2-6スカイダーオ
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「着いた着いたー…っと。凄い久しぶりな感じがするな…」
ヘブン島からピンクとロムの姉弟に見送られ、プーケットの桟橋に着いたダーオは周囲を見回す。
よその街の顔をするプーケットはダーオにとって居心地がいいとは言えなかった。連絡船はダーオにとって高校を卒業して以来久々の乗船だ。ほんの数か月前までは毎日乗っていたこの連絡船も、乗る必要が無くなると途端に余所余所しく感じる。
「…あれ?」
迎えに来てくれていると思っていたスカイはどこにも居ない。
ダーオはセルフォンを取り出してスカイに電話を掛けようとした。その時丁度着信が来た。スカイからだった。
「どこ?居ると思って探してるけど、見当たんない」
ダーオが笑いながら言う。
〈桟橋すぐ近くの駐車場があるでしょ?そこで待ってる〉
「駐車場?あぁ、はいはい。今行くから待ってろよ」
〈車種は…〉
「分かってる。白のカイエンだろ?」
スカイは進学と同時に車を購入してもらったと言っていた。車種を聞いて調べ、その値段に驚いた事を思い出す。
電話を切るとダーオは駐車場に向かって歩き出した。
埠頭の一画に整備された駐車場に愛しい恋人の車を見つけると、ダーオは早速乗り込む。
「ダーオ…ンッ…!」
スカイが言い終わらぬうちにダーオはスカイに深いキスを与える。
二人は暫く無言で互いの唇を確認し合う。ダーオの薄い唇がスカイの整った唇に包まれ、情熱的なその行為は終わる時を知らなかった。
まだ満足せぬ二人だが、唇を離して互いを見つめ合うと小さく笑い合う。
一ヶ月の会えない期間を経てやっと逢瀬の叶った二人だ。
「…ダーオ…会いたかった…僕のお星さま…」
スカイはしみじみとダーオを見つめる。その瞳に嘘は無い。
スカイは愛しいダーオを眩しそうに見つめるのだ。ダーオはスカイのこそばゆい視線を存分に享受しながらも、スカイの頬が少しばかりこけている事を突き止める。
「…お前、ちゃんと食べてる?痩せたんじゃない?」
「…そうかな…でも、そうかも。島の採りたてフルーツに慣れてるから、鮮度が悪いフルーツは受け付けないんだ。ヘブン島のフルーツが恋しいよ」
スカイはかつての故郷に思いを馳せる。ダーオと巡り会えた地上の楽園。ダーオが居なければスカイは息が出来ない。スカイにとってダーオはそういう存在だ。
「先に言ってくれたら持って来たのに。仕方がないやつだな、まったく…」
ダーオはスカイの瞳を見つめる。
その虹彩の色はスカイの名前の通り色素の薄いスカイブルーで、或いは浅瀬の海の色を拝借したような揺らめくアクアブルーで、もしくは劣性遺伝を保持し続けるブルートパーズの宝石の様だった。
白人由来の二重は幅が広くすらりと伸びやかで、目頭のシャープな切り込みが色気を多分に含んでいる。
鼻が高く、ずっと見ていても飽きない美丈夫のスカイは白人である母親似だ。ダーオはいつまででも見つめ続けられるその瞳を満足そうに眺めながら微笑む。
「で?どこにデートに行く?高校時代みたいに旧市街でお茶する?あのいつも行ってたカフェ!夕方はプロンテップ岬にでも行っ…」
「ダーオッ…!」
スカイの唐突な言葉の遮りにダーオは驚く。
乗船中に今日これからの計画を色々と考えていたのに。
「あっ…のさ、それは今度にしない?」
スカイが涼しい目元を緩ませてダーオを見つめる。その笑顔がどこか余所余所しい。
「…なんで?」
「あ…その…僕…」
ダーオは怪訝な表情を浮かべる。折角一ヶ月ぶりに会ったというのに、スカイはどこか歯切れが悪い。
「つまり、僕は…」
スカイは言いづらそうな表情だった。瞬きをしたスカイが改めてダーオを捉える。
「僕…ダーオとゆっくりしたいんだ…」
「…ゆっくりって…それはどういう意味でのゆっくり?お前の寮でテレビでも観るか?」
「それも良いけど…さ」
スカイの空色の瞳に雄の情熱が浮かび上がる。
狭い車内でダーオから情熱的なキスを貰いっぱなしではいられない。お応えしなければ男が廃るという物だ。
ダーオはスカイの考えにピンと来る。眉をぴくりと動かして蠱惑的にスカイを横目に見つめた。
「他のゆっくり…。って言うと…俺の知っている「ゆっくり」は…あと一つくらいしか無いな」
