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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第五話 優しい嘘】
39/74

5-6ロムダーオ

  3


いつもの夕暮れ時に砂浜で佇むロムは、きっとダーオはここには来ていないと思った。

あんな事をしてしまった後だ。けれどロムはこの砂浜に来ずにはいられなかった。


(…お前がもし居たら、と言う可能性が1%でもあるなら)


そしてそれが希望的な数字であったとしても、もし居なかったら、と言う可能性よりもロムには大事だったからだ。

スコール後のすっきりとした清涼な空気に並木の椰子が心地よく風にそよぐ。スコール後のこの島では珍しいオフショアだ。

ロムは並木の下のハイビスカスを一つだけ摘んでみた。潮風に揺れるその花弁にそっとキスをするロムは、そんな資格なんて無い癖に、愛しいダーオをどうしても想ってしまう。渇望してしまう。

人には言えぬ罪を犯したロムの髪の毛を撫でてゆく風もまた優しかった。ヘブン島は生けとし生ける全ての者に平等だ。


「…良い風だ」


波打ち際に座ったロムは昨日の事を反芻する。

昨晩、この砂浜でダーオを抱いた。

合意の上では無かった。ダーオには詰られてもおかしくない事をした自覚がある。けれど昨日のダーオは悪態こそついたけれど、殴るだとか蹴るだとか、そう言った報復をロムに返してこなかった。それをされても尚余りある罪がロムにはあると言うのに。

寄せては返す波に泡沫が浮かぶ。海水がロムの足先を濡らし、ぬるい水が心地よかった。

引き波によって連れ去られる砂達がロムの粗末なサンダルに迷い込む。水平線の先には太陽が溺れ、夕暮れのオレンジと紫色が交じり合う空が幻想的だった。


(…あいつが好きだ)


ロムの言い表せぬ程に蓄積した感情が爆発してしまった結果が昨日の醜態だ。ただそれだけの話だ。

ダーオが幸せならば問題は無かった。ダーオが幸せを感じるなら、その相手は自分で無くても良かった。…そんな詭弁をずっと自分に言い聞かせてきた。

けれど昨日のダーオはロムの目には辛く、痛々しく映ったのだ。ダーオが恋人の為に犠牲になるその姿を看過できるほどロムの感情は軽く無い。


(父親を待ち続けたあの胸を切り裂く悲しみを、もうダーオには感じて欲しくない…出来る事ならずっと笑顔でいてほしい。そう思っていたのに…)


恋人の為に裸同然の姿で踊らされて、挙句の果てに何処の誰とも解らぬ男に持ち帰られそうになる。なのにまだ自分の扱われ方に疑問を持たないダーオにロムは苛立つ。


(この苛立ちは責任転嫁か…?)


自分のしでかした罪を軽くする為にスカイの悪い部分を上げ連ねて罪を矮小化する小狡さか、はたまた保身か。

けれどロムは思わずにはいられない。ダーオの幸せが、即ちスカイに利用される事だったとするなら…それどうしても許せない。


(俺の勝手な独断だ。…でもそんな愛され方はダーオには相応しくない)


身を削った痛々しい愛し方を続けた先にダーオに残る物はなんだと言うのか。ヘブン島の様に搾取され続けるだけではないか。もうダーオは父親の件で散々苦しんだ。これ以上ダーオに耐える真似をさせたくない。


(…スカイが本気でダーオを好きだとは思えない。…アイツには疑惑の相手がいる)


ロムの中で消したくても消せない疑惑が増幅する。プーケットで仲睦まじく歩いていたあの女子を、スカイはどう説明するのだろう。


(考えることが多すぎて頭が割れそうだ…ダーオはきっと俺を許さない。あんな愚かな真似をした俺の事は…)


やがて太陽は海に溺れて一番星が瞬き出す頃、或いはロムの手にそっと握られるハイビスカスが溺れる太陽に最後の輝きを託される頃、ふいに砂浜に向けてロムの名前を呼ぶ声が聞こえた。この場所を知るのは二人しかいない。ロムとダーオの二人しか。ここは今も昔も二人だけの、父親を待つダーオと、ダーオに寄り添うロムの二人だけの砂浜だ。

二人の視線が絡む。ロムは罪悪感を、ダーオは鋭い視線をその瞳に携えていた。


「……っ」

「…ロム…って言うかお前はロムじゃねぇ、強姦魔だ!お前は強姦魔!」


緊迫した空気が流れる。しかしそのすぐ後にダーオは呆れ笑いを浮かべた。…許している空気を醸していた。


「…ごめん…」


ロムは謝る事しか出来ない。どんなにダーオを想ったところで、スカイより最低な事をしたのは確かだ。無理矢理ダーオの身体を奪った。自分のしでかした事実を前にロムは何も言えなくなる。


「…っ」


ロムが神妙にする物だから、暫く無言のダーオだったが少しの間の後に困った笑顔になった。ダーオのその表情にはもはや怒りは込められていなかった。


「…オマエなぁ。俺にやったからまだ良かったけど、島の女子にやったら追放モノだぞ。お前を連れてプーケットの警察署迄連行しなきゃダメなんて、俺はそんな役まわり絶対やだね」


