00.【プロローグ】
ミステリーの始まりを告げるような恐怖を孕んだ悲鳴。
有名な女子高生探偵と助手役の私【蜂ヶ咲ヒメノ】は殺害予告を受けた大富豪に依頼されてお屋敷の調査に来ていました。
そんな中、若い使用人の甲高い悲鳴。
当然ながら悪い予感です。
全力疾走で悲鳴の現場に向かう。
と言ってもヒメ(私は自分の事を『ヒメ』と呼びます)は体力に自信がないため小学生の早歩き程度の早さ。
「探偵さん……聴いていらっしゃいますか?」
ヒメがその部屋に辿り着いた頃には屋敷の執事さんがアリバイを説明し終わっており、とある人物に視線を向けていました。
転がっているなにかをまじまじ見ている私服の女子高生。
闇属性ファッションと表現するべきか、病み系地雷ファッションと表現するべきか。
濃い紫色のベリーショートの髪。
だぼだぼでドクロのマークが沢山ついているパーカーにデニムショートパンツ(脚に自信があるのかほぼ素足)。首にはリングのついたチョーカー。
痩せすぎていると表現するべき体型。それはもうがりっがり。
化粧が命よりも大事な女子高生だというのにノーメイク。
彼女は【蜜花ユウキ】。
女子高生探偵、この物語における最重要人物であります。
あだ名は『みっちゃん』。
「執事さんがせっかく説明してくれてたんだから無視するのは。めっ!ですよ」
「……うっるさいなぁ。ハチの声は耳がキンキンするから急に大声出さないでくれるかな。それに読唇術は疲れるんだ。だから容疑者の機嫌取りは君がしなよ」
没頭しているみっちゃんを現実世界に戻すために肩をぽんっと叩く。
不機嫌そうに見えるけどこれは愛情表現なのです、そもそもヒメは探偵の助手以前に彼女の親友なのですから。
心のなかでどやっと胸を張ってみる。
「もう少し下がりなよ。そのいちごミルクのにおいがしてきそうな服が汚れちゃうから」
「……もしかして、ヒメの足元に?」
こくりと頷くのを見て、数歩後ろに下がった。
どうやら殺害された大富豪の遺体を踏んでしまうところだったらしい。
「もう一度。被害者の死亡時刻にどこでなにをしていたか、また被害者をどのように思っていたかボクの助手に説明して欲しい。この娘は頭の回転が少しにぶいから何度か説明させるかもしれないが付き合ってくれたまえ」
探偵口調でそう言うとみっちゃんは高額そうな椅子にちょこんと座った。
当然のことながら容疑者である屋敷の人々はヒメを見てきょとんっとしている。
アリバイは説明したではありませんか、と。
「ええっと。ごめんなさい。みっちゃんは耳が聞こえないので代わりにヒメが詳細を聴かせてもらいます」
「耳が、聞こえない?」
ざわっとする。
『それはおかしい、確かに聞こえていないような素振をしていたが君の呼びかけには反応していたじゃないか。しかも『うるさい』と言っていた』なんて顔に書いてあります。
しかしこれ必要なことなのです。
ヒメが事件の概要を聞いて内容を語るのは、決して『みっちゃんが【安楽椅子探偵】に憧れがあるから』とかではありません。
ヒメは彼女の耳なのです。それが【探偵の助手】である由縁。
「甲高い声を聴きすぎて耳が痛いけど、おかげで事件の全貌が見えたよ」
これが彼女の決め台詞、のようなもの。
少し恥ずかしさを覚えるかもしれないですけど、みっちゃん自身はお気に入り。
この台詞が出た事件の推理ではちょっとだけ調子が良くなる。
それからみっちゃんは指をとある人物に向けて。
「犯人は──」
そうして今回も華麗に事件を解決するのであります。
さて、ヒメたちの探偵物語を語るにはまず【始まりの事件】に触れなければいけません。
これから語るのは【『助手』の声しか聞こえない探偵】と【死体の見えない助手】が出会って、親友になるまでの事件の話。




