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見ざる私と、聴かざる探偵  作者: 霧雨アヤメ
聴かざる探偵と失楽園のアンテロス
12/16

10.【限りなく黒に近い白】

 スリッパに履き替えて、通路の奥左手にある蛾原先輩の部屋に案内される。

とてもシンプルな部屋、引っ越ししてから私物をほとんど買っていないような。


先輩の私物らしきものといったら、ベットの上に置かれている戦隊モノヒーローのロボット玩具と探偵小説が数冊。

おしゃれな帽子掛けにはシャーロックホームズがかぶっているような鹿撃ち帽。

それから一番目を引く、部屋の隅に置かれている車椅子。


なにか言いたげに車椅子を眺める蜜花さん。

その様子に気が付いた蛾原先輩は微笑みながら「高校2年生の春頃まではこれを使っていたんです」


「階段はどうしたのかな?」


「ふふ、あの学校は1年生の教室が3階にありますものね」


そうなのです。

3年生の教室は1階、2年生は2階、体力作りが名目なのか1年生は3階。

ついでに1階には職員室、保健室、生徒会室。

2階には理科室、図工室、コンピュータ教室。

3階には音楽室、視聴覚教室。

別施設には図書館、体育館、プール、グラウンドなど。

この通り、階段の昇り降りが激しい。車椅子ではかなり不便です。

特別支援教室のようなものがあったらいいのですが残念ながらうちの学校にはありません。


「でも私が通っている病院が介護用の階段昇降車を寄付してくださいまして。それほど不便ではありませんでしたよ」懐かしがるように右手で車椅子を撫でる先輩、定期的に拭いているのかホコリひとつない。


「階段昇降車。それはどこにあるのかな?」


「学校の階段下あたりです。見たことありません?」


「あ!ありますあります。ロボット学部の作品かと思ってました」


戦車のキャタピラみたいな足。メカメカしい、階段下の謎の機械。

【高価な品ですので正しい使い方以外の用途に使わないで下さい。またくれぐれも落書きや破損させないように】という貼り紙がされている。

学校の七不思議、ひとつ解いたり。


「どうぞ」座布団が置かれて、折りたたみ机を囲むようにヒメたちは座った。先輩は義足を慣れた手つきで外して自分の右隣に置く。

「それで、事情聴取ということは私は容疑者でしょうか?しかも家に来られたのですからかなり怪しまれていますね」


「いいや、犯人の見当がつかなくてね。全校生徒の家を回るつもりさ」


……へ?

そんなの聞いてない。


驚き顔で蜜花さんを見ると『ポーカーフェイスも出来ないのか』と言わんばかりに睨まれた。


ははん。つまりこれは探偵と容疑者の読み合い、騙し合いというやつですか。

足を引っ張る予感しかないから黙っていよう。

もちろん小声で蛾原先輩の言葉を繰り返すのはやめられないですけど。


「そうなのですか。事件の容疑者にされるなんてめったに経験出来ることではないので、少しだけうずうずしております。あ……でも不謹慎ですね」


「生徒会長。屋上の鍵は──」


「はい」


すっと机の上に鍵が置かれた。

あまりの用意の良さに、疑惑は確信に変わりそうになる。


「……事件現場が屋上だというのをキミに教えただろうか?」


「いいえ。ですが、私に聞きたいことがあるとするなら生徒会長だけが持っている、これが関わっていると思いまして」


「その鍵はいつも持っているのかな?」


「まあ、学校にいるときは大抵カバンの中に入れていますね」


「屋上の閉まっているか毎日確認は?」


「いいえ。月曜日しか開け閉めしませんので特には。警備員さんも月曜日の放課後しか屋上は確認しないそうです」


書記のハルキくんもそんなことを言っていた。

だからスペアキーの存在を知っていたヒメたちは月曜日以外なら出入りし放題です。


「次にアリバイを聞こうか。火曜日の朝から今までなにをしていたか」


被害者田中の死亡時刻が水曜日早朝5時頃。

すごい長い期間のアリバイを求める蜜花さん。


「火曜日の朝は6時くらいに自宅を出て2時間ほどかけて学校に──」


「登校は歩いて?」


自宅から駅まで40分程かかりますが電車に乗ってしまえば20分弱で学校に着きます。

つまり1時間もかからない。


「ええ、義足にしてから歩くのが楽しくて」


「なるほど」


「それから授業を受け、生徒会の仕事を済ませ、放課後。病院で鎮痛剤をもらって──」


「鎮痛剤の用途は?」


幻肢痛(ゲンシツウ)といって、たまに足が痛くなるんですよ。寝付けないこともあるので常備しています。まあ、この身体になってから数年経つので幻肢痛の頻度はかなり減ったのですが」


「……ほう」


蜜花さんはもっと掘り下げたいけど、足の話をされてしまってはそれも(はばか)られるみたいです。


「それからは深夜2時くらいまでファミレスで勉強してました」


「どうしてそんな遅くまで」


「たまにやってしまうんですよ。没頭しすぎてしまうと言いますか……なので恥ずかしながら、その日は自宅に帰らずネットカフェの一室を借りて寝ました」


「それを証明出来る人物は?」


「人物はいるかは分かりませんが、二店とも監視カメラに映っているでしょうしレシートもありますよ」


財布を取り出し2枚のレシートを机に出す。

中身は綺麗なもので、レシートを溜め込むような人物ではなさそうです。


ネットカフェのものには【2時30分から7時まで】と書かれています。

つまり犯行時刻にはずっとネットカフェにいたわけです。

しかも監視カメラの映像という証拠付き。


「ネットカフェにはよく泊まりに?」


「しょっちゅうではありませんが、暗くなったら自宅に帰るのも大変ですので……ネットカフェを出てからは学校に行って、授業が終わったらすぐに帰宅しましたね。夜20時くらいに警察の方から自宅に電話がかかってきました。それからはずっとこの自室に」


「……うん。見事なアリバイだね。まるで、段取りみたいに」


事件が起こるのが分かっていたようなアリバイ。

かなり怪しいのに、崩せないであろう証拠。

蜜花さんの嫌味を含んだ言葉に上品な微笑みで返す蛾原先輩。


「探偵さん。私は自分の手で他人を殺めようだなんて、思ったことはありません」


綺麗な口調でそう言った。

ヒメさえ聞き逃しそうなくらい小さい呟きで。

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