口数が多いダーオは既にロムを許していた。ダーオが許せないのは自分自身だ。あんな目に遭っても尚、ロムとの友人関係を継続したいと思ってしまった。

ロムはダーオの言葉を胸にしみじみと染み込ませる。ダーオの声はいつもより少しハスキーだ。


(…その声…声帯を少し傷付けたのかもしれない…)


昨日の情事の余韻だろうか。あの時のダーオは呻いていた。

しかしロムはこの期に及んでダーオの「何か」を変えられたのが自分である事実に高揚感を隠せない。反省をするべき場面なのに、ダーオの気怠げなその声を聴くだけで込み上げる感情を鎮めきれないでいる。


(…お前の身体のごく一部にでも、俺が干渉出来ている事がたまらなく嬉しい…だなんて…)


それがロムの率直な気持ちである。屑だと罵られてもいい。利己的だと詰られてもいい。こんな事は被害者であるダーオには絶対に言えない。

ダーオはロムから視線を外して鏡面の海を見通した。溺れる間際の太陽は最後にその煌めきを海に映す。


「あぁ…クソ。こんな時に限ってオフショアだ。仕事行きたくねぇな。一日くらい無断欠勤しても問題無いよなぁ…」


南国の夕暮れに向かって独り言を呟くダーオの声に耳を澄ましたロムは無性に泣きたくなる。ダーオはいつも通りでいてくれる。愛しいダーオはあんな事をした自分を許すと言うのか。…許してくれるのか。


「…女子にする筈…あるわけない…」


消え入りそうな声で呟くロムに、ダーオは苦笑した。そんな不明瞭な声で呟かれてしまったら、いつも無口で不愛想なロムの声が余計に聴き取り難い。


(…俺はお前しか要らないんだ…)


ダーオはロムにとっての半身だ。例えそれがロムの一方的な想いでも。ロムの想いが籠るその言葉を果たしてダーオは聴き取れただろうか。ロムは手に持つハイビスカスをダーオにそっと手渡した。少し萎れかけた花弁はくったりとダーオの掌で寝てしまう。


「…なんだよ、これ。お詫びのつもりか?」


ハイビスカスは愛の花だ。一夜限りの情熱を燃やし、翌日に散り行く運命と知っても咲かずにはいられない。そして翌日には懲りもせず新たな花を咲かせ、また命の限り愛を叫ぶのだ。

ダーオの褐色の肌には赤がよく映える。ロムはダーオの掌に乗るハイビスカスに想いの全てを乗せて祈る。決して傷つけたかった訳じゃない。愛しすぎるあまり、搾取される姿を見ていられなかった。それらを言葉にしてしまうと全てが言い訳の様になってしまう。だから謝る言葉以外、ロムは発せない。

けれど、どうかその感情の一縷でいいから伝われと願う。願う事くらいは許されて欲しいと祈りながら。


「…なぁ、ロム。今日は送らなくていいよ。母さんの原チャを借りたからさ」


ロムは自身の喉が閊え、一瞬ばかり呼吸が止まったのを感じる。

そうやってダーオはロムから離れてゆくのだろうか。昨日の事を優しく許し、責め立てる事をしないで、ロムに責任も取らせないままに。

ロムはたまらなくなる。ロムにとってのダーオは切り離せない人生の一部だが、ダーオにとってのロムはその限りでは無いと言うことか。


(…殴ってくれてよかった。俺はお前に刺されても仕方のない事をした。…なのにお前は誰も責めない…。なぁ、ダーオ…)


きっと耐える事に慣れたダーオには例えスカイの疑惑の写真を見せた所で動揺などしないのかもしれない。

気高い光を纏うダーオを前にロムは浅ましい自分を恥じる。自己の罪を断罪されることもないまま、スカイの疑惑を上げ連ねる告げ口の様な真似は恥ずかしくて、ロムはこれ以上何も出来なかった。


「…じゃ、お前もちゃんと帰れよ。ホテル王の息子。俺の世話ばっかりしてないで家業をちゃんと手伝え」


そう言って去り行くダーオの背中をロムは見過ごせなかった。このままではダーオが去ってしまう。耐えてしまう。

月と星達が見守る中でロムは思わずダーオに後ろから抱き着いてしまったが、ダーオは一つ溜息を付いて振り向くとこう言った。


「…ほら、俺はもう大丈夫だからさ。ケツは実際ちょっと痛いけどさ。…いつも通りでいこうぜ。な?Nong」


そんな言葉を言わせてしまったロムは胸が軋む。「大丈夫」は「大丈夫」じゃない時にこそ使われる。「Nong」と呼ぶことで引かれる明確な線引き。それがダーオの耐える癖だ。


「…おい、Nong?」


もし許されるならダーオの唇に触れ、その悲しみを全て取り去らせて欲しいとロムは願う。ダーオの緩くウェーブが買った黒髪がロムの鼻先を掠める。


(あの時、強引に奪ったお前の唇を今度はそっと…ただ優しさしかない感情でお前に与えたい。…でもその役目を仰せつかるのはスカイだ…俺じゃない。俺じゃないんだ…)


今、ロムが欲しい物はダーオの心だけだ。次から次へと溢れる涙の様な海色の宝石も、直視出来ぬ程の夕陽にも似た黄金も、何もいらない。何も多くは望まない。

たったそれだけ、ただ一つだけ。ダーオの心だけがどうしても欲しかった。


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