08.【もうひとつの現場】
「疑問を持つのは良いことだよン。名探偵、君は良い助手を持った。疑問を言葉にする、無知を恥じず知ろうとする。それは素晴らしいことだ。すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する。のだからね」
「どうして毒殺なのか」くらいの疑問を口にしただけなのにシデムシ先生がすっごい褒めてくれた。
褒められてる理由はよく分かりませんが「えへへ」とにやけてしまう。
「もうひとつほど、疑問が君の頭の片隅にあるはずだ」
そう言ってシデムシ先生は自分の眉間を人差し指でとんとんと叩く。
ヒメが知りたいこと。
蜜花さんの推理を聞いて思ったことは、
「田中先生が殴られて、気絶させられた場所は?……でしょうか」
「そうだねン。どこだろう」
ふたりして蜜花さんに視線を向ける。
彼女は感情がなくなったような顔でこちらを睨んでいる。
「まず、被害者が着ていた服はタンクトップにトランクスのみ──」
「ほとんど裸じゃないですか!そんな姿で屋上に放置!?」
「なにを言っているんだい?目の前の彼はそれ以上に裸じゃないか。それをまじまじ見れているのに下着姿程度で赤面とは」
見えなくて本当に良かった!!!!!!
見てたらトラウマ必須。一生その姿がちらつくことだったでしょう。
「ボクの話の腰を折らないでくれないかな?……わかる通り、外に出歩くような服装ではない。犯人が頭の傷を縫える余裕があったのなら『被害者の家』が妥当じゃないだろうか。まあ昨日のうちに小金井警部補にその推理を伝えてあるんだけど音沙汰がないから別の場所かもね」
「いや、彼の自宅で合っているよン」
「は?」
シデムシ先生はニタリと笑って白衣のポケットから数十枚の写真を取り出して紅茶パーティーの机に置いた。
「小金井くんは初め君たちも『もうひとつの事件現場』に来てもらうつもりだったのらしいのだけど。異臭はするし、女子高生には不適切なものばかりだったらしくてね。調査に来なくて良いように彼が気を利かせて全て写真におさめたそうだ」
紳士な小金井警部補。
素敵です。
蜜花さんは置かれた写真の束を手に取り、素早い手つきで確認していく。
確認し終わった写真はヒメに渡された。
[ゴミばかりの部屋][コンビニ弁当やお酒の空き缶で溢れている洗い場][脱いでほったらかしの衣服]。
つまり汚部屋。教師をしている人物にしてはあまりに【人間以下の住まい】。
それから[汗やこぼした食べ物だとかで汚れきったベッド][ベッドの一部には飛び散った血液][割れた酒瓶]。
紛れもなくこの部屋で田中先生は酒瓶で殴られ、気絶させられた。
「……写真でも臭く感じるんですが、気のせいでしょうか?」
「視覚的な影響の幻臭だね。すっぱいものを見て口がすっぱくなるみたいなものさ」
ホラー漫画の気持ち悪い幽霊が書かれているページだけ異様に汚く感じてしまう。
まさにあれです。
「小金井警部補が気を遣ってくれた『臭い』に関しては分かりました。でも女子高生に不適切なものっていうのは?」
「大量のポルノ。しかも『女子高生モノ』だそうだよン」
「──ひぃっ!!!!」
おぞましい。
そんな教師がいる学校に今までなんの警戒もせずに通っていたなんて。
「大量というのはどのくらいかな?10枚程度なら正常レベルだと思うけど」
「1枚でも異常ですから!不潔です!教師以前に人間失格です!」
「じゃあキミは大人向けBL漫画を1冊も持っていないと?」
「な、なんですかその比較は!」
そんなの持ち出されても『あー、なんだ。それと同義か』だなんて納得するわけがない。
崇高なアートと下劣な娯楽物を一緒にしないでいただきたい。
そもそも女の子が全員BL好きというのは偏見です。
「ざっと2000枚のDVD。スマホにもダウンロード動画がかなりの数」
「言い逃れできない。『変態教師』、確定だね」
「そしてこの事件を読み解くためのアイテムがひとつ」
隠し持っていたであろう一枚の写真を白衣の胸ポケットから取り出して蜜花さんに渡す。
変な写真だったらどうしようと思いましたが、小金井警部補がヒメたちに見せるために撮ったものだから大丈夫でしょう。
覗き込む。
[『秘蔵動画』と書かれたプラスチック製の箱とビデオカメラ数台]。
箱のフタが開いていますが、中にはなにもない。
「ビデオカメラのメモリーカードも全て抜かれていた。ここから導き出される物語は、名探偵ではなくても読み解けるよねン」
ヒメに視線が向けられる。
「田中は、学校の生徒を盗撮してコレクションにしていたのでしょう……事件現場が田中の自宅ですから、家に呼ばれたか自分から尋ねた。おそらく犯人は盗撮された映像のなかに脅しの道具になるなにかを撮影された人物。ですから田中を殺害して盗撮された映像を取り返した」
「素晴らしい。この短時間で君は大いに成長している。まさに『探偵の助手』の称号にふさわしいほどにね」
本当に遺体が見えなくて良かった。
心底貴方のことが嫌いになったから。
この事件が解決されなくても良いと思ってしまうほどに。
「さて、妄想推理も終盤。容疑者はどれほどいたのだったかなン?」
「屋上の鍵を持っている生徒会長。スペアキーの存在を知っている蜂ヶ咲と女王蜂コミュニティとやらの約120人だね」
「そろそろ容疑者から外してくださいませんか?」
「被害者は『女子高生フェチ』ときている。その情報をもとに容疑者は減らせるのではないだろうか」
「……あ」
女王蜂コミュニティはみんな男の子。
ヒメは無実の証明はまだ出来ていないけど、例外です。
残るは彼女だけ。
この事件においてもっとも疑うべき人物。
生徒会長【蛾原マイ】の存在を忘れてはいけなかった。




