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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第十話 それぞれの愛】
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10-1

【第十話 それぞれの愛】


  1


秘密の砂浜に広がる暗い海は夜の闇を取り込んで黒く染まる。まるで一つの蠢く大きな生命体のようだ。波間を照らす月光が救いだった。

ロムはカオムーで目の当たりにしたスカイとダーオの醸す二人だけの空気に胸が痛いまま、この砂浜に佇むしか無かった。所詮部外者である自分はあの二人の決定に何も干渉が出来ない。


(…クソ…ッ)


ロムは砂浜に拳を強く当てる。水分を多分に含んだ砂はロムの拳の衝撃を意図も簡単に吸収してしまうのだ。

ダーオには既に自分の気持ちは伝えた。それを踏まえた上で、ダーオはスカイを選んだのだ。

幾度となく再生されるカオムーでのあの光景を思い出す度、ロムの心臓は鷲掴まれて身動きが取れなくなってしまう。


(…ダーオはスカイを庇った)


つまりダーオはスカイとの未来を選んだ。

潮風が泣けなくなって久しいロムの頭を撫でてくれる。ロムもまた潮風にならば身を委ねられた。

椰子の木の並木の根元に咲くハイビスカスがまた一つ、風に揺られて落花する。地面に染まる赤の残骸はロムの失恋の心から流れる血溜まりか。死するハイビスカスを月光が照らす。

ロムの中にあるダーオを好きな気持ちは純粋だ。

けれどスカイへの嫉妬、社会的な劣等感、自己嫌悪、それらが純粋な恋心を曇らせてしまう。


(ダーオを好きな気持ちが跡形もなく消えてしまえばいいのに…。けれどこの想いは筋金入りだ。俺の人生はこの想いと共にある。…これから先、お前を諦める選択肢が俺にある筈がない…例え報われなくても)


溜息を付いたロムはモーテルに帰ろうと立ち上がった。

未練がましくダーオとの思い出の砂浜に、こんな夜中まで居る自分が滑稽である。


(また元に戻るだけだ。…スカイの隣で微笑むお前を眺めながらこの命が尽きるのを待つ。ただそれだけだ)


ダーオへの慕情はロムの血であり肉である。スカイとダーオの幸せな姿を前にロムはその血を流して耐え、ダーオの心の安定の為にロムはその肉を差し出す。


(たった一度だけでもお前を抱けた。最悪な方法だったけれどたった一度だけでも。…それだけでも御の字だ)


波が闇に乗じて砂浜の砂を胎内に拝借してゆく。その悪事がバレぬよう、息を潜めてこっそりと。


(そうやって想う形もある。…正方向でいけない俺にはそれがお似合いだ)


大きく伸びをするロムの首筋にふと堅くてひんやりと冷たい感触が襲う。


「…ッ!?」


驚いたロムが振り向くと、そこにはビール瓶を持ったダーオが居た。

相変わらず人たらしの笑顔でダーオはロムを見つめていた。暗がりの中に照らされる愛しいダーオの髪の毛が潮騒に揺られ、その睫毛を撫でるのだ。


「驚く時くらい声を上げろ!このむっつりスケベ!」

「むっ…つり…」


海の香りが湿った風を含んで二人を撫でゆく。

今日がロムの恋心の最後の日かもしれない。ロムの気持ちを保留にしたままではダーオの負担になってしまう。


(ダーオ…お前を好きだという気持ちを俺は撤回すべきだ。密かに心の奥底ではお前を想い続けるけれど…俺達は表向き、幼馴染に戻るべきだ)


ざわざわと揺れるその音は、闇に溶け込み姿の見えぬ椰子の並木の葉が擦れる音だ。月明かりに浮かび上がる雲が月を食べてしまいそうである。

ロムの耐えた先にある未来は一体どの様な色をしているだろう。例えロムの視界に映る世界がセピア色でもモノクロでも良い。ダーオが心穏やかに暮らせるのなら、ロムはそれでいい。


(どうか、俺の心に巣食う膿んだ不浄の想いはダーオに知られません様に…)


ロムの瞳が心許無げに揺れる。夜の闇がそれを隠してくれる。

夜色の小瓶にダーオとのひと時の想い出を詰め込んでしまいたい。思い出は記憶に正しく止まらない。どうしても美化してしまう。都合のいいように改変してしまう。だから小瓶に詰め込んでしまいたい。思い出を閉じ込めて、もう誰も触れないようにしてしまおう。自分ですらも触れない様にしてしまえばいい。夜色ならば夜に紛れて見つける事も出来やしない。

相変わらず言葉を発さなくなってしまったロムにダーオはつい笑ってしまう。一口では言い表せないロムの感情の変遷をダーオは見ていた。


「相変わらずだなぁ…お前は。むっつりだぞ、マジで。少しは治した方がいいぞ、その性格!」


ダーオはロムの返事を待たずに、持っていたナイフの柄でビールの王冠を器用に開けてしまう。一口だけ口に含み、プハッと小気味のいい音を喉に鳴らすダーオは人差し指で頬を掻いた。


「…まさかお前が居るとは思わなかったから、ビール一本しか持ってこなかったんだぞ」


ダーオは今しがた飲んだビール瓶をロムに差し出す。


「ほら、半分こ」


しかしロムはダーオの顔を怪訝な表情で見るばかりだ。何故ここに?ロムの表情がそう言っている。ダーオはカオムーで突然現れたスカイを連れて実家に帰ったではないか。つまりダーオが選んだのはスカイであってロムではない。今、この時間は打ちひしがれたスカイを慰めるための時間ではなかったか?


(…なんでダーオがここに居るんだ。スカイと二人で仲直りでもしてたのでは…身体を繋げ合って…)


しかしそのどれもロムは言葉に発することは出来なかった。このままずっとダーオを見つめて居たら、いずれ耐えきれずにまただらしなく堪え性のないロムはダーオの唇を勝手に奪ってしまいそうだった。そうなってはいけない。不意に目を逸らすロムに、ダーオは少しばかりムッとした表情を浮かべた。


「…何だよ、言いたい事があるなら言えって」


そしてすぐに朗らかな表情に戻る。ダーオには微笑みがよく似合う。無理に笑っているのではない。全てを許し、包み込む。怒りは彼の中で継続し得ない。これがダーオの本性だ。なのでロムはつい聴いてしまう。


「…スカイは?」


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