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見ざる私と、聴かざる探偵  作者: 霧雨アヤメ
聴かざる探偵と失楽園のアンテロス
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14.【『繋がり』のない探偵】

 ヘルメットで顔を隠した謎の人物に追われている。

しかも木製バットで武装した。


「あれはいったい誰なんですか⁉︎」


「知らないよ。だけどボクたちがこの事件を調査することを好ましく思っていない人物だろうね」


蜜花さんに手を引かれて走る。

さっきは強がってみましたが正直歩き回って足がパンパンです。

あまりスピードを上げられそうにないから後ろから聞こえてくる音を聞くのに専念。

かなり近い。およそ3メートルほど。

急な出来事で頭が混乱しています。


「犯人ですか?まさか、私たちの口封じのためにお命を」


「どうだかね。でもこんな大胆なことするってことはあっちはだいぶ切羽詰まった状況ってことさ」


なんとかして逃げ切れないでしょうか。

身軽な蜜花さんだけならともかく、ヒメが足を引っ張っています。このままではすぐに追いつかれる。


「え、えいっ!」


無意味と分かっていながらポケットに入れているうさぎの顔が描かれた丸いふにふにボールを投げる。

ぽむっ。と可愛い音がする。

当然のことながら追手へのダメージはありません。


しかし幸運なことにヘルメットの人物は体制を崩して転んだ。

足元に落ちたふにふにボールに子供向けアニメのバナナの皮如く滑ったのです。


「はは、やるじゃん」


「よ、予想外の展開です」


自分でやった事ながら驚き。

相手が体制を立て直す前に急いで逃げなくては。


逃げ込んだ先は幽霊トンネル。

薄暗い通路を走って行く。


「追われているのにトンネルって危なくないですか?障害物もないですし、人通りも悪い。追いつかれたら確実に捕まってしまいますよ!」


「良いからこっち来な」


ぐいっと引かれてトンネル通路の端へ。

この幽霊トンネルは長さの割に電球の数が少ないため所々恐ろしく真っ暗闇です。

その暗闇に向かって蜜花さんは進み、なにも見えない状況でガタッとなにか板のようなものを動かす音が聞こえました。


「さ、入って」言われた通りに進むと壁だと思っていた場所に空間が出来ている。


再び板を動かす音がした後、蜜花さんのスマホのライトが点く。

板一枚で塞がれたトンネル内の隠れた空間。


「ここは?」


「そこに扉があるでしょ。もう開けられないんだけど、どうやらこのトンネルって戦時中に防空壕として使われていたらしくてね。そのための隠し通路さ」


「よく知っていましたね。暗すぎて見つけられませんよ」


「前にこのトンネルの幽霊騒ぎがあってね。依頼されて調査したの」


「風の通る音なんですよね?」


「それもあったんだけど、この空間に隠れて通行人を驚かせていた犯人がいてね。しかも人目につかないから逢引の隠れスポットにも──っ」


ヒメが蜜花さんの口を塞ぐ。

舌を嚙んだのか睨まれたけどヒメが人差し指を唇において「しー」と言うと事態を把握したようで軽く頷く。


板一枚の先で足音。

走るのをやめて暗闇のトンネル内を見渡すように慎重に進んでいる。

あまりの緊張に息を止めた。自慢じゃないですけど肺活量は赤ちゃんくらいなのですぐに顔が真っ赤になにます。


ざっざっざっ……ざっざっ…………ざっ………………


段々遠くになっていって、最後には足音は過ぎ去る。

「すー、ぷはぁ」とおそらく1週間分くらいの息をした。


「行った?」


「はい。足音はしません」


「でももう少しここに隠れていようか。近くにいるだろうし」


当分は動きたくないかもしれません。

怖いので、レインで【女王蜂コミュニティ】のみんなに助けを求めます。

最先端の連絡アプリであるレインでは自分の現在位置を配信出来るのです。

