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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第一話 秘密の砂浜】
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1-7 ロムダーオ

翌日、ロムは運送の仕事でプーケットに渡った。

ヘブン島の桟橋からすぐ隣のプーケット島は肉眼で確認出来る程近い。頑張れば泳いで渡れる程である。

船で十五分程度の連絡船には小学生の頃から毎日乗った。島には学ぶ施設が無かったからだ。

海風は昔から変わらず二つの島の間をそよいでいて、船主から眺めるプーケットは相変わらず栄えていた。


プーケット側の桟橋に降り立つと、いつもロムは顔を顰めたくなる。

ここはヘブン島と違って煩いし、臭くて汚い。心なしか海の色も淀んでいる。ヘブン島から十五分程度のこの距離で海の色が違うとは乱暴な言いがかりかも知れないが、ロムにとってプーケットは今も昔も雑然とした街だった。

桟橋近くの知り合いの店で車を借りると、頼まれた郵便物やヘブン島で採れたフレッシュハーブの詰まった発泡スチロールを積み込む。

プーケットはかつて錫の産地として有名だった海洋交易の重要な拠点として栄え、昨今は中国とヨーロッパの様式が融合した独特な街並みがニューレトロとして人気を集めていた。

シノポルトギース建築が華やかな街並みを横目に、ロムは粛々と仕事をこなす。まずは市場の懇意にしている店に発泡スチロールを渡し、品質チェック後に金銭を受け取る。郵便局へ行く途中に民家を何件か尋ね、プーケットに暮らす島民の親族宛の荷物を配達するのだ。

その後郵便局でプーケット島外の輸送物を預けると、今度はヘブン島の住民から頼まれた物資の買い出しをせねばならなかった。

日用雑貨や食品など、購入する品目は多岐に渡る。帰りの方が荷物が多いなんて事もしばしばだ。


ロムは温度に左右されない日用雑貨をまずは買い込み、車に詰め込む。女性用の生理用品などは未だに購入する際は気恥ずかしい。

建物に遮られ、風が淀んでいると感じるロムの額には汗が滲んでいた。プーケットはどこもかしこもアスファルトで地面が固められ、建物で風は遮断される。熱の逃げ場がないので熱い。

陽炎に気が遠くなる。


(…それに比べ、ヘブン島には風を遮る物が無い)


ロムの故郷は吹き抜く海風が心地よい。

地面全てをアスファルトで舗装し、照り付ける太陽によって陽炎を起こしながら、犇めき合う人々の波に揉まれるプーケットの人達をロムは哀れに思う。こんなストレスフルな環境で生きて行かなくてはいけないなんてあまりに酷だ。人間はもっと自由であるべきだ。

ヘブン島を出て暮らす人間も多いが、疲れて戻って来る人間も多い。

ロムが尋ねるプーケットに住む元島民も、ロムを見ると島の思い出を語りたがる。ヘブン島で産まれ育った人間は、皆どこに居ようとヘブン島が好きだった。


(…都会にはなんでもあるけど、ここに俺が欲しい物は何も無い)


ロムはプーケットに来る度にそう思うのだ。

喉が渇いたロムは学生時代によく出入りしていたカフェに入り、適当なスムージーをオーダーした。

席に着きセルフォンを取り出すと、島から追加の仕事が無いかチェックをする。冷房の除湿に間に合わぬ湿気がスムージーのカップに付着し、水滴がロムの手を濡らした。


(特に追加の仕事は無いな…)


あとは生鮮食品を購入して帰るだけだ。

鶏を飼っている家は多いが、採卵用の鶏を毎度潰していたらいくら飼っても足りない。島民に希望者がいれば指定された肉を購入して帰るまでがロムの仕事だ。

ロムはセルフォンを仕舞うと、その場で伸びをした。さっさと用を済まして帰島しよう。夕方にダーオをカオムーまで送り届けてやらなくてはいけない。

ロムは席を立つと、ふと視線を上げた先に見知った顔が横断歩道を歩くのが見えた。


「…ん?」


ロムは目を凝らす。

まさかそんな筈は無いと、今見ている物を否定する気持ちが働いた。人間の脳は都合よく事実を改変する。

一度頭を振って目を閉じると、ゆっくりと瞼を開く。

自分が見た物は陽炎が起こした幻であって欲しい。

レトロなシノポルトギース建築街に似合う異国のモデルの様な顔立ちの男は、街行く人間の目を惹いていた。陽の光を浴びた金髪が眩しい。

その西洋風の男の横には、華奢で可憐な髪の長い女性がワンピースの裾を揺らして軽やかに歩いている。

二人は腕を組み、幸せそうだった。

ロムは未だにその二人を信じられないとでも言いたげな形相で見つめるしか無い。


「…ス…カイ…」


目の前の交差点を幸せそうに歩くカップル。

見間違うはずがない。ロムもよく知っている異国の人間。それは確かにダーオの彼氏であるスカイ、その人であった。



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