スカイはダーオのそそる視線に絡め取られる。生唾を飲み、ダーオの顎のラインに舌を這わせたい衝動にかられてしまう。
ダーオはこの上なく魅力的だ。
「へぇ、ダーオ…それは例えば、どんな…?」
スカイはダーオが漏らす色気にあてられて動悸が収まらない。均整な肢体を持つこの恋人を早く二人だけの空間に持ち帰りたい。
(…本音を言えば僕だって、本当は皆の前でダーオを見せびらかしたい。この魅力的な恋人を、僕のものだと言って回りたい…)
けれどプーケットでダーオとデートをすることがスカイには出来ない。
ダーオには、ダーオにだけは知られてはいけない秘密を抱えてしまったスカイは、後ろめたい感情から目を背ける。
(今はダーオの事しか考えたくない…ダーオ、ねぇダーオ…)
久しぶりの逢瀬に昂ぶるダーオは、スカイの秘密に気付けない。
「例えば…つまり…お前が思ってること…とかさ」
ダーオは意地悪な気持ちでスカイを翻弄し、全てを言わない。
スカイは降参だ。
「僕が思ってること…それってつまり…ベッドの上でゆっくり、とか…?」
「…ふぅん、なるほど。…いいね」
辛抱が利かない二人は最後に情熱的なキスを交わし合う。お互いを食い散らかす様なキスだった。ダーオはスカイの後頭部を鷲掴み、より深くスカイを欲した。スカイはそれに呼応して自身の舌を何度もダーオの口腔内に這わせまわる。お互いは服を着ている事すらもどかしい。
このままでは埒が明かない。
カイエンは乱暴に発車すると、二人を乗せた車は湾岸エリアを抜けていく。
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ダーオは久しぶりの行為で痛みに耐えるあまり、噛み締めた奥歯が浮く様な感覚を覚えた。
肩で息をするダーオの身体に脂汗が滲む。
スカイは緩慢にベッドから起き上がるとペットボトルを取りに冷蔵庫へ向かう。罪悪感と共に水を強引に喉へ流し込んだ。
「…ダーオも飲む?」
「…あー…いや、汗だくだし、シャワー浴びたい…」
ダーオの身体はスカイの痕跡だらけだ。所有者であるスカイの凶暴な痕跡が身体中に散見された。それは痛みも含めてのことだ。
スカイはダーオを支えながらシャワールームへと連れて行き、スカイによって擦り付けえられた汚れをシャワーで丁寧に洗い流してやる。しかし水では落ち切らぬ痛みまでは流してやる事が出来なかった。
昼間から爛れた行為に耽っていた為、まだ窓の外は明るいままだ。気怠く緩慢な二人は身体を拭くことも適当にして、ベッドになだれ込んだ。
高級学生寮は冷房の効きも良く、ぐったりと横たわるダーオの緩くカールした髪の毛を揺らす。その横に寄り添う様に横たわるスカイはざ先程飲み込んだはずの罪悪感が喉奥から迫り上がってくる感覚を覚える。
「…ダーオ…ごめん」
「…何が?」
ダーオには謝られる理由が無い。
先程のスカイの暴走は一カ月ぶりに会った恋人同士ならば笑って済ませられる事だ。同意の上の行為だし、ダーオには何も問題は無い。無我夢中で求められる幸せだってある。
「…ごめん…ダーオ…ごめん…」
何度も謝るスカイに、ダーオは力なく微笑む。指先でこっちに来いと指示を出し、顔を近づけたスカイにダーオは不意打ちのキスをする。
「ひと眠りしようぜ。…夜はどこか」
食べに行こう、と言いかけたダーオを遮ってスカイはセルフォンを取り出した。
「…宅配アプリ。ヘブン島にはないでしょ?ダーオの好きな物を頼もうね」
「…あ、あぁ…」
この身体の痛みでは今の段階で歩けるか怪しかった。けれど若いダーオは無理の効く身体だ。老人とは違う。夜までには回復するだろうし、プロンテップ岬からの夕陽も観たかった。
「明日は授業が一限目からあるんだ。朝イチの便になっちゃうけど、ちゃんと送っていくね」
「あ…?…あぁ…頼む」
ダーオが心に抱いた違和感の正体は分からなかった。
好意的に見れば、ダーオの体を慮ったスカイが今夜は養生して明日に備える為に宅配アプリを提案した、と捉えるのが正解だ。
しかし強引に事を進めていくスカイの時折垣間見える後ろめたさを含んだ視線にやっと気付いたダーオは、胸騒ぎを覚えるばかりだ。
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