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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第九話 そして二人は】
65/74

9-3

 3


カオムーは相変わらずの常連ばかりだった。

日中の仕事を終えた者達のたまり場でジョジョとガンは相変わらずの卓に陣取り、煙草を吸いながら氷の入ったビールグラスを傾けていた。ロムもまた無言でその卓に座っている。


「おいダーオ!おかわり!」


ジョジョのオーダーを受けて厨房に向かうロムの背中を、ガンが訝しげに見つめる。


「…俺はダーオにオーダーしたはずなのに…カオムーって、ロムは働いてないよな?」


厨房に向かう道すがら、ロムは他の卓の客のオーダーも聴いて回った。


「ダーオ、ボトル3本追加注文」

「うぃー、さんきゅ」


厨房のカウンター越しにダーオから酒瓶を受け取ったロムは各卓に酒を補充してジョジョ達の卓に戻って来た。ダーオよりきびきびと働いているロムにジョジョとガンは目を見合わせる。


「…なぁ、ロム。この前の騒動はどうなった?」


ジョジョが問う。

島のタブーを破ってみんなの前でスカイとダーオの事を暴露したあの女子の事件はセンセーショナルだ。


「ん…?」


ロムのきょとんとした顔にガンが苛立つ。


「ん?じゃねぇよ!あのカワイイ女子がとんでもない爆弾を落としていっただろ!」


ミアとダーオの修羅場は島民の間で瞬く間に広まっていった。しかしあくまで水面下での広まりだ。ダーオの母の耳に届く事は無かったけれど、それでもゴシップの少ないこの島ではまことしやかにその時の状況は口伝されていった。


「…まぁ…」


ロムは何と言っていいか口籠る。その後の話は一言では言い尽くせない。


「あの子、スカイの彼女だろ?ダーオとは恋人関係終了って事か?」


ジョジョは眉間に皺を寄せて小声でロムに確認する。特段スカイとダーオの恋を応援していた訳では無いが、もしスカイがあの子とダーオで二股をかけていたのならジョジョだってスカイを問い詰めてやりたい。もし本当に二股をかけているのなら鉄拳制裁をせねば…と思うが、昔ならばいざ知らず、既にジョジョの身長を悠に越えてしまった白人由来のスカイの体躯を思い浮かべると他の方法でスカイを正してやらねばならない。案外兄貴肌なジョジョだ。

けれどガンはそうは思わない様だった。


「まぁ、でも…スカイにはああいう子がお似合いじゃないかな?ダーオみたいなゴリゴリの雄がスカイの隣に立っててもなぁ…」


ガンは悪気なくそんな事を言う。

圧倒的に異性愛者が多いこの世の中では男女のペア以外を理解の範疇外に押し出してしまう者も少なくない。ガンにはそんなつもりは無くともステレオタイプに当て嵌めたい人間心理が働いてしまう。マジョリティの意見が優先される世の中ではスカイの隣に居るのはミアが一番しっくりくる。


「こらガン!友達がいのない奴!…あいつら、かれこれ付き合って何年だ?幸せそうだったけどなぁ…」


ジョジョは二人が付き合い始めた時の甘い空気に胸やけを起こしていた過去を振り返る。周囲の目が厳しいヘブン島であまりイチャつけない彼らは、放課後に帰島する船を待つ間に愛を育んでいた。シノポルトギースの街並みが暮れなずむ夕陽に照らされるカフェで、勉強と称して愛を深め合っていた。カモフラージュ要員にされていたジョジョは幾度となく彼らを茶化したのも今は懐かしい。

彼らの束の間の逢瀬は健気であったのだ。

本当は海が見えるヘブン島の小高い丘で、或いはヘブンの美しい海岸沿いで、彼らの幼く淡い恋心を波に愛でられながらゆっくりと語らいたいだろうに。小川のせせらぎに柔らかい木漏れ日が差す島唯一の公園で、もしくは桟橋から家に帰るまでのほんの僅かな時間でさえも、二人は明日の朝まで会えぬ寂しさを分かち合いたかったろうに。

