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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第一話 秘密の砂浜】
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1-2 ロムダーオ

島唯一の繁華街は桟橋から程近い場所にあった。

高校を卒業して一ヶ月。ダーオがロムに職場まで送って貰うのは既に日常の事だ。


暑気から雨季にかけてはフルーツが美味しい季節である。生のライチなどはこの時期のみの、ほんのいっときの流通だ。プーケットやバンコクに出れば売っている物を買わなければいけないが、この島では全てが島民の物だった。

誰がどこで何を食べても誰も気にしないし、誰も咎めない。つまり、カオムーの脇に生えてあるバナナを採って酒の肴にしてもいいのである。


カオムーはなんとも自由な職場で、客の食料持ち込みが容認されていた。年配のオーナーすらも採算度外視のどんぶり勘定で店を経営しているのだから緩い空気なのも頷ける。

店内での飲食は冷房が無い為に好まれない。今の時代に古ぼけてカタカタと音を立てる日本製の扇風機など流行らない。現役で稼働するが、その恩恵にあやかっているのはオーナーくらいのものである。

扇風機のファンには埃がびっしりと張り付いて稼働力の足を引っ張っていた。「NATIONAL」と台座に書かれたそれは、購入してから一度も掃除をしていないのかもしれない。


カオムーのメイン客席は店の外に広がっていた。

オープンテラスと言えば聞こえはいいが、要は店の外に設置された粗末な木製のテーブルと椅子で皆は酒盛りをする。少しくらい道に溢れても誰も怒る者はいない。何せ警察は常駐していない。


一日の疲れを癒すべく、島民達は各々お気に入りの店に夜毎入り浸る。桟橋周辺に陣取る店はカオムーをはじめ、どの店も島民の為の店だ。ここは特に海風が心地よい。

部外者が居るとすぐに分かる小さな繁華街だが、この時間はいつも穏やかなヘブン島らしからぬ盛り上がりを見せるのだ。

例に漏れず常連客しか来ないカオムーでは、今日も数組の常連客に加え、ダーオとロムの幼馴染であるジョジョがテラス席の中央に陣取っていた。

どこからか採って来たマンゴーをナイフで剝きながら酒を飲むジョジョは、重役出勤してきたダーオを見るなり立ち上がる。


「おい、ダーオ!お前、客よりあとに出勤するって…仕事を舐めてんのか!」


ジョジョは剥いた皮を地面に棄て、ナイフの切っ先をダーオに向けて冗談めかして笑った。ダーオは向けられたナイフの切っ先を見つめながら両手を上げて降参のポーズを取るが、威勢だけは負けていない。


「店に関係ない食べ物持ってくるお前らの方が舐めてるだろ!それ、プーケットで絶対やるなよ?この島だけのローカルルールだからな」

「分かってるっての、当たり前だろ!島の常識は島外の非常識ってな」


ジョジョはナイフを収めると器用にマンゴーの身をこそげ落とし、切り離した種を爪先で掴むと、振りかぶって店のゲート外に投げ捨てた。投げ捨てられた先には鬱蒼と生い茂る草木達が南国を醸す。きっと忘れた頃ににマンゴーの芽が出るだろう。

ダーオは厨房に向かうと勝手に瓶ビールの栓を抜き、さも当然の如くロムに渡した。


「…飲酒運転幇助だな、ここの店員は」


ロムは鼻で笑いながらビールに口をつける。

島内には警察が居ないので何か問題が起きればプーケット本署に申告する事になるが、ここ数十年の間で何か重大な事件が起きた事は無かった。この島は島民同士の相互扶助精神が強い。


「一本なんて水の内だろ!二本目からがアウトです~。ロム、お前にはそれしか酒は出してやらないからな。有難く飲めよ。喉が乾いたら水道水をやろう」

「殺す気か…」


この島に水道が通ったのは、ロムとダーオが小学校に上がる少し前の事だった。それまでは各集落に井戸が掘られていた。ここ数十年で島の暮らしはかなり便利になった。それでも熱帯気候のこの地域では水道菅の水の品質を保持できない。水道水を飲むのは自ら腹痛を起こすのと同義である。

ダーオはロムの返答に笑いながら、自身のビール栓も開けてしまう。飲もうとした瞬間、厨房の奥からご老体がのっそりと姿を現した。


「…おい、ダーオ!」


ダーオは瞬間的にビールから手を離し、ご老体のオーナーに向かって愛想笑いをする。


「あぁ…オーナー!サワディクラッ…」


目尻を下げてオーナーに微笑むダーオは人たらしだ。笑った顔が妙に憎めない。

酒瓶とダーオの顔を交互に見たオーナーは、特に勤務中の飲酒を咎めることもなくダーオに用を言付ける。


「…そいつらの卓の炭に火をつけてやれ。さっき漁師共が魚をおいてったからな」

「勿論ですよ、オーナー」


オーナー自ら儲けにならない食材を提供するとは鷹揚だ。何せカオムーは自由だ。誰が何をどれだけ飲んだか、食べたかはチェックしない。一回の来店ごとに一〇〇〜三〇〇バーツ前後をオーナーに渡すだけの明朗会計システムである。

ダーオはプーケットでは驚かれる程低い時給で働いていた。しかし酒代や飯代を差し引かれていると思えば特に不満も無い。人間関係も良好、見知った常連客しか来ないので気を張る必要もない。

一応ダーオの中でも決め事があった。単価の高いビールは一日一本まで。もう少し飲みたければ他の客達が持ってきたウイスキーにあやかるか、もしくは店のキープボトルを拝借する。ボトルが少し減っていたとて怒る客はだれもいない。カオムーはあくまで社交場であり、店が提供する飲食はおまけなのだ。


ヘブン島は美しい。

眩いばかりの太陽に、エメラルドグリーンの海が島を守る様に取り囲む。大地は肥え、海の恵みは潤沢だ。

地上の楽園があるとするならばきっとそれはヘブン島であるに違いない。

ダーオはヘブン島が好きだった。


そしてダーにとってカオムーは第二の実家だ。この島には充分過ぎる程の全てが揃っている。

先程漁師が台所に置いて行った魚の臓物を取り除いたダーオは、ロムとジョジョが座る卓の真ん中に据えられた七輪の炭に、乾いたココナツの表皮を何枚か入れて火を点けた。勢いよく燃え上がる火の上にさっさと魚を置こうとするダーオを、ロムが慌てて止める。


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