7-3
酔った瞳を重たそうにロムに向けるダーオは鼻で笑う。挑発的ですらあるその表情に、含まれる呼気はアルコールを含んでいた。
「…オマエこそどういうつもりだよ」
ロムは面食らう。
今この時、この状況で、酔っているとは言え…まさかダーオに言い返されるとは思わなかった。
「なぁロム!なんでお前は俺に構う?好きだから、と言って見たり、かと思えば俺を避けたり…」
ダーオはロムが理解できぬまま惰性な時間を過ごしたこの数日間を怒っていた。桟橋でスカイを送った日以来ロムは秘密の砂浜には来なかった。
その事がダーオには何より悲しい。
スカイが女子と仲睦まじく歩いている光景も目に焼き付いている。彼らに対して諦めの感情を確かに感じたダーオは、追い縋る選択肢を取れぬまま悲しみを携え、幾夜となく独りで過ごしたのだ。
「俺はお前に話を聴いて貰いたかったよ…。お前が何を考えてるのかも聴きたかった。…なのに避けやがって…」
日々の眠りの浅さはダーオの身体に疲労となって蓄積され、酔いと心労で足元はおぼつかない。
「…ッ…」
また、ロムは何も言えない。
ロムでさえ戸惑っているのだ。長らく抑えて来たダーオへの感情を発露しただけでもロムにとっては冒険だ。ダーオを無理矢理奪ってしまった事への後悔だって多分にある。ましてこの出来事の責任の一端も握らせて貰えない。スカイの挑発的な視線はロムに敗北感を与えるに充分だった。
(ダーオ…本当はお前の家にスカイがいたあの日、俺はお前にはっきりと想いを伝えるために家に行ったんだ…)
けれど先客のスカイが居た。
身体を繋げ合う愛情がまだ残っている二人の絆を前に、もうロムは想いを伝える事を諦めてしまった。きっとこの想いを行動に表して直接ぶつけてしまえばダーオを悩ませ混乱させてしまう。
変化に乏しいこの島で、あらゆる事がこの短期間に一気に起きてしまった。
ロムは無理矢理方向転換をする。好きだと伝えた気持ちは、本来ならばひた隠すつもりだった。けれどたまらずに零れてしまった。
(…でも、俺のつい零してしまった告白の言葉は…魔法の言葉にはなり得ない)
ロムの告白はダーオとロムの距離感を近くする魔法の言葉にはならないし、思い余って告げてしまったその告白はロムの世界を何も変えなかった。
ダーオとスカイは懇ろだ。
ロムはこれ以上その事実に打ちひしがれたくない。
「…ダーオ…今はその話は関係ない…。お前は前回から何も学んでないのかよ…」
ロムの優等生的な物言いにダーオはついカッとなる。
「お前が言うな‼この強姦魔‼」
前回のパーティで酔ったダーオがスタッフに連れ込まれそうになった事をロムが叱責するつもりなら、その後に起こった二人の間の出来事をロムはどう捉えるというのだ。ロムがダーオにした行為は棚上げするにはあまりに大きな出来事だったではないか。
「「今はその話は関係ない」…⁉︎お前、よく言えたもんだな…!」
ダーオはロムに拳を向ける。けれど酔っているダーオに勢いは無く、少しの衝撃を胸に受けたロムはダーオの拳を優しく包み込んだ。まるで愛し気に、壊れぬ様に、もしくは贖罪の様に。
ダーオはロムの表情にそれらの感情を読み取ってしまった。
(…ロム、お前…悪いと思ってんならさ…どう思ってるか話してくれよ…。俺だってお前を糞味噌には責められねぇんだ…。お前を許せちゃう俺が、お前の罪だけを取り沙汰するのは卑怯だろ…?)
ダーオがロムを責めようと思えばいくらでも責められる。あの行為に善悪を無理矢理つけるなら、一方的なロムは圧倒的な悪人だ。
「……なぁ……ロム……!」
けれどロムは口を紡ぐばかりだ。
自分ばかりがから回っているようで、ダーオはたまらなく自分が嫌になる。
「ロム!お前…やっぱ訳わかんねぇ‼︎そんな態度…取んな…‼クソ…!」
ロムは逃げたかと思えば優しい。優しいと思えば突き放す。
ロムは霞だ。感情が顔に出ない分、読み取るのが難しい。それでも幼馴染のダーオだけはロムの無表情を読み取る事が出来たのに、先程ロムに感じた「罪悪感」の感情以外、今は全く分からない。
ロムの優しさは当たり前にそこにある物だと思っていた。それこそが自分の思い違いだった事に、果たしてダーオは気付けるだろうか。
ロムは聖人君子でもなんでもない、永い間スカイと仲睦まじく過ごすダーオに片想いをしていた同い年の未熟な男子であるだけなのだ。
お祭り騒ぎで流れる爆音が遠くに聴こえる。
画一された二人だけの世界で、ダーオは海に架かる月の橋を眺めながら意識が薄らいでゆく。
ここ最近の睡眠不足に酒が祟った。ロムとの口論で急激に放出されたアドレナリンが落ち着くと共に、瞼が落ちてダーオの世界が暗くなる。
慌てて抱きとめたロムの体温を感じながら、ダーオは懐かしい父を感じていた。あの秘密の砂浜でロムと身を寄せ合いながら父の帰りを待つ幼い自分。ロムの体温はダーオを安心させ、いつしかそれはダーオの一部となった。ダーオを構成する過去のピース達。その記憶の破片の全てにロムは居た。
あの秘密の砂浜にロムが来ないこの数日は、ダーオにとって決定的に大切な何かが欠落した時間だったのだ。
(…遅…いよ…馬鹿…)
ダーオは薄れゆく意識の中でそんな事を思った。
ロムがダーオを抱えて自宅に帰るのを、月と星達だけが目撃していた。
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