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見ざる私と、聴かざる探偵  作者: 霧雨アヤメ
聴かざる探偵と失楽園のアンテロス
9/16

07.【置手紙のようなもの】

 【検視室】。

医療ドラマに出てくる手術室に似たような空間で銀色の台が3つ並んでいる。

変な臭いがするかもと思いましたが、むしろお花のようないい匂いしました。

けれどテーブルが置かれ紅茶とクッキーなどが並ぶ光景はあまりに異質。


そこの主である検視官【シデムシ先生】。

あだ名らしいですけど、彼自身が気に入っているから本名で呼ぶのはタブーなのだそうです。

不健康そうな青年に見えますが、驚きの30歳とのこと。

童顔にも程がある。


ヒメたちは座らされ、紅茶を差し出された。

蜜花さんにはジャスミンティー。ヒメにはピーチティー。

それからシデムシ先生は上機嫌で、レコードプレーヤーをつけてジャズが流れる。


「駄肉娘くん。君は探偵の助手、ということでいいのかなン?」


「いえ、通訳だそうです」


「……それは最近の呼び方なのかい?『ワトスン役』だとか『サイドキック』と同義の」


「どうなんでしょう」


質問の意図が分からず蜜花さんに助け舟を求めるように視線を向ける。

そしたら「やれやれ」といった具合に苦笑いが返ってきました。


「それで、被害者の状態はどうだったのかな」


「おや名探偵、自分の推理を語らず検視官に答えをねだるのはよくないよン。探偵小説における警察はとてつもなく無能で曖昧な奴らの呼称だ。探偵の推理こそ重要なのではないか?ささ、犯人の置手紙はそこにある。読み解きたまえ」


深く、ため息。

その息が漫画の吹き出しのようになって「めんどくさっ」と書かれているような幻覚まで見えだ。


蜜花さんは紅茶パーティーの席から立ち上がり、真ん中にある銀色の台に向かいました。


「被害者の名前は田中ジロウ。この黄色い歯を見るにかなりのヘビースモーカー。しかも教員だというのにいつも酒の臭いをさせていた。『気のいい教師』として人気があるけど、顧問をしているバスケ部の生徒には当たりがきつかったらしい。一部の女子生徒がセクハラ被害を訴えたこともある。であるからして彼は表裏が激しく、誰かに恨まれてもおかしくない人物だった」


えっと。銀色の台をじっと眺めている姿を見るにそこになにかがあるのでしょうか。

田中先生のことを話しているのですから、きっと田中先生がそこに眠っておられるのでしょう。

ならばヒメはご遺体がある部屋でぱくぱくと美味しくクッキーを食べていたことになります。


もしかしたら残り2つにも……。


「事件現場は鍵のかかった屋上」


「そうだねン。密室殺人なら肩書きとして魅力的なのだけど……屋上だ」


「被害者の状態は屋上の中心で膝を曲げて寝転んでいた。頭が少しだけ裂けているため死因は一見、殴打によるもの。だけど傷が塞がりかかっているからしばらくの間生きていたはずだよ。しかも屋上にはほとんど血痕がなかったからその傷を受けたのは別の場所」


「傷の回復を見るに大体2時間くらいだろうねン。しかも不思議なことに縫い目があったんだ、出血を止めるため」


「犯人は出血多量で死なせたくなかったか……なら遺体の発見現場か殺害方法に犯人は執着していた。死因は?」


シデムシ先生は小さく首を振る。

『死因を知らない』のではなくて『そんな質問じゃ答えない』といった感じ。


「……首元に吉川線がある。だけど絞められたような跡がないから。首の内部からの痛みをどうにかしようとしてかきむしった。つまりは死因は『毒殺』。質問を変える、毒の種類は?」


「なんら面白味のないトリカブトの毒だったよン。死亡時刻はおおよそ昨日の朝5時」


シデムシ先生は満足そうにダージリンティーを飲み干した。

「君は本当に良い読み手だ」とギョロッとした瞳を向けて微笑む。


「さてさて、探偵の通訳とやら。サイドキックは探偵が解き明かした点を線にして読者に説明するのが役目だ。この犯人の置手紙からどんな物語を読み取るのかなン」


ヒメに興味が向けられる。

蜜花さんに助けを求めたが「がんばれ」と口パク。


「別の場所で殴られて、気絶させられた田中先生。それから犯人は学校の屋上に先生を運んで毒殺した……でも、なんで毒殺なんですかね?」


屋上の鍵、他の疑問点を無視しても引っかかることがある。


「どうしてだい?毒薬の殺人なんてこの世に腐るほどあるだろう」


「いえ、わざわざ学校の屋上まで運んだのに毒薬っておかしいですよ。ヒメが犯人なら屋上から落として自殺に見せかけます。そしたら殺人事件だとは思われないじゃないですか」


「頭から落ちるからじゃないかな?」疑問に答えてくれる蜜花さん。でも説明不足で納得してないヒメを見て、「自殺する人間は頭からは飛び込まない。大抵度胸がなくて地面に足を向けて落ちるものさ」


「それは……度胸があったんです」


「あったら、自殺なんて選ばないよ」


……なるほど。

でもそれを犯人が考慮したとは思えない。

ほとんどの人間が蜜花さんやシデムシ先生のようにそうやって裏を読めるほど頭が回るわけではない。


それこそ殺人をする人物は浅はかで人間臭いと思うから。

たぶんヒメの疑問は、感情的な答えがある気がした。

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