06.【ファッションセンス】
2022年6月(木曜日)。
待ち合わせ場所は【警察署前】。
女子高生ふたりが待ち合わせする場所にしては堅苦しいし、映えひとつ見当たらない。
普通ならばおしゃれなカフェだとかマリトッツォのお店が相場では?
と思いつつ、女友達のいないヒメにはそういった女子高生の作法がよく分かりません。
だけど私服は本気です。
『ハニーティーマカロン』というラブリーブランドのピンク色肩フリルワンピース。おっきくて可愛いリボン。
ストッキングは猫ちゃんの顔が書いてあります。それからフリルブーツ。
背中にはリュックサック。肩にかけるための紐を両手で掴み、足を少し開くのが基本的な可愛いアピポーズ。
相手があの蜜花ユウキさんだとしても手を抜きません。
宇宙一可愛いヒメは根暗女子相手でも本気を尽くすのであります。
「うおっ、想像以上にいちごミルクのにおいがしそう」
ドン引きする声。
このコーデに文句を言えるなんて、さぞかし相手は現代の流行から遅れており時代錯誤の服装をしていることだろう。
シャーロック・ホームズだとかのコスプレをしていたって驚きません。
(さてさて、お手並み拝見。どんな可愛くないコーデを……んおっ?)
首にはリングのついたチョーカー。
黒色の肩出しシャツ(しかもゾンビ化した熊さんがプリントされている)。
デニムショートパンツに素足。黒い革靴。
しかも服はすべて闇属性ファッションブランド『病みカワ悪魔ちゃんの工房』のもの。
「すっごい恥ずかしいっっっ!!!!」
「は?君に言われたくないんだが」
「違います……っ!」
「なにが言いたいんだい」
「一緒に歩いたら『量産型女子』と『地雷系女子』の比較画像みたくなりません?」
「……確かにそれは恥ずかしい」
自分だけだったらどんな姿で出歩いても全然恥ずかしくないヒメですが、これはまずい。
SNSでよく見る、ツーショット。
カップルコーデのような『私たちすっごく仲良いから流行コーデで揃えてみました感』。
それがとてつもなく恥ずかしい。
いっそのこと、探偵コスプレの方が良かった。
「ヒメがどんな服が好きか調査してあったならこの事態は回避出来たのでは?」
「……こういう服しか持ってないから」
「クローゼットが異質っ!」
と言いつつ、ヒメも同じような服ばかり買ってしまう。
でも似ているような服でも全然違う可愛さがあると知っているし、結局服装には個人の好きが詰まっているもの。センスを変えてくださいなんて言えない。
「そういえばルイくんは?」
「いない。小金井警部補と一緒に事情聴取を手伝ってるよ」
「小金井さんも今日はいないんですか。残念です。会えると思ったのに」
しょぼん。
「まさかガチ恋?」
「えー、どうでしょ。でもカッコいいお兄さんですよねぇ。レインIDげっとしちゃいました!えへへ」
「……まあ、面倒見は良いよ」なにか思い出したように微笑む。
「取らないでくださいよ!同担拒否です。リムります」
「めんど」
おめめを大きくさせて威嚇。
肩フリルワンピースの背中側にシッポがついているからそれも立てる。
「バカなこと言ってないでさっさと行くよ。通訳クン」
「事件の調査ですか?でもなんで警察署に」
「調査の前に確かめなくちゃいけないことがあるんだよ。君には退屈な工程かもしれないけどね」
蜜花さんの背中を追って警察署の中に入っていく。
普通なら女子高生が好き勝手歩き回っていたら声でもかけられそうなものですが、顔パスなのかスタスタと進んで行きます。
たどり着いたのは【検視室】。
事件の被害者生の遺体が運ばれ、解剖などをして状況捜査する部屋です。
映えもおしゃれも期待してませんでしたが、これはあまりに……
男の子と遊びに行く予定をキャンセルしてまで来ていると考えたら白目になる。
落ち着かせるためにリュックサックについているぷにぷにキーホルダーを揉む。
ふにふにふにふに。
「シデムシさん。開けて。ユウキだよ」
蜜花さんが検視室の扉を叩きました。
そしたら扉の中で。
カチャ、カチャ、クルクル、ガチャリ、ジャリジャリ、ガタン。
なんていくつもの鍵の音がして、少しだけ扉が開く。
まん丸でギョロッとした片目。
「やあ、僕の名探偵。待っていたよン 、ちょうどダージリンを嗜んでいたところだ。君も一緒に……おや、この肉付きのいい娘は?」
「ぎゃっ⁉︎」
ギョロ目が鋭くヒメを捕らえる。
「蜂ヶ咲ヒメノです。どうも」
「いいなぁ。程よくついた肉、健康そうな肌。羨ましい。僕は食べてもすぐに痩せてしまう体質でね、君みたいな駄肉娘のように太れたらどれほど良いか」
ヒメ、この人と会って(顔もちゃんと見てませんが)数秒で嫌いになりました。
「どうしたら太れるのかな?おすすめのルーティーンでもあれば──」
「早く中に入れて」
扉で口を隠されていたから読唇術も使えなかった蜜花さんが割り込む。グッジョブです。
「すまないねン 。ささ、入りたまえ」
ガチャリと扉が完全に開く。
そこにいたのはギョロ目で背中が曲がった背虫男のような人物──ではなく。
「僕の唯一の楽しみは名探偵と検死の意見を交わし合う時間だよン。だから、ゆっくりと語り合おう。淹れたての紅茶が冷えても」
確かにギョロッとした瞳ではありますが。
180以上の高身長、タートルネックに白衣。
灰色の天然パーマ。
不健康そうだけど知的な青年がいた。
……養って、元気にさせてあげたい。
そんな母性みたいなもの目覚めそうになりました。




