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見ざる私と、聴かざる探偵  作者: 霧雨アヤメ
聴かざる探偵と失楽園のアンテロス
3/16

01.【出会い】

2022年6月(水曜日)。





 柔らかいものが好きです。

猫の肉球だとか、グミだとか。

触っているとなんだか落ち着きます。


だからゲームセンターでげっとしたふにふにキーホルダーをバックにたくさんつけていつも触っていた。

クレーンゲームは苦手だから得意そうな男の子にお願いする。


ヒメには頼れる男の子が沢山いるのです。

同性の友達はいないけど、構わない。

だって男の子たちがヒメのことをちやほやしてくれるから。


あらかじめ言っておきますが純潔です。初めては結婚相手と決めています。

であるからして同性が広めているいかがわしい陰口、まったく記憶にございません。きっとひがみなのであしからず。


けれど蜂ヶ咲ヒメノは可愛いのだからしょうがない。


『絶世の美女』なんて大層な肩書きではないけれど『男は肉付きのいい娘の方が好きなんだよなぁ』の体現者。

男の子の気分を良くする持ち上げ話術の心得があり、スカートの丈だって『見えそうで見えない』のぎりぎりを責めている。

男に媚びてる女の子?

いいえ、男の子の理想を詰め込んだ完璧な女の子がヒメであります。


「ルイくん、一緒にカラオケ行かない?友達と約束してたんだけど流れちゃってね。でもでもヒメは歌いたいおくちになってるの。だから……ねっ?」


可愛く首を傾げてみる。

続いてうっとうしく思われないくらいのボディタッチ。


聖蝶(アゲハ)ルイ】。

同級生の男の子であり1年生、いや学校一のイケメンくん。

綺麗な黒髪にすらっとモデルのような体型。弓道部。『白馬の王子様』が存在しているならきっと彼の見た目をしている。


そんな完璧イケメンに『男喰い』として有名なヒメが教室の中心でカラオケに誘った。

もちろんクラスはざわめき不穏な空気が漂う。

数人の女子生徒が殺気こもった視線を向けているが、なんとも思いませんよ。悔しいなら自分も誘ってみんさいよ。


「ごめん。俺、彼女いるんだ」


「え?」


……断られた。

初めての経験で頭の中が真っ白になる。


「じ、じゃあ彼女さんも一緒に」


「学校一のイケメンとカラオケに行った」という事実だけでも作らなければ。

クラスメイト達の面前で恥はかけないのです。


「あー、えっと。彼女、歌はちょっと」


「音痴、ですか?」


「耳が不自由なんだよね」


耳が聞こえない。

そんなのうちの学校じゃ彼女しか……


「もしかして蜜花ユウキさん?」


「うん。付き合ってる」


そんなバカな。あの蜜花さんがルイくんと恋人関係。

見かけたときはいつもひとりで、誰かが仲良くなろうとしても無視するような、無愛想なガリガリ骨娘さん。

どうしてあんな根暗女子が、


「ヒメノさん」


低く暗い声が体を貫いた。

それはルイくんから発せられたもの。いつもきらきらした微笑みを振りまいている彼からは想像の出来ない殺気立った声。


そして彼はヒメに顔を近づけてくる。

とっさに「キスされるっ!」と思ったから本能的に目を閉じてしまう。


ルイくんの右手がヒメの耳元に添えられた。

囁くように、それでいてズシリと体を侵食するような声で。



「君は女子トイレに駆け込んで、自分が写った鏡に『もっとも言われたくない言葉』を大声で叫びたくなる」



甘酸っぱい青春の場面かと思いきや、このイケメンはなにを言っているのだ。

天地がひっくり返っても言うわけがありません。

だってヒメはこんなにも──







「ブスっ!!!!」






……これは一体どういう状況ですか。

教室にいたのに一瞬で女子トイレ。

しかも鏡に写った自分をヒメは罵ったのだ。

自分が宇宙一可愛いと知っているのに。


「ふぅ……大丈夫。可愛いよヒメは」


とりあえず鏡に写っている(茶髪のウェーブパーマのセミロング。涙袋とぽてっり唇がチャームポイントな)女の子に事実を伝える。

まったくの無傷。動揺などしていない。

だけど一応スカートのポッケに入っているゴム製のウサギに触れる。

ふにふにふにふにふにふにふにふに。


なにが起こったのだろう。

教室から女子トイレまでの記憶がない。

いや、そもそも初めからおかしかったのだ。

ヒメが男の子に拒絶されるわけもないし、少女マンガじゃないんだから根暗女子が完璧イケメンと付き合っているなんて。


トイレから出ると外はもう暗くなっていました。

部活終わりの生徒が少し残っているくらい。学校の外で『さようなら』と生徒と教師のやりとりが聞こえてくる。


「なにがなにやら」


狐につままれた、そんな気分です。


「あ、パトカー。なんかあったのかな?」校門の前にパトカーが3台停まったのが見えた、慌てたように教師たちが駆け寄る。


3階の廊下からだとあまりよく見えない。


仕方ない。見通しのいい屋上にでも行きますか。

普通の生徒は立ち入り禁止ですがヒメは出入り自由なのです。と言っても生徒会長が鍵の管理をしていて、書記のハルキくんと遊びに行ったときに秘密に彼が作ったスペアキーの隠し場所を教えてもらいました。


とんとんっ。

一段飛ばしに階段を登っていく。


「あれ?開いてる」月曜日以外いつも閉鎖されている屋上の扉が少し開いている。

まさか見回りの警備員さん?……そんなわけない。ドアガラスが割れてるもん。

気づかれないように覗き込んだ。


「死亡時刻は……かなり前だね。遅くても登校時刻前にはあったはず。でも傷のわりに床にある血の量が少ない、殴られた現場はここじゃない?でもそうなると──」


なんてブツブツと呟くながら屋上の床を凝視している女子生徒。

学生服を着ていても身体の細さが分かってしまう、そして濃い紫色のベリーショートの髪。

おしゃれが命よりも大切な女子高生であるはずなのにまさかのノーメイク。


「……蜜花さん。ですよね?」後ろからぽんっと肩を叩く。


「うっわ!びっくりした!」跳ね上がった。油断していた猫を驚かしたときみたく跳ね上がった。


「あ、ごめんなさい。まず目の前に出てから肩を叩くべきでしたね」

彼女は耳が不自由なのですから、屋上でひとりだと思っていたのに突然身体を触られたらそりゃ驚く。

先に視覚にアプローチするべきでした。


「いや違くて、驚いたのは……てか踏んでるよ?」


「踏んでるってなにを?」


「え?……いや、だから。それ」


「ん?」足元を見るけどなにもない。


「いやいやいや、『()()()』を踏んでるってば。体育教師の田中」



「…………はい?」



なんの冗談でしょうか。

お互いに目を丸めてる。

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