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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第九話 そして二人は】
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9-4

「…親御さんと何かあったんだな?」


ダーオがスカイの肩を抱く。優しく背中を擦ってやる。

その光景をまざまざと見せつけられているロムは言葉に出来ぬ感情と必死に戦うしかない。

今、ダーオは誰のものでもない。ダーオの行動を制する事ができるのはただ一人、それはロムでもスカイでもない。ダーオだけなのだ。


「ダーオ…ねぇ、ダーオ…!」


ダーオは優しい。スカイはダーオを想いの限り抱き締めたい。


(やっぱり戻ってきて欲しい…!自分が全て間違っていた…ミアとは別れるし、その後の話をしたいよ、ダーオ…!)


スカイの父はもしダーオと復縁をするならば金輪際縁を切ると言った。スカイは今も尚、家を棄てる覚悟でヘブン島に来たかと問われると自信を持ってそうだとは言えない。けれどまずは目下ダーオが自分の元に帰ってきてくれなくては息が出来ない。生きている意味が無い。

スカイの大きな体がダーオを抱き締める。

悲しみの色に染まるブルートパーズの虹彩には裸電球のオレンジ色が差し色となる。瞬く瞳から流れる涙がダーオの肩を染めた。


「よしよし…」


ダーオとスカイの抱擁を見せつけられる常連達は気不味くてならない。これが島の子同士のカップルならば囃し立てる事も出来る。しかし相手はホントンの倅だ。

静まり返ったカオムーのオープンテラスは蒸し暑い熱帯夜だと言うのに寒々しい視線が飛び交っていた。その中でただ一人、ロムだけは怒りの視線をスカイに向けている。


(もう我慢出来ない…我慢しろと言う方が無理だ…!ダーオは誰の物でもない。ダーオの行動を制限する権利は誰にもない。…けどな、スカイ。お前はダーオに優しくされる権利を放棄した人間だ)


立ち上がったロムは二人の傍に近づく。そしてダーオの身体に絡むスカイの腕を剥がすと、力の限りスカイの手首を握り込んで睨んだ。


「…何をしに来た?」


その声が怒りを多分に含む物だったので、スカイは余計に気持ちが重くなる。


「…なんで皆、ダーオと僕の道を邪魔するんだろう…」


スカイがポツリと呟く。

物質面では何不自由なく育ったスカイだが、感情の面でお腹いっぱいになった事は無かった。

穴の開いた桶にダーオが愛情を注いでくれても、スカイの欠陥品の心はそれを満たすことが出来ない。スカイは常にダーオからの愛情を補充されなければ生きて行けない。

スカイとダーオの恋路を邪魔する者達は、果たしてスカイが誰によって生かされているのかを分かっているのだろうか。スカイはダーオが傍に居ないと生きて行けないのだ。


「…おい、スカイ。お前、良い加減にしろよ…!」


ロムが苛立つ。

ロムはスカイのこんな所が嫌いだ。ダーオがスカイと別れた後の心境を知らないから、スカイは今も尚こうやってダーオを精神的に頼るのだ。

ロムに言わせればスカイはダーオを何も知らない。ダーオがどんな思いで連絡のない夜を耐えていたのか、何故スカイを恨まないのか、それを知らないスカイの甘えがロムにはどうしても許せない。

もう一度スカイの腕を握ろうとするのを止めたのは、まさかのダーオだった。ロムは信じられないという瞳でダーオを見る。それこそ、穴が開くほどに見つめてしまう。

まさかダーオはスカイのこの行動を受け入れるとでも言うのだろうか。


(…それがお前の選択か?ダーオ…)


そうならばロムにはもう何も干渉は出来ない。

ダーオが決めた事に干渉できる権限があるのは、ダーオ自身か、或いはダーオの隣に立つことを許された者だけだ。


「…ダーオ。そいつはお前に問題事しか持ち込まない…」


少しばかりロムの声が震えた。

あの花火をした夜、燃えゆく火花と共にスカイへの想いも昇華したのでは無かったか。


「言い過ぎだ、ロム」


スカイを庇うダーオの言葉にロムは衝撃を受ける。

二人は既に別れたのではなかったのか。

まだダーオはスカイを庇い立てるのか。

…それほどまでに好きなのか。


「…ッそうかよ…!」


ロムは吐き捨てる様に言うとカオムーを後にした。

二人が抱き合っている光景は見ていたくない。性悪で幼稚なスカイの事だ。またフルムーンパーティの時の様に、嫌がらせでロムの実家のモーテルに泊まりに来るかもしれない。…ダーオを連れて。


(絶対来んなよ…!来ても泊めないからな…!)


心で悪態しかつけないロムは惨めだ。

ダーオの隣に立てるのはダーオが認めた者だけだ。告白の返事を保留にされているロムにはダーオに寄り添う権利が無い。その資格がない。

ロムは苛立つ手で鍵を原付バイクに差し込んだ。走らせるバイクの風がロムの髪の毛を靡かせる。頭上に光る満点の星達はロムを憐み、浮かぶ月はロムを慰めるべく淡い光を届かせる。そのどれもがロムには屈辱だ。


(こんな事なら自覚しなきゃよかった…)


ダーオがスカイと付き合い始めてから、ロムは心のどこかでわかっていた。もし自分がダーオを求めてしまったら、抑えきれぬこの慕情に自分自身が圧し潰されてしまう。

スカイを想うダーオに己の気持ちを押し付けて困らせたくないだなんて、よくそんな言い訳を己に許したものだ。


(ダーオの笑顔さえ曇らなければ…なんて、理解者ぶった態度で…)


本当はただ怖かっただけなのだ。もしスカイと同じ土俵に上がった時、何も持たない自分がダーオを奪えなかったら…と考えるのが。


(俺はスカイの様に感情表現が上手くない。浴びる程の愛情の言葉を俺はダーオには与えてやれない)


戦う前から逃げていた情けないロムをスカイは常にせせら笑っていた。「欲しい物すら禄に言えないお前にダーオは靡かない」、そう言い続けられている気がしていた。


(そんな事は自分が一番よく分かっている…!)


だからロムはスカイが嫌いだったのだ。スカイはロムの弱点を見透かすから、だから。


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