ですが返事は『学校の近くか。家からだとすぐには』だとか『待ってて、20分あれば行ける!』だとか。


今すぐに助けに来て欲しいのです。

ヒメちゃん親衛隊だったら救援信号が出たら秒で助けに来るのが決まりでしょうに。


突如としてダンッと強烈な音が響く。

一瞬なにが起こったのか理解出来なかったのでスマホのライトで音の方向を照らす。

トンネルと空間を仕切る板を蹴り破ったヘルメットの人物。


「な、なんなんですか貴方は!?目的を、暴力反対です!」


あまりに怖いから涙目になる。

どうしてヒメがこんな目に合わんとならんのですか。

死体が見えないってだけで容疑者にされて、調査の手伝いをして、しまいには謎の人物に追いかけられ木製バットで殴られそうになっている。


「この事件を調査するのをやめろ。田中は死ぬべき──ッ」


小さく悲鳴を上げたのはヒメたちではなく、ヘルメットの人物の方。

蜜花さんが落ちていた岩をヘルメットめがけて投げたのです。

相手はよろめく。それとシールド部分にひびが入ったのか手で覆った。


その隙に再び走り出す。

今度は蜜花さんの重荷にならないように自力で。

足が遅いので置いていかれないように必死に蜜花さんの背中を追う。


「悪いね、蜂ヶ咲。危険な調査に付き合わせて」


「ほ、ほんとですよ!」


たぶん「そんなことないですよ」みたいな気の利いたセリフを言う場面だったのかもしれない。

それでもお世辞が言えるほどの状況ではありません。


トンネルを抜けて隠れられそうな場所を探す。

けれど隠れた矢先、一直線にこちらに向かってくる。

まるでヒメたちの居場所を予め知っているかのように。


「あ」


足のバランスを崩して転んでしまう蜜花さん。

追手は10メートルほど先。



「止まるな!ボクは良いからキミは先に逃げて。関係のない一般人に怪我させるわけにはいかないからね」くじいたのか、足を抱えている。



『関係のない』。

そう、ヒメには無関係です。

もしヘルメットの人物の目的が事件の調査の取り止めなら、ヒメは蚊帳の外の人間じゃないですか。


このまま、彼女を置いて逃げてしまいましょう。


「嫌です」


蜜花さんの手を引いて背中におぶる。

やはりガリガリの幼女体系、とてつもなく軽い。


ヒメと蜜花さんは無関係の人間。

この事件が解決されたら口も聞かなくなるであろう関係。

そんな娘のためにどうしてヒメが危険な目に合わないといかんのですか。


口は悪いし、不愛想だし、彼氏がイケメンで腹立つし。


ですが彼女を見捨てたらきっと、ヒメは一生友達なんて出来ない。

一生鏡の自分を見て『宇宙一可愛い』なんて言えないと思うから。


「……なにやってんの。こんなの共倒れじゃんか」


「関係、なくないです」


「は?」


「蜜花さんがどんな性格の人か知ってます。好きな服装とか。食べ物とか。だから関係なくないです」走り出す。ただでさえ遅いのに人を背負っていてはもちろん歩く速度と大差ないです。「それに、蜂ヶ咲ヒメノは【探偵の通訳】なんですから」


背負られている蜜花さんは鼻で笑った。

バカにしてとかではなくて、呆れ半分嬉しさ半分みたいな。


すぐにヘルメットの人物に追いつかれてしまう。

振り上げられる木製バット。

ヒメたちはぐっと目をつぶる。


木製バットが壊れる音。

硬いなにかを思いっきり叩いたみたいな。


なのに体の痛みは全くない。

目をおそるおそる開いてみるとヒメたちを守るように立ちふさがる男性。

赤髪で、夏だというのにトレンチコートを着ている。


「よく頑張った。カッケェよ」


安心させるように微笑みを向けてくれた。


「……小金井警部補っ」


その場にへたり込むヒメ。

ヘルメットの人物は小金井警部補に即座に取り押さえられました。

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