12.【アリバイ整理とお昼ご飯】
お腹もすきましたのでお昼ご飯。
ついでに蛾原先輩のアリバイ確認のために学校から一番近いファミレス【バニーズ】に来ています。
受け取っていたレシートの会計時間は事件日の【2時10分】。
蜜花さんはスマホの写真フォルダに保存していた蛾原先輩の写真を見せ、店員さんに監視カメラを確認してもらう。
しばらくして戻ってくると「確かにそのお客様は夜の8時から会計時間まで店内に。あそこの監視カメラの前の席に座っておられました」と案内してくれました。
その日の遅番の店員さんは今日公休らしい。
仕方がないので事件日に蛾原先輩が利用していた席に座って、お昼ご飯を頼むことにする。
「監視カメラは店内に3台しかない。6割くらいは監視カメラに映らない席なのにわざわざこの席に座ったわけか」
「深読みしすぎですよ。たまたま座った席がここだっただけじゃないですか」
「1台目はレジ周り、2台目はドリンクバー周り、そして3台目」こちらの席を覗いている監視カメラを指さす「せいぜい映っている席はこの一列くらい。まるでアリバイ証明のために座ったとしか思えないね」
「あのですね、一般人はそんなに考えて生きてません。流されるままです。その全ての行動に意味を見いだそうとするのは馬鹿らしいじゃありませんか」
「殺人という結果がある以上、過程は必ずある。そんな見逃される過程に意味を見出すのが探偵の生業だからね」
探偵さんの考えすぎです。
そもそもヒメはこのファミレスにミステリーの続きをしに来たわけではないのです、張り詰めた精神を緩めるため。チルするためであります。
あ、さくらんぼ祭りがやっておる。
このパフェ美味しそう。げっ、1200キロカロリー。
「蜜花さんはなににします?」
「んー?……別に」
「もうっ。別にってなんですか」
「ボクはプロテインバー持ってるから、蜂ヶ咲は適当に食べてて良いよ」
興味なさげな返答。手帳を取り出して、メモを始めた。
ふたりでファミレス来ているのに片方だけが注文とか。
しかもプロテインバー?……まさかそれが主食なんですか。
冗談だと思いたいですけど、彼女の骨々しい身体を眺めたら納得する。
そもそもヒメが一緒にいてあげてるのに無関心とはいい度胸です。
本当ならスマホなどのよそ見禁止。1秒でもヒメを退屈させるのはNGなのです。
ちょっと腹が立ったので彼女の手帳を覗き見る。
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■関係する場所の距離。
徒歩100m=約1分。
【学校】
被害者(田中)の自宅まで約3km。
蛾原マイが通っている病院まで約1.5km。
ファミレスまで約1km。
ネットカフェまで約700m。
【被害者の自宅】
学校まで約3km。
病院まで約1.5km。
ファミレスまで約2.2km。
ネットカフェまで2.5km。
【病院】
学校まで約1.5km。
被害者の自宅まで約1.5km。
ファミレスまで約700m。
ネットカフェまで約1km。
【ファミレス】
学校まで約1km。
被害者の自宅まで約約2.2km。
病院まで約700m。
ネットカフェまで約300m。
【ネットカフェ】
学校まで約700m。
被害者の自宅まで2.5km。
病院まで約1km。
ファミレスまで約300m。
●レシートの時間を見るにファミレスからネットカフェのチェックインまで20分ある。
ファミレスからネットカフェまで徒歩およそ3分以下。
ファミレスから発見現場である学校に行ってネットカフェに戻るまで17分。(被害者の自宅に行くまでの時間はないが学校に行く余裕はある。しかし義足の容疑者が屋上まで昇り降りし3分程度で犯行の準備は可能か?)。
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■水曜日の行動。
【被害者(田中)】
前日放課後19時~深夜3時頃まで行動不明。
およそ3時:自宅で頭を殴打される。
およそ5時:学校の屋上にて毒死。
【容疑者(蛾原マイ)】
前日放課後:生徒会の仕事から病院。
前日放課後20時~2時10分:ファミレス【バニーズ】。
2時30分~7時:ネットカフェ。
●行動時間を見る限り、殺害は不可能。
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「だから蛾原先輩はこの事件に関与してないんですってば」
「勝手に読まないでよ。ボクはこうやって事件の整理をしているだけさ」
「でもまるで犯人だと思っているような書き方じゃないですか。そもそも蛾原先輩は両足義足なんですからその徒歩でかかる平均時間も変わってくると思いますけどねぇ」
「なら聞くけど、被害者の自宅から学校まで約3キロある。どうやって犯人は屋上まで運んだのかな?」
むすっとした顔でこちらを睨んできた。
そんなの探偵じゃなくたってすぐに考え着きます。
ヒメを舐めすぎです。ヒメのポンコツ感は男の子を持ち上げるための演技だとも知らずに。
「へへん、そんなの担いでに決まっているじゃありませんか」
「被害者を殴りつけたのは動画メモリで脅されていた人物。おそらく女性と結論つけるとして、その人物にがっしりとした推定体重80キロある被害者をそれなりの距離を担いで。それはすごい」
そう言われてしまうと犯人が男性だったとしても難しいかもしれません「じ、じゃあ。共犯者がいたんですよ!」苦し紛れに机を叩く。
「その可能性も確かにある。だけど複数人で一般男性を担いでいるのはあまりに異質だよ。目撃情報がないことを考えると被害者を運ぶ手段は不審に思われないもの。自動車や車椅子のようなね」
「言いがかりです。学校まで車椅子で運んだとして、屋上へはどうやって」
「階段昇降車。あれを使えば車椅子に乗せたまま階段を登ることが出来る」
首を振る。これはシデムシ先生と同じく妄想推理です。
証拠は不十分であり、ヒメを納得させる要素にはなり得ません。
「……でも、蛾原先輩には絶対的なアリバイが」
「別にボクだって彼女が直接的な犯人だとは断言しないさ。見えていない駒があるのは確かだよ。けれど彼女がこの事件における生贄の羊か首謀者なのは間違いない」
「ですがっ!」
ぱんっと蜜花さんはヒメの顔の前あたりで手を叩く。
「蜂ヶ咲。なに熱くなっているんだ。生徒会長が犯人だったらなにかキミに不利益でもあるのかな?」
「…………はて、どうしてでしょう?」
急に肩の力が抜けました。
右手でお冷のグラスを割りそうなくらい強く握りしめていたことに気がつく。
「頭を使ったらお腹が空いたね。やっぱり、ボクも食べよう。メニュー表を取ってくれるかな?」
「はい、もちろん。ここのおすすめはですね~」
それからは事件と関係のない話をしながらお昼ご飯を食べます。
食べているツーショット写真をスマホで撮って、レイングループに上げてみる。
女王蜂コミュニティのみんなから『ふたりとも可愛い!』とか『はじめての同性の友達おめでとう!』とか書かれてしまう。
そのお祝いコメントを見て顔が真っ赤になるくらい恥ずかしくなった。
しょうがないので、ふたりの写真をお気に入りフォルダに入れてあげます。
「えへへ」不意に笑ってしまう。