ロムはジョジョに相槌を打つしか出来ない。確かにヘブン島を出る前のスカイと付き合っていたダーオは幸せそうだったのだ。


「…環境が変わると、人も変わらざるを得ないから」


ロムはやっとそれだけ言うとビールを一気に呷ってしまう。ロムの視線の先にはいつもダーオがいる。今も変わらずロムは働くダーオを見つめた。店のオープンテラスに下げられた裸電球のオレンジ色はダーオの褐色の肌を滑らかに映す。一度も染めた事の無い黒髪が艶めきを帯びて、人たらしの笑顔に零れる白い歯はロムの心を締め付けて止まない。前髪が目にかかり、それを払うダーオの仕草が愛おしかった。


(…あぁ、髪の毛を切ってやるのを忘れてた…)


ついほんの数か月前までは、まさか自分がダーオを望むなんて考えられなかったロムだ。

幸せに笑っていてくれればいい。ただそれだけを願ってロムはダーオの傍に居続けた。

ダーオに何かあれば全力で守りたい。だからと言ってその見返りにダーオを求めるつもりなんて毛頭なかったのだ。しかしフルムーンパーティのあの日、ロムはダーオの全てを暴いてしまった。ダーオの幸せを願うなんて詭弁のメッキが剥がれた瞬間だった。


(罪深い俺は地獄に落とされても、例えお前が俺を殺しても…文句は言えなかった。俺はそれだけの事をした)


ダーオの肌質は極上の絹織物の様に繊細だった。海水がダーオの火照った身体を這い、気の遠くなる数の砂達が波に攫われダーオの肌を撫でてゆく。

あの瞬間、ダーオに侵入したロムは眩暈がした。こんなにもダーオの熱を間近で感じられるだなんて考えもしなかった。ダーオが締め付ける肉壁はロムの欲情を更に煽るのだ。

組み敷いて、逃げられなくして、ダーオの全てが欲しいと思った。例えば一生許されないならばこの瞬間だけは本気の感情をダーオに叩き込みたい。一生恨まれてもいい。

けれど一度きりのこの行為にロムは意味を持たせたかった。止まらぬ腰がダーオを暴く。呻く声すら愛おしかった。


(…こんな利己的な扱いをした俺を…ダーオは赦した)


詰ってくれてよかったのだ。被害者となって一生ロムを恨んでくれてよかった。ロムはそれだけの事をした。


(身体だけを手に入れても…心が手に入らないと)


ロムは溜息を吐く。煙草を咥えるとライターに火を灯して揺らめく炎の種を眺めた。

ダーオを好きだと言う感情を解放した今、ダーオの姿を見つめるだけで苦しくなる。みぞおちの上あたりが締め付けられて、ついその場に蹲ってしまいたくなる。

何度「好きだ」と囁いたとて、ダーオがそれを受け取ってくれなければ意味が無い。空回りする感情を制御できないロムは火種を灯すと、思い切り肺に煙草の煙を入れる。ジョジョ達とは反対方向に煙を吐こうとするロムはふと、カオムーの入り口付近に人影を捉える。

そこには力無く佇むスカイが居た。


「…スカイ?」


ロムは煙草をその場にポロリと落としてしまう。吐く息に乗せて恋敵の名前を呟く。

何故こんな時間にスカイがヘブン島にいるのだろう。考えたところでロムには分からない。

スカイはロムやジョジョ、ガン、また常連客など端から眼中に入れず、厨房に居るダーオだけを見据えていた。高身長のスカイが醸す圧に気付いたダーオがスカイの姿を認める。二人の視線が絡み合って、時間が止まった。


「…スカイ?お前…なんで…」


ダーオはスカイに視線で問い掛ける。あの夜、二人の歩む道の先にはもうお互いの姿は無いと理解しあったはずなのに。


(そんな見るからにボロボロな精神状態で、俺を訪ねてきた意味は…)


ダーオはスカイから視線が外せない。


「…ダーオ…」


スカイが呟くのは今も昔も変わらない、愛しい人の名前だった。何度となく囁いた音。心に染み付いた愛しい音。これから先、もうその名前を発することが許されないなんて拷問に等しい。


「…スカイ、どうしてここに…」


しかしダーオは瞬時に察する。

こんな時のスカイは親といざこざがあった時だ。スカイはそんな時、昔からひどく心許無い顔で縋るような瞳をダーオに向けるのだ。ダーオはスカイに駆け寄らずにはいられない。何せ一度は心を預けた相手だ。ここでスカイを無碍にする様な軽い想いでは付き合っていない。


「…親御さんと何かあったんだな?」


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