲しみに寄り添う人間。それがダーオの知っているロムである。
「お前、ずっと俺の悲しみを半分こにしてくれてただろ?」
幼い頃にロムがダーオを前に決意した想いは何一つ変わらない。まるでヘブン島のように何一つ。不器用なところも、無愛想なところも、全てがロムを構成する必要なピースだ。
「なぁロム。俺もお前の悲しみを半分貰った。お前の両親が離婚した時に二人で辛さを半分こにしたから、幼い俺らは自分の悲しみにばかり浸らなくても良かった。だよな?」
それは幼かったロムがダーオの為に必死で考えた、この苦界を生き抜く為の知恵だった。
「俺…さ、お前のお陰でかなり救われてた…。近いと当たり前にそこにあるから、お前の優しさになかなか気付けなかった。…ごめん」
珍しくしんみりとするダーオにロムは調子が崩される。いつもみたいにダーオには笑顔でいてほしい。ロムがダーオに願うのはそれだけだ。
悲しみを半分こにする事でダーオの笑顔が戻るのなら、ロムは喜んでダーオに降り掛かる災禍を請け負うだろう。例えダーオが振り向いてくれなくても、ダーオに背負わせてしまった業を全て自身で背負い込む覚悟がロムにはある。
「スカイもさ…アイツがこの島に来た時はいつも泣いてて悲しそうだった。ジョジョもガンもアイツを虐めるし、お前は我関せずだし?…だから俺は、お前が俺にしてくれた事をアイツにも返してやったんだ」
ダーオの足元に及ぶ波の泡沫が心地よい。闇に遮られ視界に捉えられずとも、幾度となく永劫にこの砂浜の上を寄せては返す波が足元を撫でてくれた。
「…まぁ、結果がこんな顛末になっちゃったけどさ」
それでもダーオとスカイの恋の終りはちゃんと終えられたと思う。星達が瞬き、月明かりが窓際のダーオとスカイを照らす夜の別れだった。もう二人の人生が友達以上に交わる事は無い。けれど多感な時期を共に歩んでくれた事への感謝は尽きない。
愛する切なさを教えてくれたスカイに、ダーオは心からありがとうと告げたかった。
一番星はどれだったろう。数多に煌めく星達の中ではもう見つけられない。
「なぁ、ロ…」
ダーオがそう言いかけた時、ロムが盛大な溜息を吐いてその場に蹲ってしまった。
「でかい溜息だな!どうしたどうした」
「…いや、まさかそんな展開…それって、じゃあ俺がお前に猛アピールしてたら俺と付き合ってたって事じゃないのか…」
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