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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第九話 そして二人は】
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9-5


カオムーの気不味い雰囲気はロムが去って余計に重たいものとなった。

皆が微動だに出来ず、遠慮がちに吸う煙草も酒もこれ以上ない程不味かった。そんな中、厨房の奥からのっそりと出て来たオーナーがダーオに声を掛ける。


「おい、ダーオ!そういうのは他所でやれ!」


オーナーは救世主だ。鶴の一声でダーオとスカイはカオムーを追い出され、皆は口直しの乾杯で無理矢理気まずい空気に終止符を打った。

ダーオはオーナーに合掌をすると、スカイを連れて店のオープンテラス脇に駐輪したバイクに連れてゆく。


「…ほら、乗れ」


ダーオは跨った原付バイクの背にスカイを乗せると夜風と潮騒を感じながら島唯一の環状道路をひた走った。

満点の夜空に煌めく星達。ロマンティックな月の光。

高校時代の二人だって確かにこの光景を見ていた筈だ。友人達の目を盗んでカフェを抜け出した二人だけの路地裏で、この幻想的な夜の煌めきを。


『…ダーオ、ほら!プーケットでも星空が綺麗に見れる!』


バイクの風に吹かれながら、ダーオはふと、かつてのスカイの言葉を思い出した。


(…懐かしいな、スカイ…あの時俺はなんて返したっけ…)


スカイの体温を背中に感じるが、しかしダーオにとってそれは既に終わった恋の残り火の様な物だった。


(…なぁスカイ。お前と俺の間に感じるこの暖かさに、俺はどこか馴染めなくなってしまった。…まるで燃え尽きた花火の先にしがみ付く豆火みたいだ…後少しで終わってしまう。お前も感じてるだろ?…なぁ、スカイ)


ダーオは心で何度もスカイに訊ねる。

死に体の恋に縋った先にあるものは泥沼の愛憎劇だ。今、この恋を終わらせるべきだとダーオは思う。背中にスカイの鼻を啜る音が聞こえて来る。


「ダーオ…」

「…ん?」

「…やっぱり…星はヘブンで見るに限るね、ダーオ…」

「…!」


スカイが鼻声で言ったその言葉に、ダーオは途端に涙が溢れてくる。

そのセリフはかつてダーオがスカイに返した返答だ。

忘れられない思い出。どちらかしか覚えていない思い出。二人の共有の思い出。

そのどれもが煌めく星達に触発されて溢れ出てくる。

ちょっとした喧嘩もした。その数だけ仲直りをした。一緒に同じ物を食べた。一緒に同じ物を見た。


『…ダーオ、ほら!プーケットでも星空が綺麗に見れる!』

『でもな~、やっぱり星はヘブンで見るに限るぜ』


ダーオとスカイは確かに同じ青春を生きた。

恋は、愛は、悲鳴と共に終わるのだと思っていた。恋の終わりは胸をつん裂く痛みを伴うような、そんな苦痛と共に起こり得るものだと思っていた。


(なぁ、スカイ。…俺は楽しかったお前との思い出を汚い終わり方で汚したくなかった…。だから物分かりが良い振りをした。全部分かってるだなんて言って、お前の言葉を押し込めた…)


お互いまだ本音で話していない。スカイもダーオも、このままではこの恋に囚われたままになる。月と星達が見守る中で、ダーオはスカイに思いの丈を告げる決意をする。



二人はダーオの自宅に着くと無言で原付バイクから降りた。

自宅の窓に電気が灯っていないところを見ると母は既に眠ってしまっている。こう何度もスカイを連れて帰宅すると面倒な事になりかねなかったので、母が寝ている事にダーオは内心で胸を撫で下ろした。

極力音を立てずに二人はリビングを抜けて階段を上ってゆく。木造の古い家は二人が歩く度にギシギシと軋むので肝が冷えた。

ダーオは暗い室内に意気消沈のスカイをベッドに座らせ、隣にそっと座った。大人ぶるのは辞めようと思う。別れ話に向き合わなければいけない。二人の精算をしなければ、二人は前に進めない。

ダーオはスカイの背中を擦りながら優しく問いかけた。


「…何があった?」


スカイは自分を心配してくれるダーオの声が何より愛しい。


「…ダーオ…」


スカイの金髪にも似た鳶色の髪の毛を、窓から漏れる月明かりが照らす。


「…ダーオ…ねぇ、ダーオ…ミアとは別れる…別れるよ…」

「…」


ダーオは無言でスカイの背中を擦る。


「本気じゃない…ミアとは本気なんかじゃない…だって僕にはダーオが必要なんだ…」

「スカイ…もう…」

「僕が馬鹿だったんだ…。よくわかってる。もし僕がミアを抱けなかったら父さんも分かってくれるって思ってた…」

「…でも、お前は彼女を…」


抱けたんだろ?と言う言葉は言わなかった。

女性がたった一人でこの島にやってきて、むさい男の常連客しかいないカオムーに単身乗り込んできた。スカイと彼女の仲がどれだけ深いか、その事柄だけで充分伺い知れた。プーケットに進学してから連絡が取れない日が多かったのはつまりそう言う事だろう。

ダーオはスカイの重荷になりたくない余り耐え続け、スカイの変化に気付かぬ自分も悪かったと思う。

スカイが跡継ぎとして観光を専攻に学ぶならバンコクの名のある大学に入学する選択肢だって充分にあった。国内に留まらずとも、母親の母国の大学に入学する事だってやぶさかではなかった。それでもダーオの元を離れたくないと言ってプーケットの大学を選択したスカイの愛情をダーオは疑わなかった。少しくらい連絡が取れなくても、きっと頑張っているのだろうと連絡を控えた。スカイの性格をちゃんとわかっていれば、スカイの家庭事情を把握している自分はちゃんとスカイを繋ぎ止めておくべきだったのに。

思えばスカイの進学が二人のターニングポイントだったのだと思う。島に残る選択肢を選んだダーオと島を出る選択肢しか用意されなかったスカイの道はあそこが別れ道だった。


「父さんが僕を否定するんだ…同性愛は気持ち悪いって…僕は気持ち悪いんだ、父さんにとって…」

「…理解できない人は居るさ。考えてもみろ、例えばさ、ずっと赤色だと思っていたものが本当は青色ですって言われたら、お前だって戸惑うさ。親父さんは混乱してるだけだよ…」


そう言ってスカイを慰めるダーオの笑顔に、スカイは胸が締め付けられる。


「…ダーオ…」


やはり好きなのだ。理屈じゃない。ダーオが傍にいない人生は考えられない。

ゆっくりと近付くスカイの唇を、その瞳を、ダーオは見つめていた。あとほんの少しで二人の唇が触れ合う、紙一枚の距離でダーオはスカイから顔をそむけた。


「…ごめん。俺、もう…」


スカイは逸らされたダーオの瞳を伺う様に見つめた。その瞳に焼き付いて離れないのは、きっと…。


「…ロム?…ダーオの心に居るのは…」



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